トモダチ
ねぇ、あなたにとって友達って、何?
心を許せるひと? 本当に?
本当に、その友達に心なんか許せるの?
あなたが友達に心を許してたって、友達はあなたに心なんか許してないかもしれないのに。
表向きは仲良くしてるだけで、実際はあなたのことなんかなんにも知らないし、知ろうともしてないかもしれないのに。
友達だから、信じられるって?
信頼なんて、破るためにあるんだよ。
どんなに信じてたって、裏切られることはあるんだから。
友達なんて、そんなもん。
たてまえで、仲良くしといた方が、きっとラク。
友情を裏切られて、泣きたくないのなら、最初から信じすぎない方がいいよ。
ガッコーが終わったら、トモダチとカラオケに直行♪
好きな歌を歌いまくって、食べて飲んで盛り上がる。
だけど、いつも仲のいい3人ぐらいで行くから、いろいろと面倒なこともあるんだよね。
3人だと、2対1で分かれやすいでしょ?
あたしは、いつも気がつくとひとりになってて。
歌ってても、誰も聞いてなかったりする。
「ねぇ、あたしの歌聞いてよー?」
なんて、言ったりすると、
「やだ。あんたの歌って、なんか古いし」
って、あからさまにウザイ顔されて、
「聞いてほしかったら、もっと新しい歌、覚えてきなよ?」
「そうそう。あんたの歌って、いっつもおんなじで、つまんなさすぎー」
2人から、そう言って、笑われる。
新しい歌なんか、あんまり知らない。
「これでも、新しいの入れたつもりだったのにー」
なんて、笑って返すと、
「新しいって、いつの? まだ誰も歌ってないのとか、歌いなよ。そんな前の曲、いつまでも歌ってんのなんて、あんたぐらいじゃん?」
みんなが歌うのは、配信されて間もないような新譜ばっかりで。
誰よりも早く覚えて、歌うことを競ってるような感じ。
だけど、次から次へと入ってくる新曲を、まだたいして歌えもしないのに歌うのって、あたしに言わせれば、そっちの方がつまんないと思うんだけど。
でも、そんなこと言ったってバカにされるだけだから、口には出さない。
ひとつの歌を何度も歌って、うまく歌えるようになりたいなんて思ってるあたしは、友達と意見なんか合わないみたい。
合わないんだったら、いっしょにカラオケになんか来なきゃいいのに。
誘われると、行かずにいられない。
だって、一度断ったら、もう二度と誘ってもらえないかもしれないから。
今日も、友達はあたしの歌の間はしゃべりっぱなしで、自分たちの歌が始まると、「あっ、それあたしが歌うー!」とか、マイクを取り合って、はしゃいでる。
あたしは、いつもカヤの外で。楽しいはずのカラオケなのに、本当は全然楽しくなんかない。
つまんない。カラオケも、友達の歌も、付き合いも……みんな、つまんない。
カラオケに行ったら、タバコ吸うのなんてあたりまえ。
お酒も、軽いのだったらふつうに飲むし。
別に、制服着替えてメイクしちゃえば、歳とかわかんないっしょ?
10代で、タバコとかお酒とかやめろって?
いいじゃん。自分でやりたくてやってんだから、カンケーないでしょ。
だいたい、20歳になったからって、急にお酒とかタバコ始めるコなんて、ホントマジでいないし。
ひとりだけ、イイ子ぶってたら、取り残されちゃうんだよ……わかる?
