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リリアンが目覚めてから三日後、昼過ぎにハンスが第三を訪ねてきた。ちょうど夜勤明けだった俺は帰るところだったし、ハンスは仕事を終えて帰るところだったので、取りそびれていた昼食を一緒にとろうと街の食堂までやってきた。

ハンスは存在自体がキラキラしいので、街の食堂にいるのは目立つのだが、店の奥にある個室を店主に頼んで用意してもらった。それぞれいくつか注文し、全部一度に運んでもらってからやっと一息くことが出来た。テーブルに置かれた香茶をお互いに飲み干し、本題に入る。


「 報告が遅くなってすまない。色々ゴタゴタして遅くなってしまったが、治療師のお許しが出た。もう普段通りに生活していいそうだ。」


そう言ってにこやかにしているハンスは嬉しそうで、その様子を見て本当にリリアンが目覚めたんだと、やっと実感がわいてきた。


「 しかし、意外だったのは君が連絡を受けてすぐにリリアンの元に来なかったことだ。どういうことなんだい?何かリリアン以上に大事なことがあったのかい? 」


暗にリリアンに会いに行かなかったことを責めているのはわかったが、それよりもしておきたいことがあったのだから仕方がない。本当はすぐにでも、側に行きたかったとしても。


「 ・・・いろいろと準備をしていた。」

「 準備? 」

「 ああ。」

「 では、とうとう申し込むのだね! 」


嬉しそうに俺を見ているハンスは本当に喜んで見えるので、不思議に思ってしまった。


「 ハンスは反対しないのか? 」

「 ふ、するわけないじゃないか。ちょっとむかついてはいるけれど、『 妖精リリアンを守る会 』の会員である君にリリアンを任せることが出来るのなら、これ以上喜ばしいことはないよ。」


ほら、これはお祝いだよ! と、ハンスが俺のグラスに飲み物を注ぐ。にこやかにしていたハンスがふと、真面目な顔つきになって問いかける。


「 ひとつだけ聞かせて欲しいんだが、君はちゃんとリリアンの事が好きなんだよな? 」

「 ・・・ああ。昔から、ずっとだ。」


ハンスは知らないだろうが、俺が同化かわってしまう前も後もリリアンへの想いは変わることがなかった。むしろ同化してからの方が執着度合いが進んでいる気がする。これもリリアンのもつ『 いとし子 』の性質のせいなのだろうか。そう考えると純粋にリリアンの事を愛しているとか、好きだとかという事を言えなくなってしまいそうで、自分を支えている土台がぐらつくような気がしている。


「 もし、俺の手でリリアンを幸せにできないのなら、幸せにできる奴が現れるまで守りたいと思っている。」

「 そんなことは心配しなくてもいいよ。リリアンはちゃんと今の君を見て好きになるはずだからね。それに、多少愛想がなくて、頭が固いだけの武骨な男とはいえ、僕のお眼鏡にかなって『 妖精リリアンを守る会 』の会員になったんだから、君がダメならば会員になることを認めた僕もリリアンを幸せにできないという事になってしまうじゃあないか。まあ、君は女心もわかっているようには到底見えないけどね! 」

「 武骨・・・。ああ、まあ、そういう事になるのか? 」

「 そうだとも、武骨なジークリオン君。だから、君は大船に乗った気持ちでリリアンと接すればいいと思うよ。君は僕のお墨付きなんだからね!! 」


あーよかった。と、にこやかに笑うハンスに褒められているのかけなされているのかよくわからなくなってしまっているが、ハンスのお許しが出たという事は、認めてくれているという事なのだろう。


「 で、君がリリアンのもとに来れなかったのは、例の騒動と関係あるのかい? 」

「 ・・・。」

「 まあ、言えないのはわかるけれど、もう君一人の体ではないのだから十分に、十分以上に気を付けてくれたまえよ。」

「 ・・・わかっている。」


変な言い回しをしてはいるが、ハンスなりの心配の仕方だとわかっているので腹は立たない。それと例の騒動とは二日前から起きているものを指しているという事はわかるのだが、関係者ではないハンスに情報を教えることはできないので、物わかりのいいハンスに便乗してごまかすことにした。


