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「私の婚約者 #1」と同じものです。

「 私にはね、大事な人がいるのです。心に思い描く度に暖かくなるような、くすぐったいような気持ちにさせてくれる。」


こんな気持ちになるのは、リリアン、君だけなんだ。


「 ふとした時に思い出して、似合いそうだとか、好きそうだとか、そんな瞬間があの人につながっている気がして。そんな時間が私の幸せな時間です。」


本人を前にしては言えないけど、変装している君マリアンヌになら言える。

この気持ちを、どうか、受け取ってくれないだろうか。



******



俺は小さい頃の記憶があやふやだ。

洞穴で上から落ちてきた岩からリリアンをかばった時に足を潰された。その時に助けてもらった聖霊様と同化をしたために前後の記憶があやふやになったらしい。

『らしい』というのは、同化した『命の聖霊 プルシャン』様の受け売りだからだ。


はっきりと覚えているのは、落ちてきた岩に俺の足が潰された時のあの子の泣き顔だ。

確かあの子のいるところに大きな岩が落ちるとわかった瞬間・・・。


「 ジークリオン様、おはようございます。今日も素敵な朝ですね。」


警備管理部第三部隊の部屋の扉を開けると、女性用の文官服を隙無く着こなしたカレンが、朝から胡散臭い笑顔で挨拶してきた。


「 おはよう、カレン。それと、その顔やめろ。気味が悪い。」


持ってきた荷物を自分の机に置きながら言うと、背後に殺気を感じた。気付かないふりして振り向くと紫色のオーラをまとってにこやかな顔をしたカレンが手に書類の束を持って立っていた。


「今日は書類書きからの開始です。鍛錬はこの後にどうぞ。」


言いながらも、どさりと音を立てて俺の使っている机に大量の書類の束を置く。


「 カレン、何かあったか?」


一番上の書類をめくりながら問うと、机の端に乱暴気味にに湯気の立ち上がっている香茶が置かれる。

カチャンという音に部屋の中の隊員たちの恐怖を示す青いオーラが揺らぐ。


ああ、虎の尾を踏んでしまったようだ。


「隊長、早く婚約でも結婚でもしてくれませんかね。朝から香水を異常にぶり撒いているピンクのフリル達に囲まれてきゃんきゃん吠えらる身にもなってくださいよ。」


音もなく寄ってきた後に眼鏡越しに俺をにらみつけるカレン。


「 が ま ん の げ ん か い で す 。」


そう言ってくるりと背を向けカツカツとヒールで歩いていくカレンを見るに、もうそろそろきちんとしなくてはいけないな、と机の右側の小さい引き出しを開ける。

引き出しの中には渡しそびれた『べアール菓子店』の蜜がけ菓子がいくつか入っていた。

最後に買った蜜がけ菓子は5日前、だんだんと危険な感じになってきたので青いオーラを放っている室内の隊員たちに向かって放り投げる。


「 おい、朝から悪かったな。よかったら食べてくれ。」


おおよそ文官に見えそうでない人相で怖い顔の中にも嬉しさを表す黄色のオーラがちらほら見えているので、どうやらまだ喜んでもらえてるようだ。

中でも体が大きくて無表情だが、甘いものが大好きなレジに投げると嬉しそうにオーラが揺らめく。


「・・・ありがとうございます。」

「 いつもすみませーん。 」

「「「 あざーす! 」」」


レジの言葉に続いてお礼を言う隊員達に手を軽く振ると、今日の仕事の割り振りをする。


「 レジはカレンと一緒に残ってくれ。解散。」

「 はっ。」


それぞれの仕事に取り掛かるために退出していく隊員たちを見送った後、俺とカレンとレジは宰相から受けた仕事の為に宰相様の執務室に向かった。



******



宰相の執務室で確認事項などの打ち合わせをした後、休憩好きな宰相の計らいでお茶を飲むことになった。

こうなることはわかっていたので、先ほどの配り残した『べアール菓子店』の蜜がけ菓子をカレンに渡す。

護衛騎士のマイクとカレンがお茶を用意してソファに座ると、宰相が蜜がけ菓子をつまんで口に放り入れながら話し出した。


「 ところで、ジークとリリアン嬢の婚約はうまくいっているのか? 」

「 ・・・っ!! 」


飲んでいたお茶を噴き出さない様にした結果、盛大にむせてしまった。

咳き込む俺の背中を撫でてくれるような気の利く人間はこの部屋にはいない様だ。


「 ああ、そんなに咳き込んだら苦しいだろうな、大丈夫かい? 」


ごほごほと咳き込みながら宰相を見ると楽しそうな嬉しそうな黄色いオーラが揺れている。顔はとても心配そうに見えるのに。


「 ・・・いえ、まだ何も・・・。 」

「 ええ? あんなに足しげく通っているのに『 まだ何も 』なんですか!? 」

「 ・・・!! 隊長・・・。 」

「 うーん、思った以上に情けないね。もうさ、爺さんのころからの約束なんてやめてうちの姪っ子と付き合っちゃいなよ。 」


腕を胸の前で組みながらとんでもないこと言うな、この宰相おっさんは。


「 いえ、そのようなことはしません。彼女との婚約は小さい頃からの約束ですから。 」


ごほん、と、咳払いをして言うと、畳みかけるように宰相が言った。


「 約束だっていうけど、政略でしょ? だったら『 飛ぶ鳥を落とす勢いのトライグン家 』と縁続きになったらアイゼンバルーも喜ぶと思うんだけど。フリューゲルスには違う貴族とことくっつけちゃうし。 」


あそこなんてどうだろう、などと真面目そうに言っている宰相だけど、オーラを見るまででもない、目が笑ってるんだよ。それに、そんなことされたらたまらない。


「 いえ、結構です。私はリリアンと婚約します。守るって約束しましたから。 」


えー、なんだよー。なんてすね始めた宰相のお守はカレンに任せて、少し残った香茶を飲み干す。

この宰相おっさんのどこがいいのか理解に苦しむが、たで食う虫も好き好きという事なんだろうな。


突然すね始めた宰相を見て固まったレジに目配せして立ち上がる。護衛騎士のマイクと目があい、すみませんでした、と、目礼された。お互い大変ですね、と苦笑し返すと宰相に向かって退室の礼をする。


「 明日は遅番なのでこのレジが私の代わりに入ります。」

「 ああ、明日申し込むのか。頑張って来いよ。 」


唐突に発せられた言葉は頭の中を素通りして、一周回って理解した。


なんで俺が明日の朝にフリューゲルス家に行くことがばれてるんだ!!


そんな俺の動揺ぶりを見てニヤリと黒く笑う宰相。その隣でその宰相に見とれているカレン。部屋の中は黒とピンクのオーラですごい色彩になってきた。


「 目を見つめてちゃんと話すんだぞー。」


何も言えずに踵を返した俺はそのまま宰相の部屋を退室した。

この宰相おっさんには勝てる気がしない。

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