帝都ルーインハイド
1週間から2週間のペースで投稿できるかなぁ
じいさんやでかい男は、俺が記憶喪失だと思っているようだった。
ただそれはそれでいいと思った。「実は俺はアルディじゃない」と言っても余計ややこしくなるだけ。とりあえず俺は、記憶喪失のアルディを演じることにした。
俺が目覚めた場所は、“帝都ルーインハイド”にある“ローレンティア兵士訓練校”の医務室だと説明された。驚くことに俺は1週間、意識不明だったらしい。
目覚めた時、傍らにいたじいさんはこの訓練校の医務室で働いている医者だそうだ。
「すまない、私はこの手の症状に詳しくなくてね。でも、安心しなさい!帝都にいる優秀な医者を紹介するから!」
じいさんは親切にも、腕の良い医者を紹介してくれるそうだ。
この医者のじいさんは、本当に俺のことを心配してくれてるみたいで、「こんな若い子が本当に気の毒だ…」と何度も言っていた。
じいさんの親切心を無下にするのも気が引けて、今日は医務室で休み、翌日紹介された医者のところに行くことにした。
とにかく信じられないことが一度に起きた。元の身体がどうなったかもわからない。まず元の身体に戻れるのか?もし戻れるとしたら、あの謎の魔物がいたシュバルドの森に行くのが近道じゃないだろうか?問題はどうやってそこまで行くかだが…
そんなことを医務室のベッドの中で考えていたが、疲労のせいかその日はあっと言う間に眠りに落ちてしまった。
次の日、俺はじいさんから紹介状の入った封筒を渡され、紹介された医者のところに向かった。その医者は“キッシュ先生”と呼ばれていて、帝都でも有名な医者らしい。
「いい先生を紹介してもらえてよかったな!」
そう俺に声をかけてくるのは、医務室でキツい抱擁をしてきたでか男だ。
こいつの名前はジャクス=ラージア。
簡単に自己紹介をしてくれたが、どうやらこの“アルディ=マーゲン”と同じ帝都の訓練兵で友達らしい。
ジャクスは紹介された医者のところまで付き添いをすると申し出てくれた。
「診療所までの近道がある」とジャクスは、建物の間にある細道に入って行く。そこを抜けるとあっという間に診療所の目の前に出た。
ありがたい。
ジャクスの案内のおかげで帝都内を迷うことなく進むことができた。
じいさんとジャクスの親切心に、人間は俺が思っていた以上に親切な種族なのかと感心した。
そう、診察を受けるまでは…
「記憶喪失ねぇ。またあのじいさんめんどくさそうな患者を寄越して…。さっさと隠居しろよ…」
と、ぶつぶつ文句を言っているのは、紹介されたキッシュ先生ではなく、バズダという医者だった。
ジャクスと共にキッシュ先生のいる診療所を訪ねたのはいいのだが、キッシュ先生は遠方の村々に診療のため出向いているため不在だった。
その代わりに出てきたのが、このバズダとかいう中年の医者だ。
訓練校から紹介状を持っていると言うと、バズダはすぐに俺を診察室に通し、へり下るような態度とっていた。しかし、紹介状と同封されていたアルディの身の上の情報を見て、農村出身だとわかるとその態度が一変した。
「あの名門訓練校の兵士なら魔法使いか貴族の家柄だと思ったのに、農村出身とはな。張り切って損したわ」
患者が目の前にいるのに、見えてないかのように独り言を言ってる。
「いいから診察しろよ。おっさん」
正直診察とかはどうでもよかったのだが、じいさんの悪口にはイラッときた。
「田舎者の分際で、俺に指図するなよ。知らないようだから忠告しといてやる。患者は医者に従順になるのが一番なんだぞ」
俺にズイッと近づいて、凄んでくる。
当然怖くない。
「あっそうか。じゃあまぁ名門訓練校に帰ったら、診察は断られましたって上官に報告しとこうかな」
俺はニヤッ笑い、そう返す。それを聞いてバズダは苦虫を噛んだような表情をした。
「くっ…!誰が診察しないと言った!さっさとそこに座れ!」
俺はその顔を見て満足した。
俺は椅子に座ると、バズダは右手に白い手袋をつけて俺の目の前に立った。その手袋には魔法陣のようなものが描かれている。
バズダは俺の額に右手を当てる。
「響け、エコーブレイン」
詠唱をすると、右手が淡く発光する。
こいつ、魔法使いだったのか?それにしては魔法使いに媚びるような態度だったし、あの右手の手袋が特殊なのか?