タバコは、オトコがいっしょだったら、吸わない。
だって、オトコの前でタバコ吸うオンナなんて、ちっともかわいくないでしょ。
あたしらまだ10代だし、かわいくいたいの。
だから、吸うのはオンナ友達の前でだけ。
でも、タバコなんてまずいだけで。
本当は、吸いたくなんてない。
だけど、吸わないでいたらガキ扱いされて、仲間はずれにされる。
そんなことのために、まずいタバコを吹かしてるあたしは、逆にやっぱりガキなだけなのかもしれない。
お酒を初めて飲んだのは、15の時
遅い? そうかもね。まわりは、もうみんな飲んでたし。
カラオケBOXで、みんながお酒をたのむから、あたしだけウーロン茶とか言えなかった。
ノリ悪いとか、言われそうだったし。
最初に飲んでみたのは、ライムサワーだっけ。
なんか、ヘンなみどり色してて、すっぱいような甘いような、変わった味。おいしいなんて、思わなかった。
ただ、アルコールでなんだか体がぼーっと熱くなるみたいで、少しだけテンションが上がった。
みんなお酒飲んで、タバコ吸ってるから、カラオケBOXの中は、いつも空気が悪い。
アルコールとヤニ臭さの混じった、最悪な匂い。
せまい部屋には、煙が充満してもやがかかったみたいになって、息苦しくもなってくる。
だけど、なんだかここにいると落ち着く。
なんでだろうね……居心地なんて、決していいわけじゃないのに。
このせまい空間に、自分のいる場所を見つけたようにも感じるからかな。
お酒がまわってくると、みんなタバコの本数も自然に増えてくる。
吸い切ってタバコの箱がカラになると、パシリに行かされるのは、いつもあたし。
「買ってきてよー早く!」
って、せかされる。
お金なんか、もちろん渡してくれない。あたしの自腹。
お店の中で買えるときはいいけど、吸ってる銘柄がなかったりすると、外に買いにいかなきゃならない。
コンビニ行って、すぐに売ってくれれば問題ないけど、やけに年齢とかにうるさくて、なかなか出してくれないところもある。
そうしたら、買えるまで何件もコンビニを回らないといけない。
買わずに帰ることなんて、許されない。
かったるそうにバイトしてるお兄ちゃんひとりの店で、ようやく買えて戻ってみたら、もうみんな帰ったあとだったなんてことは、何度もあった。
あたしのことなんか、誰も気にしてない。
いてもいなくても、おんなじ。
友達なんて思ってるのは、きっとあたしだけ。
他のコたちは、せいぜい都合のいい人数合わせぐらいにしか思ってない。
そんなこと、わかってるよ。
だけど、それでもひとりになりたくないんだもの。
仕方ないじゃない。
友達なんかじゃないのに、友達のふりして、どうなるって言うんだろうね?
こんなことしてたって、無意味なのにね…。
ねぇ、万引き……したことある?
あたしは、万引きは友達に強要されて、何度かやった。
やらなきゃ、仲間にしてくれないって言うから。
あそこで、あれを取ってきたら、仲間って認めてあげるって。
あたしは、これでもうまくやる方で一度も見つかったことはない。
万引きに、うまくやるもないって?
そうかもね。犯罪だもんね。
だけどね、警備員とかに見つかると、本当に悲惨なんだよ。
いつまでもネチネチ問い詰められて。
万引きをしたから悪いんだってことくらい、わかってるけど、でももしも、「本当はしたくなかったんだ……」って打ち明けたら、聞いてくれたのかな……。
したくて、したんじゃない……
なんて、その場しのぎの言い訳にしか、やっぱり思ってくれないのかもね。
『したくて、万引きなんかしたんじゃない』
万引きして来いって、友達に言われたから。だから、仕方なくやった……
だなんて、現実には言えるわけもないんだし。
万引きをさせてたコたちの名前は、絶対に出してはいけなくて。
名前を出したりしたら、もう学校には二度と戻ってなんかこれないんだから。
チクったら、待ってるのは制裁だけ。
そんだけのリスクを背負っても、真実を言えればいいのかもしれないけど。
制裁を受けるのをわかってて、誰も密告するなんてことはしない。
本人が、親に怒られれば済むからって、なんにも言わずじまい。
そうしてあたしたちは、いろんなことを心の中に溜め込んでいくんだ。
万引きしてきた品物は学校で安く売って、おこづかいにする。
売れ残ったものは、売れないような商品をとってきたのが悪いんだからって、万引きしてきた本人が高く買い取らされる。
体のいい、お金の巻き上げ。
ホント、よくできてるよね。
それでお金がなくなって、親のサイフからお金を盗んできたコもいるし。
負のスパイラルってヤツ。一度、このサイクルに巻き込まれたら、絶対に脱け出せない。
脱けようとすれば、グループの結束を乱したとかで、寄ってたかっての報復。
殺されるほどのリンチ受けるか、自分が死ぬしか、脱けられるコトなんてないんじゃん?
