其の壱
目が覚めると、そこは自分の布団の上。
結局、話相手が誰なのか分からなかった。
我が娘、とか言ってたけど、お父さんはあんなしゃべり方はしない。
名前くらい教えてくれてもいいのに。
私が夢について考えていると、
「ピンポーン」と、インターホンが聞こえた。
「はーい」
急いで服を着替え(10秒)、応答する。
「どちら様ですかー?」
そこには、近所の秋菱さんがいた。おばさん、というとピンとくるだろうか。
「回覧板を届けに来たわ。お願いね」
「あ、どうもすいません。でもポストに入れてくれればよかったのに」
ポストを見ながら言う。
「窓が閉めっぱなしだったから、寝てると思ったのよ」
うっ・・・。耳の痛い。今は12時頃だ。
「その調子だと昼ご飯も作ってないでしょ。昼食はウチで食べる?」
秋菱さんは、私の髪を指して言う。
「!!」
「ふふ。じゃあウチでご飯にしましょ。ちょっとしたら来てね。」
そう言って秋菱さんは帰った。
・・・屈辱だ。みっともない格好を見られた。
「それもこれも夢のせいよ。なんであんな夢見たのよ」
あんな夢見せられたら寝坊するに決まってる。
「あ、学校行かなきゃ」
12時半。完全に遅刻だ。
でも秋菱さんはそれを問わなかった。なんでだろう?
よくわからないので、昼飯をご馳走する時本人に聞いてみた。すると秋菱さんは、
「学校閉鎖っていってたじゃない。」
「あれ?そうでしたっけ?」
記憶にございません。
「あなたがそう言ったのよ。覚えてないの?」
「う~ん」
何か思い出しそうな・・・
「あ、そうだ。思い出した。学校の生徒の半分がグレて休みだしたんだった」
「せんせーとかたいへんそうだね」
このセリフは秋菱さんじゃない。
いや、苗字は秋菱なのだが容姿は子供っぽく、つまり秋菱さんの子だ。
元気のいい男の子。まだ幼稚園児。さっき幼稚園から帰ってきた。
ちなみに父親の方はは隣で今日の新聞を読んでいる。
畑仕事が終わったばかりみたいだ。
昼食が食べ終わって、
「ごちそうさまでした。皿洗いはやっておきますね。」
たまに今日みたいにご馳走になるので、これぐらいはしている。
「あら、ありがと。助かるわ~」
皿洗い終了。今日はいつもより綺麗に磨けた気がする。
「じゃ、失礼しました」
早々に立ち去ろう。
「一人位増えたって変わらないわよ。皿洗いまでしてもらって悪かったわね」
「いえいえ。こちらこそ。昼食、ごちそうさまでした」
――日常。平和。
それは、突然破られた。