と、俺は右手を観察する。右手の光を見ていると意識が少しぼーっとしてしまう。
バズダは訓練校から送られていたアルディの身の上の情報を元に、俺に質問をしてくる。どうやら反応を見ているようだ。
当然俺はアルディの身の上は知らない。おれはわからない、覚えてないと答え続けた。
「脳に変わった反応も見られない、身体も健康体だな。記憶喪失ってとこだろう。まぁ薬で様子見だろうな」
バズダはめんどくさそうに言う。
「もう質問はないな?診察はこれで終わりだ。俺は田舎者の相手をしてるほどヒマじゃないんだ。」
「薬を飲むだけでいいのか?」
俺はバズダに尋ねる。
「そう、薬を飲むだけだ。そうだ、もういっそ故郷の農村に戻ったらいいんじゃないか?身体を動かすのは大切なことだぞ。畑でも耕して身体を動かしてるのがお似合いだと俺は思うが?」
バズダはニヤニヤしならがら言ってくる。
「なるほど、身体を動かすのは大切か。わかった、参考にする。それでは」
俺は都合の良いところだけ聞いて診察室を出た。出る前にチラッとバズダの顔を見ると、俺が皮肉を全く聞いてない様子だったので、かなり悔しがっているようだった。
薬を貰い診療所を出ると、表でジャクスが待っていた。
「おっ!終わったか!診察はどうだった?」
「あぁ、記憶喪失だってさ」
「や、やっぱりそうだったのか!?ていうか、お前なんでそんなに落ち着いてるんだ!?」
「難しいこと言われなかったからかな。外出て身体動かすのがいいんだとよ。簡単な治療だろ?外で脳にたくさん刺激を与えろってさ」
あの中年医者はそう言ってた。俺にはそう聞こえてた、間違いない。
「それだけでいいのか?まぁそれならそれでいいな!やることが至極簡単だ!」
「てなわけで、俺の脳に刺激を与えるためにこの帝都を案内してくれ。」
「わ、わかった!しかしお前、性格変わったなぁ。前はもっと慎重な奴だったのに。口調もそうだし」
「ふーん、そうなのか。まぁ記憶失くしたからな!」
「記憶失くしたらこうなるのかぁ…」
ジャクスは不思議がりながら納得しているようだ。記憶喪失は便利だなぁと俺はつくづく思った。
「んじゃあザックリ、帝都の説明をするか!その前に…」
ジャクスは自分の懐を探る。
「これ持ってきたんだ」
そう言ってジャクスは懐から眼鏡を取り出す。
「お前の眼鏡預かってたんだ。お前眼が悪かったもんな!これ使ったら見えやすいだろ!」
「これ、俺のなのか?」
おかしい、眼鏡を掛けてなくても眼は普通に見えてるんだが?
何のための眼鏡だ?
とにかく掛けとこう。
俺は眼鏡を受け取り、かける。
ん?視界が逆にボヤけるかと思ったけど、ボヤけない。本当に何のための眼鏡だ?