実際、どうしようもなくなって、自殺未遂起こした子も知ってるよ。
親からお金もそうそう盗れないし、バイトとかして稼ぐのだって、限度があるしね。
お金稼ぐために、援交始めちゃった子もいるし。
そういう子は、逆に、自然と仲間からはずれられるんだけど。
なんでって?
汚いからだって。
援交で、オヤジとかとデートするのまではOKだけど、ウリまで始めたら汚いとかって、友達からハブられる。
けどデートぐらいじゃ、たいしてお金にもなんないしね、オヤジとかも渋ちんだし。
本当にお金にしようと思ったら、体売らないとムリなんだけど。
だいたい、そこまで追いつめたのは、自分たち自身なのにね。
汚いなんて、よく言えるよね。
だけど、汚いものは、単純にいらないものだから。
彼女たちの世界に必要なものは、キレイなもの、キラキラしたもの、カワイイもの。
汚いものは、彼女たちの世界には入れない。
年中カガミのぞいて、確認して。
「あたし、キレイ?」って。
「まだ、キレイ?」って。
少しでも汚くなってきたら、おしまいだから。
ずーっと、キレイなまま。キラキラしたまんま。
憧れのモデルのあの子みたいに、いつまでもかわいくなきゃ、女の子じゃないんだから。
だから、いらないの。
けがれたひとは、ね。そんなの、もうこのキラキラした世界の住人じゃないし。
関わる必要もない、排除されたひとたちなんだから。
いらないものは、排除すればいい。
自殺も、排除。
死にたいなら、死ねばいい。
それくらいにしか、みんな思っていない。
なんでだろうね?
やっぱ、今さら言うのもだけど、ゲームの功罪かな。
だって、ひとってあんなに簡単に殺せるじゃん。
あんなに簡単に死んじゃうんだから、別にたいしたこともないようにも感じるし。
単にゲームで、パーティーからメンバーがはずれただけっていう程度の感覚。
死んじゃうのは、弱いからなんだよって。
弱いならもっと装備とか充実させて、死なないようにしてればいいのに。
無防備じゃね、それこそ無謀って感じ。
ノーガードで立ち向かっていけるほど、この世界は甘くはないんだってこと。
弱そうに見えたら、即カモだし。
まわりとうまくやり合うには、自分をよく見せるためのアイテムのひとつやふたつはいるでしょ。
いかに自分をよく見せるか、ガードするかが、この世界の別れ道。
なんにもできないヤツは、死を選ぶしかないのかもしれない。
非情だけどね…。
だけど、しょうがないじゃない。
ゲームのようにしか、世界が見れないんだから。
あたしたちなりの世渡りは、RPGの経験値UPとおんなじで。
経験値を稼げないキャラは、どんどん倒れていくしかないっていうようなさ。
生まれたときからゲームがあって、なんていうか、そういう風にたぶんインプットされちゃったんだよね。
ゲーム世界に生きることを、宿命づけられたっていうか。
そんな風に、刹那的にしか生きられないんだよね、あたしたちって。
だから、死を選ぶことも、どこか抵抗がないのかもしれないし。
自殺した子? いるよ。
ずっと、イジメられてたんだよね。
クラス中から、無視されてた。
理由? 理由はなんだったかな。
ただ、名前がヘンっていうだけじゃなかったっけ。
男なのに、「和美」っていう名前で。
他に、和美っていう名前の女の子が、クラスにいたんだよね。
その子が、「男なのに、いっしょの名前なんてキモ」とかって、言い出して。
それから、イジメられるようになった。
理由なんて、それだけだよ。
他に、ないって。
もっとたいした理由がなきゃ、イジメられないと思うの?
