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「 ドット=フリューゲルス伯爵。リリアン嬢との婚約をお許し願いたく参りました。」

「 わかった。了承しよう。」


猛反対なのかと思ったら意外にも了承の返事がすんなりともらえたことにびっくりした。いかにも気に食わない、面白くないというような顔をしてそっぽを向き、黒紫色のオーラを発生させている伯爵の横で、にこにこと黄色のオーラを振りまいている夫人の様子があまりにも正反対で現実味に欠ける。ハンスが驚きを隠しきれずに伯爵に話しかけた。


「 父上、よくお許しになりましたね。」

「 先々代からの約束をここで破るわけにはいかんからな。」


そこまで言うと伯爵が猛烈な勢いで俺の方を向いて大声で話し出した。


「 だがしかし!!!!!まだお前を認めたわけではない!!この私が許すまでリリアンに二人きりで会ったり出かけたりすることは許さん。わかっているだろうが触れるのも禁止。笑いかけられるのも禁止。呼ばれるのも禁止。視界に入るのも禁止。あと・・・。」

「 ドット、いい加減になさいな。この婚約は先々代からの政略結婚なのよ。ジークリオン君だけ攻めるのは間違っていることぐらい貴方ならわかるでしょ? 」


そこまで言って伯爵から俺へと視線を移した夫人は、喜びのオーラから一転、青白いオーラをまとっていた。


「 でもね、私はリリアンの母親でもありますの。もしリリアンがジークリオン君との結婚によって不幸であったとしたら、そしてそれを改善する姿勢が見られないのならこの話を潰させていただくわね。そしてリリアンが幸せになれる政略結婚先を見つけさせていただくわ。」


にっこり笑ってはいるが目を細めながら話す夫人は今までで一番怖かった。はっきり言って伯爵なんか目じゃない。『 覚悟はよろしくて? 』と、問われた気がする。夫人を敵には回さない方がいいという事は俺の心に二重に刻み込まれた。


「 もとよりリリアンの意向を無視するつもりはありませんでした。それと、小さい頃は慕っていてくれたとは思います。」

「 そこなのよねえ。あんなにジークリオン君のお嫁さんになるって言っていたのに急にそっけなくなっちゃって。高熱のせいとは言われたけれど、何なのかしら。ジークリオン君はなにか知ってる?」

「・・・いえ。何かわかりましたらすぐにお話しします。」

「 そう?それでしたら安心だわ。何かわかったらすぐに教えてちょうだいね。」


可愛らしく小首をかしげる夫人の眼はとても鋭い。


------ 話すとしても今ではない。


遠い記憶の中の爺さんの声が聞こえた気がした。



*******



本当はこのままリリアンの意識が戻るまでフリューゲルス家に留まりたかたのだが、そういうわけにもいかない。俺がいない時にリリアンの意識が戻ったらすぐに知らせが来るようにロイドが請け負ってくれたが、それでも職場に向かう足取りは軽くなることはなかった。


「「 お疲れ様です。」」

「 遅くなってすまなかったな。」

「 いえ、まだ交代の時間ではありませんので大丈夫であります。」

「 直ぐに引継ぎに入ろう。」

「「 はい!」」


早番と遅番の間で引継ぎをする。

昨日の夜更けに繁華街でもめ事があったため、警備担当の第二部隊の隊員が出動したが、行ってみると街の住人が酔っぱらった状態でひっくり返っており、加害者だけが見当たらなかった。野次馬の話を聞くに一瞬の事だったらしく何が起こったのかわからなかったらしい。ひっくり返った住人の被害はかすり傷程度でしかなく、特に被害がないことが引っかかり何かあるのではないかと第三に回ってきたらしい。


「 わかった。同じ時刻に現場に行ってみることにする。」

「 それではこちらの方で報告書を作成してありますので最後の部分だけを後で記入して提出してください。」

「 いつもすまないな、カレン。」

「 いえ、隊長に任せておくといつまでたっても宰相様に提出できませんから、当然の事です。」

「・・・そうか。」

「 はい。」


とってもいい笑顔のカレンを残し、隊員を二名連れて現場に向かう。今から行けば丁度事件発生時と同じ時間帯になるはずだ。


「 いくぞ。」

「「 はい。」」


道すがら隊員たちと最近の出来事をなぞりながら歩く。

大きな事件は起きてはいないが、小さいけんかや言い争いが増えているようだ。おかげで治安を受け持つ第二が超過勤務だと漏らしているらしい。大体がここ、王都から北西に向かって件数が増えているようで、特に『 禁足地 』に近いほど増加しているようだ。


『 禁足地 』とはこの国と隣国の間に横たわっている広大な土地の事で、遥か昔はそこに今は無いある王国が栄えていたらしい。

詳しいことを知る人間や記録は残っていないのだが、言い伝えによると賢王と名高い王が治めていた豊かで平和な国であったようだ。だが覇権を欲する反乱が起き、その時聖霊の暴走により一夜にして国が無くなったのだという。

王座があった場所には瘴気を生み出す石があり、今でも瘴気が発生している、と言われている。それに瘴気を生み出す石は暴走した聖霊の成れの果てとも。

豊かで美しくあった森は生気のない森になり、生命力にあふれた水は濁り生物の住めない土地になってしまった。たまに瘴気に当てられた獣が凶暴化し、近隣の村などに被害があったりするくらいだったが、最近はそれだけではなく近隣の村でも小競り合いが増えてきている。緩やかにだが増えているというのは何かの前触れのようで不安だ。


「 隊長、何かありましたか?」

「 いや、すまん。考え事をしていた。・・・ここか?」

「 はい。被害者の話によるとこの辺りにうずくまっていたらしいです。具合が悪そうだと声を掛けたら襲われた、と言っていましたが・・・。」

「 そうか。」


うずくまっていた辺りを見るが、ちょっとだけ地面の色が違うような気がした。何かあるのか、と、片膝をついて地面に顔を近づけ、そのまま目の前の色が違う箇所の地面に意識を向ける。


・・・これは?


地面を黒いもやが覆っていたので少し掘ってみると中から手の小指の詰めほどの透度の高い黒い石が出てきた。この小さい石が黒いもやを出していた原因ならばこれはこのままにして置いておくのはダメな気がする。

俺がかけらを見ていると横から隊員が覗き込む。


「 隊長、これは?」

「 わからない。ただ、無関係ではないような気がする。」

「 わかりました。でしたらこの袋に入れてください。持って帰って調べてみましょう。」


隊員が広げた小袋にかけらを入れ、そのまま背中の背負い袋に入れる。被害者と話ができるように約束をしていたのでこのまま向かう。違和感を感じて横を見ると隊員が一人足りない。振り向くと背負い袋を片手で握りしめたままうつむいている隊員がいた。


「 おい、行くぞ。」


もう一人の隊員がぼうっとしていた隊員を呼ぶ。


「 ああ。すいません。」


慌ててついてきたのを確認して足を進める。しばらく歩いた時、何かの気配を感じて背筋がこわばった。振り向いても何もない。気のせいかと思い先を歩いている隊員たちの後を追った。










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