例の騒動とは今王都周辺で起こっている小競り合いだ。それも普段ではありえない件数がおこっている。


少し前まで仲良く酒を飲んでいた連れ同士が次の瞬間、薄汚くののしりあい、その険悪な様子が広まっていき乱闘騒ぎになる。そして騒ぎが収まった後に話を聞くと、みな一様に『 なぜこのようなことになったのかわからない。急に目の前のやつが憎たらしくなった。』というのだ。

その様な事件が一件だけではなく、場所と人、きっかけが違うだけで何件も起きており、すべて最後が同じになるというのは異様としか思えず、何かがあるのだとしか思えないのだった。

巡回中の隊員が総出で当たってもあとからあとからキリが無く、小さい争いから大人数の殴り合いまでおこっており、治安維持をしている第二部隊はてんてこまいだ。もめ事や小競り合いは次々とわいてくる。しかし人員も無尽蔵にわいてくるわけがないのだ。もめ事を納めてすぐに次の小競り合いを納めに行く第二部隊の面々は積み重なる疲労に今にも倒れそうになっている。事態を重く見た宰相の判断により、第三の半分が治安維持に駆り出され、いまは第二の指揮下にいる。残りの半分はこの事態に関しての情報を集めて分析している。

しかし、どこに行っても、誰に聞いても似たような話しか聞けず、集まった情報でわかったことはほとんどと言っていいほど何もなかった。

事件が起きた場所やかかわった人間の住居など、特に共通点があるわけではなく、推測も立てることが出来ない。そのこともまた先行きを不透明にしており、第二だけではなく第三の隊員たちにも暗い影を落としていた。


「 ところで、ジークリオン君。リリアンにはいつ頃会いに来るつもりなんだい? リリアンからもいつ来ることが出来るのか聞いてこい、と、せっつかれてね。あ、でも君をねぎらいたかったのも本当だからね。

まあ、とにかくリリアンには話が出来るようにしておくから本人に直接申し込むといいよ。一生に一度の女の子の夢とロマンが詰まった、だーーーーーいじな話だもの! ちゃんとしないと!

しかし、ずいぶん疲れた顔をしているね。そんな顔をしていたら怖がられてしまうよ。ちゃんと休んで顔色を良くしないとまとまるものもまとまらないよ! 」


聞いているのかい? ジークリオン! の声に、意識が浮上する。どうやら少し考え込んでいたようだ。


「 ああ、聞いている。明日は休みだからフリューゲルス家にいくよ。リリアンの顔も見たいし、大事な話もある。」


前半の方は少し聞きのがしたが、あわててごまかす。聞いてなかったとわかるとハンスは拗ねる。

拗ねたハンスはしつこいんだよな。


「 だ、大事な話だね!うん、わかった。リリアンが逃げない様にしておくから思う存分話すといいよ。」

「 ははっ、思う存分ってなんだよ。」


ハンスの目がキラキラして頬が赤くなっている。何を興奮しているんだか。ははは。本当にハンスはおもしろい奴だ。


しばらくリリアンの事を話してからハンスと別れ、そのまま第三の宿舎ではなくアイゼンバルーの方に帰った。明日フリューゲルス家に行くための支度をするためだ。


遅い時間に昼食を食べたので夕食を断り、寝台に入る。横になりながら明日の行動をなぞる。リリアンに会ったら先ずは無事を確認して、その後はタイミングを見て世間話をしよう。何かいい話題はないものか・・・。そうだ、この間読んだ本とかはどうだろうか。かなり詳しく養蜂について書かれていたものだが、蜜がけの菓子が好きなのなら気に入ってくれるかもしれない。

そして、もしも、もしもだが、うまく体の一部分、指先などに触れることが出来れば、施した術を破る事が出来るかもしれない。

その後、もし思い出してくれたらリリアンは俺を受け入れてくれるかもしれない。でも気持ち悪がれて嫌われてしまうかもしれない。しかし、もしそこにまだ好意があれば婚約したとしても嫌がらないかもしれない。


リリアンが微笑んでくれたら、きっと・・・。


そこまで考えたところで、意識は深く沈んでいった。


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