まぁいいや。視界は良好なままだしな。
「見えやすくなった!助かった!」
「そうか!そりゃよかった!じゃあ続き話すぞ!」
ジャクスはその場に屈み込み、地面に絵を描き始める。
「まず帝都は大きな円形になっていて、その周りを防壁が囲んでいる。帝都の周りの森には魔物もいるから、その防衛のためだな」
ジャクスは大きな円を描き、解説を始める。俺もそれを覗き込む。
「帝都は身分によって住む位置が変わる。南から北にかけて、平民、商人、貴族と身分が分けられてるんだ。ちなみに今は貴族街にいる」
「ここは貴族街だったのか」
「キッシュ先生の診療所は帝都でも有名だからな、貴族も来るくらいだから当然だ。ちなみにあそこに見えるでかい建物が、我等の誇る皇帝がおられる城だ」
そう言ってジャクスは指を指す。指を指した方向にはとてつもなくでかい城が建っていた。
「リフォリア城だ。あそこの中に入れれば1番刺激的なんだが、そうはいかんよなぁ〜!俺も入ってみてぇよ!」
「まぁそりゃそうだよな。」
「てなわけで、俺のイチオシ!市場に行くぞ!」
「ここが市場か…。すげぇ人だ…」
ジャクスに案内されてきた市場は、すごい賑わいだった。俺はこんなにも多くの人を見たの初めてだった。
「ここは平民街と商人街の境目にある市場だ。安価で色々な物が手に入るから、平民層も人気があるんだ」
「へぇ〜面白そうなところだな」
「だろ!ここはいい刺激になるぞ〜!」
ジャクスと共に市場を進む。道には大量の露店が並んでいて、商人たちが立っている。商人の後ろには様々な商品を入れた箱がある。商人たちの威勢のいい声、買い物客の値切る声が響き渡っている。
「おっ!今日はリンブルの実が安いぞ!アルディ、これ食ってみるか?甘くて美味いぞ〜!」
「お、おう。ありがとう」
「おし!おっちゃ〜ん!リンブルの実2つ!」
ジャクスは商人に声をかけ、露店のカウンターに銅貨をおく。
「毎度!リンブルの実2つだな!」
そう言うと、商人はジャクスの方に指を指す。
商人の手が光り、商人の背後にあったリンブルの実が2つ、ジャクスの手元に飛んでいく。
商人は手に、手袋を付けていた。
また魔法か!?帝都には魔法使いだらけなのか?そう言えばあの手袋、バズダが付けていたの似ている。
よくよく周りの露店を観察すると、商人のほとんどが魔法で客の手元に商品を飛ばしている。他にも、商品を宙に浮かして客に見やすいように動かしている商人もいる。
「ジャクス、あれは魔法なのか?商人たちはみんな魔法使いなのか?」
「あぁ、そうか。こういうことも忘れてるんだな。ん〜そうだなぁ…」
ジャクスは少し考え込むと、少しニヤニヤしだす。
「な、何ニヤけてんだよ!気持ち悪い!」
俺はジャクスの肩を殴る。
「イテッ!まぁまぁ怒るなよ!後で教えてやるから!」
「後っていつだよ!?今じゃないのか!?」
「慌てんなって!もうちょいで夕飯時だから、もう少し市場を歩いたら、行きつけの飯屋に行こう!そこで話してやるよ。会わせたい奴もいるしな〜」
ジャクスは変わらずニヤニヤしている。
少し腹立つが、まぁもう少ししたら教えてくれると言ってるから我慢しよう。
俺は渋々納得する。
「おっしゃ!じゃあ市場見物の続きだ!」
その後、ジャクスに市場を連れ回された俺は…
「…人混みもう嫌だ…。」
早く森に帰りてぇ…。
人混みに酔ってしまった。
「なんだ?もうへばっちまったのか?まぁ、いい時間だし、飯屋に行くか!」
「そうしてくれ…。とにかく水でも飲みたい…」
ジャクスに連れられ、市場を離れ平民街へ向かう。飯屋は平民街にあるそうだ。
