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何とか仕事を終え、夜勤明けに直ぐにフリューゲルス家に向かう。

リリアンが目を覚ましたという連絡が来なかったからだ。少し非常識な時間なのは重々承知だが、先触れを出したことだしハンスがいるから大丈夫なはずだ、と思う。


フリューゲルス伯爵と夫人に挨拶もそこそこにハンスと共にリリアンが寝ている部屋に入る。そこには昨日のまま、退出した時のままのリリアンがいた。


「 ずっとこのままでね・・・。でも顔色は赤みをさしてきているんだ。」

「 ・・・そうだな。」


部屋の中は朝陽で明るいはずなのに二人で口をつぐむと空気も雰囲気も暗いものになる。なんとも言えない雰囲気になったときに執事のロイドがハンスを呼びに来た。ハンスに頷くとハンスは気づかわし気な目線を投げかけて出ていった。吸い寄せられるようにリリアンが寝ているベットに近づいて行く。


もし、このまま目覚めなかったら・・・。


そう考えただけで足元がぐらぐらと不安定になり、膝を床に着く。直ぐ目の前には寝ているリリアンがいる。規則的に上下する胸が生きているという事を確認させてくれてはいるが、どうしても安心できない。


「 ・・・リリアン、たのむ目を開けてくれ。」


どのくらいの時間そうしていたのがわからないが、気付くとすぐそばにハンスが立っていた。


「 本当はこのままここで僕と一緒にリリアンの目が覚めるのを待っていてほしいんだが、時間のようだよ。」

「 ・・・ああ。」


そう言ってゆっくり立ち上がる。こんなにも堪えるものだとは思ってもみなかった。今までこの手を離そうとしていたのか。


リリアンの瞳が見えない。

リリアンの声が聞こえない。

リリアンが動かない。


この世の中が灰色になる。



******



「 隊長、いい加減にしてくださいよ。」

「 ・・・。」

「 隊長! 」

「 あ、どうした、カレン? 」

「 どうしたもこうしたもありませんよ。一体全体どうしたらこんなことになるんですか? 」


どん、と、たたかれた執務机の上には決済済みの書類が積まれている。外回りを禁じられた俺は隊長の判が必要な書類をおとなしく処理していたのだが、なにか不手際があったのだろうか?そのまま判を押すだけのものだったし、カレンに文句を言われるほどいい加減な仕事はしてないと思うんだが・・・。


「 それですよ、それ。」

「 決済済みの書類だが? 」

「 いつもの隊長ならいい加減に適当に処理して私がめんどくさい感じになるんですよ。宰相様にご迷惑をお掛けたりして。」

「 ・・・それはすまん。」

「 いいんです、それは。宰相様との貴重な時間なので、むしろどんとこいですわ。それよりも、この異常事態が気持ち悪いんですのよ!」

「 異常事態? 」

「 書類の処理が異常事態ですわ。こんなに問題なくサクサクと処理で来ているのが、もう、気持ち悪くて気持ち悪くて! 」


ほら、鳥肌が・・・。なんて言いながら他の隊員たちと頷きあっているカレンは心底嫌そうに見えた。


「 外に行けば行ったで被疑者をぼこぼこの瀕死に追い込むし、しかもその時の隊長の目に生気がない。隊員たちからは苦情が来るし、隠密になってないし。もう、なんていうポンコツ。」

「 ・・・すまん。」

「 自覚あるんならきちんとしてくださいよ。ただでさえ隊長は目立つんですから気を付けてくださいよ。」

「 ああ、ありが・・・。」

「 宰相様に迷惑がかかるようなことがあったら、容赦しませんからね。」


妙に迫力ある据わった目で言われてお礼を言おうとしていた口をつぐむ。

確かに宰相の一声で作られたこの第三はあまり評判が良くない。文官の様に宰相の執務室に出入りしているのに何にも実績がない。陛下も認めてくださって以来、直接文句をぶつけてくる奴らもいないが、胸中で色々思っていることはあるのだろう。何せ集められたのは集団生活からはみ出してしまった者たちばかり。出身も家柄も年齢もバラバラ、そのうえ隊長(トップ)が若造だ。妬み、やっかみ、恨みもあるだろう。

悪目立ちする自分がしっかりしていないと第三にすべて跳ね返ってくる。


「 すまなかった。少し頭を冷やしてくる。」


そう言って椅子から立ち上がれば部屋の中に安心を表しているのか、柔らかい黄色があふれだした。こんなにも心配をかけていたらしい。いたたまれなくなって振り向くこともできずに部屋を出た。



******



「 あら? 隊長さんではありませんか? 」


働く者たちの休憩用に置いてある中庭のベンチに座って空を見上げていると声を掛けられた。この声は確か仕官しているレジの姉だったはずだ。


「 休憩中に申し訳ありません。いつもレジがお世話になっております。あの子、ちゃんとできていますか? 」

「 ああ、心配ないですよ。」

「 最近会えていないもので、心配だったんです。隊長さんがおっしゃるのなら安心しました。申し訳ありませんがあの子にたまには家に帰るように伝えてください。」

「 わかりました。伝えておきます。」

「 本当にお邪魔してしまって、申し訳ありません。休憩中でしたのに失礼しました。」

「 いえいえ、大丈夫ですよ。もう戻るところでしたので。」

「 そうでしたか。私も戻るところでしたの。途中まで、ご一緒させていただいてよろしいですか?」

「 ああ、かまいませんよ。」


ふう、と、一息ついて立ち上がるとキラリと日差しが目を射した。

眩しさに一瞬目をつむるが、同時に何かの気配を感じた。あんまりいい感じはしない。さっきまでは感じなかったのは、カレンが言ってた通りに心、ここにあらずだったということなのか。


ああ、これは確かにポンコツだったな。


「 おまたせしました。では、行きましょうか。」

「 はい。」


分岐する角まで一緒に歩いてレジの姉とは別れた。

そのまま第三の部屋に戻り、執務を再開した。何かを感じてくれたのか、カレンも部隊の皆も何も言う事はなく、そのまま日勤は終わり夜勤の交代の者がやってきた。引継ぎをして寮に帰宅したジークリオンにハンスから知らせが届いた。


リリアンが目覚めた、と。


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