そんなわけないじゃん。
イジメのターゲットなんて、誰でもいいんだから。
イジメは、あたしもいっしょになってやってた。
その時は、イジメの痛みがどんなものかも、わかってなくて。
ただ、仲間はずれにされたくなくて、参加してた。
どんなことをしたのかなんて、あんまり覚えてない。
悪質ないたずらって呼べるようなことは、全部やったかも。
だって、クラス全員でやるんだから、そのいたずらの酷さなんて……拷問レベルかもね。
いたずらなんて、ホントかわいいもんじゃないし。
みんな小学生とかじゃないんだし、それなりに頭もいいし。
見えないところで、徐々に確実に、その子を追い込んでいくっていうか。
目に見えるいたずらの方が、まだマシだと思うよ。
教科書をゴミ箱に捨てるとかさ。
だけど、そんな程度じゃないから。
そのコが見てないネットの掲示板で、イジメの写真を晒す、学校名、クラスを載せる。
メルアドに、しまいには、本当の住所までだって。
メールも電話もガンガン引っ切りなしで、知らないひとからまで中傷を受けて。
学校だけじゃないの、家でも気なんか休まらない。
寝ても覚めても、やまない攻撃。
死にたくなるのなんか、時間の問題だよね…。
そのコは、耐えられなくなって、自殺しちゃった。
家のマンションの屋上から、飛び降りて。
死んだって、誰も悲しみもしないの。
泣きもしないんだから、悪かったって後悔するわけもないよね。
ただ、イジメてたっていうことがバレたらどうしようって、考えるのはそれだけ。
だから、バレないように、ウソ泣きしてみたりして。
泣いて、矛先が自分に向かないようにするの。
「かわいそう。彼、イジメられてたみたいです」
って、他人事みたいに言うの。
本当は、みんなでイジメてたのにね。
みんなでイジメてたから、誰も文句を言ったりはしないけど。要するに、なすり合いだよね。
くだらないよね。
誰かが死んでも、そんな風にしか考えられないとか。
そんなひとたちに、命の大切さなんていくら話したって、わかるわけないじゃん。
大切なのは、ひとの命じゃなくて、自分の命だけ。
しょせん、自分が生きてればいいって。
自分がイジメられなければいいって。
自分がイジメてたって、バレなきゃいいって。
自分、自分、自分……どんだけ自分がかわいいんだか。
この世界で価値があるのは、自分だけとか、思ってるのかな。
こんな自分本位なひとたちの集まりだから、うちらって。
イジメてたコが自殺していなくなったら、どうするかわかるよね?
そう、新しいターゲットを探すの。
次にイジメるべき、標的。
それが、たまたまあたしだっただけ。
そう、誰でもいいんだもん。
誰でも、そう、あなただっていいんだよ?
あの日、雨が降ったから。
あたしが、カサを取りに帰らなかったから。
それが、イジメられる原因になるなんてね。
そんなこと、誰が思う?
友達なんか、信じてたあたしが、バカみたいでしょ。
まぁ、もともと友達でもなかったんだろうけど。
ココにはさ、イジメられる側と、イジメる側の人間しかいないんだよ。
だって、ゲームなんだからさ。
ターゲットがいなくちゃ、ちっともおもしろくないでしょ。
HPが0になるまで、徹底的にぶちのめすモンスター。
それが、イジメのターゲットだよ。
ねぇ、こんなカンケイでも、友達が本当にほしいの?
必要なの? こんなひとたちが?
こんな友達なら、いらないんじゃない…?
だから、あたしは、友達なんていないところに行くの。
もう、必要もないし。
ひとりでも、生きていけるから。
自殺したつもりでなら、生きてもいけるもの。
やっぱりね、死んだら負けなんだと思うよ。
死んだつもりで生きてみるとか、そんな前向きな気もちもまったくないけど。
どうにかなるんじゃん? どうにかなると思えばさ。
だから、バイバイ
トモダチ
友達なんて、名ばかりの、薄っぺらい人間関係。
これから先も、あんたたちに媚びて、つるんでいく気もちなんて、あたしには全然ないから。
バイバイ
クラスメイト 同級生 同期生 同窓生
そんな関係、あたしはいらないから。
じゃあね。