「平民街は基本的に平穏で安全な場所なんだが、一部治安の悪い場所もあるから、そういうところは近づかない方がいいぞ」
「へぇ、そんなところもあるのか。覚えとく。」
そんな話をして平民街を歩いて行くと、1つの店が見えてきた。
「さて、着いたぞ!ここが俺の行きつけの店“アリマン”だ!安くて美味い飯屋だから人気あるんだ」
ジャクスと店に入ると、中は人で溢れていた。なかなかの繁盛ぶりだ。平民だけでなく商人たちもいるようで、今日の売り上げの話などをしている。
「ジャクス!アルディ!」
声の方を見ると、3人の人間がこちらに向かってきた。
「おー!お前らもう来てたのか!アルディ連れて来たぞ!」
ジャクスは俺の腕を掴み、グイッと前に出す。
3人の内の1人が話しかけてくる。ヒョロッとした男だ。
「アルディ!気が付いて良かったな〜!本当に心配したぞ!」
「本当だよ〜!もう目を覚まさないのかと思った〜!」
次に話しかけて来たのは、小太りの男だった。
「顔色も良いみたいだし、健康そうで良かったね!」
最後に話しかけてきたのは、人間の女だった。人間の女は初めて見る。俺の肩をバシバシ叩いてくる。
ジャクスは興奮している3人を宥める。
「まぁまぁ、落ち着け。お前たちには大事な話がある」
「な、なんだよ。そんな改まって」
「実はアルディは……記憶喪失になっちまったんだ」
それを聞いて、3人は沈黙する。
そして笑い出す。
「ブッ!ハハハハハ!そんな訳ないでしょ!ジャクスも嘘が下手ね!」
女はそう言ってジャクスを叩く。他の2人も「やっぱり嘘か!」と言って笑い出す。
しかし、ジャクスは黙っている。
その反応を見て、3人は青ざめた顔になってくる。
「え…?嘘って言ってよ。本当にそうなの?アルディ?」
俺に向かって女は問いかけてくる。
「あぁ、残念ながらそうみたいなんだ。何も覚えてない」
「本当なのか?じゃあ俺たちが誰かもわからないのか!?」
今度はヒョロ男が聞いてくる。
「うん、わからない。ごめんな」
この言葉を聞いて、男2人は絶句している。女に関しては、今にも泣きそうな顔だ。
3人の顔を見てると、何やら罪悪感が湧いてくる。
こいつらも優しい人間なんだな…と俺は思う。
ジャクスがそんな3人を見かねて声を掛ける。
「そんな顔すんな!俺らよりもアルディの方が大変なんだぞ!それに今日、医者に行って診てもらったら、身体動かしたりして脳に刺激与えるのが良いらしいぞ!」
それを聞いて3人は少し元気を取り戻した。
「身体を動かして、脳に刺激を与えるっていうことは訓練も続けられるのかな?」
女はジャクスに聞く。
「それはわからないけど、その可能性あるよな!魔法の訓練もあるから頭も使うしな!」
「そうだよ!絶対戻るよ!」
ジャクス含め4人は、俺の記憶が戻るはずだと言って盛り上がっている。
しかし、俺には気になることがあった。
「ジャクス、聞きたいことがあるんだが、俺たち兵士も魔法を覚えられるのか?魔法は魔法使いだけが扱えるものじゃないのか?」
ジャクスはそれを聞いて、答える。
「そうだ、それをちゃんと説明しなきゃな!」
ジャクスは真っ直ぐ俺の方を見る。
「アルディ、よく聞け。俺たちはただの兵士じゃないんだ!俺たちはな、魔法使いに代わる新たな使い手なんだぞ!その名も……」
ジャクスは誇らしいように胸を張って語り出す。
「妙技の使い手“ウィザードリィ”!ローレンティア帝国の新たな守護者だ!」
ようやく書きたい部分の手前くらいまできました。ちょっとはしょり過ぎただろうか?