表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「REAL」ーアイドルの光と影の告白ー  作者: 蒼乃 月
第3章
4/11

ウチ

ウチは、3人家族。


パパとママと、あたし。


ひとりっ子だから、愛されてるだろうって?


そんなわけない。


今どき、ひとりっ子なんて、ちっとも珍しくない。


パパもママも共働きで、家になんかほとんどいない。


ウチに帰っても、誰もいない。


ひとりでごはんを作って、ひとりで食べる。


ママは、「手がかからなくて、本当にうれしいわ」なんて言うけど、


それって、「手をわずらわせないで」って、暗に言ってるだけなんじゃないの?


パパにもママにも、頼ったことなんて一度もない。


話せば、ちゃんとわかってくれるって?


何を? 何をわかってくれるの?


手のかからない、いい子だとしか思っていないような親が、あたしの何をわかってくれるっていうの?


なんにも気づかないくせに。気づこうともしていないくせに。


そんなパパやママになんか、言いたいことなんて、なんにもない。


くだらない、うわべだけの家族。


あんたたちが家族として深く絆が繋がってるなんて思ってるんだとしたら、バカとしか言いようがない。


家族の絆なんて、もうとっくに離れちゃってるのに……。



パパとママはあたしが物心ついたときから、ケンカばっかりしてる。


いつもいつも、つまらないことで言い合っては、その度に、


「もう離婚するから!」


と、ママはあたしに泣きついてくる。


最初のうちは離婚をしてほしくなくて、ママの話を聞いてあげてたけれど、


もう何度も同じことを聞かされて、聞きあきた。


離婚したかったら、すればいい。


あたしに、何を求めてるのか知らないけど、


「パパとママにいてほしい」なんていう、安っぽい家族愛に満ちたセリフでも言わせたいんだとしたら、


バカじゃないかと思う。


あたしは、もうこんな家族となんて、別にいたくもないのに。


どんな顔して、


「パパとママといっしょにいたいから、離婚なんかしないで……」


とか、言えばいいの?


涙流して、引き止めるなんていう、


ウソくさい演技でも、今さらしてほしいの?


パパも、ママも、自分たちのことばっかりで、


あたしの心の叫びには、なんにも気づかない。



ケンカした後で、パパが言う、お決まりのセリフ……


「ケンカはしても、やっぱり家族でいたいよな。パパとママとかわいい娘と、これからも3人で、ずっといっしょに暮らしていこうな?」


あたしを抱きしめて、パパが言う。



……触らないで。大っ嫌い……。



あたしは、こんな家族なんて、ちっとも好きじゃない。



休みになると、パパはパチンコに出かける。ママは趣味の習い事で、休日だっていうのにやっぱりあたしはひとりぼっち。


「あなたも、ママみたいに習い事してみたら?」


出かける予定がなさそうなあたしに、ママが話しかけてくる。



行くわけないじゃん。



心の中で言って、


「あたしはいいよ。それに、あとで友達と遊びに行くし」


と、ウソをつく。


「そう? じゃあ、ママは出かけてくるからね。もし遅くなったら、パパと適当に食べててね」


「うん、わかった」


と、あたしは笑顔を作って見せる。



ママは、なんにも知らない。


あたしに、友達なんかいるわけがないことも。


習い事の帰りにママが友達とファミレスに寄って、パパは飲みに行っちゃって、どこにもいく用事がないあたしだけが、カップ麺で済ませてることも……。


部屋の中でひとり、テレビをつけてカップ麺を食べる。


画面では、お笑い芸人がくだらないことを言って、笑いを取ってる。


ちっとも、おもしろくなんかない。


笑えない。


ここ最近、笑ったことなんてない。


あたりまえだよね。友達もいないんだし。


学校行ったって、イジメられてて、しゃべるひともいないんだから。



あたしに友達が誰もいないなんて、パパもママも全然知らない。


いると思ってるから、聞きもしない。


「学校どう?」


なんて、聞いてくれたことは、一度だってない。


だから、あたしも話さない。


気にかけてもくれないひとに、自分から話す程、あたしはお人よしなんかじゃないの。悪いけど。


それに、話すって言ったって、どんな風に話せばいいのかわからない。


明るくいい子だって、あたしのことを信じてるような親たちに、本当はイジメられてる暗い子だって、言えばいいの?


自分のことをそんな風にさらけ出せる程、あたしはまだオトナじゃないよ。


辛いことを少しもわかってくれない、気づいてもくれないひとたちに、自分から話せるほど、あたしはこの痛みを克服できてもいないの。


苦しいさ中にいて、その気もちを話すことなんて、今のあたしにはできない。


この息苦しくてたまらない思いを、もしも吐き出したとして、本当にわかってもらえるとは到底思えなかったから。



だってホント言うとね、一度話してみようとしたこと、あるんだよね。


あんまりにもガッコーが辛かったから。


あたしはどう切り出していいかわからなくて、


それで、手首の傷を見せることにした。


あたしがどんな思いを抱えてるかってことに、気づいてほしかったから。


だけど、リスカの痕を見たママはこう言った。



「どうしてそんなことをするの? あなた病気なの? 病気なら精神科に行く?」



そっか…って、思った。ママには、理解できないんだって。


リスカのわけも聞かずに、最初から病気と決め付けようとしたママになんか、もう何も話すことはないと思った。


幸せな家庭を演じてるつもりのママには、不幸なんてわからないんだね。


それは、きっとパパも同じだよね…。


こんな、カタチばっかりの家族なら、いらないでしょ。


お笑い番組を見ながら、泣いてるあたしって、なに?


パパに、気づいてほしいのに。ママに、気づいてほしいのに。


パパも、ママも、自分たちのことばっかり。


あたしのことなんか、見ていない。


そんなにニセモノの幸せが大事なの?


夫婦喧嘩してまでも守っていかなきゃならないものが、もしもパパの言う"かわいい娘"のいる、家族のためだったんだとしたら……


あたしなんか、生まなきゃよかったのに。


家族の中に、あたしの場所なんて、ずっと前からどこにもないのに。


ううん、


このウチのどこにも、あたしの居場所なんてないのに……。



ウチなんて、大嫌い。


パパと、ママと、あたしと…。


みんながただ役柄を演じてるだけの、オママゴト家族


パパはママになんか興味がなく、ママもパパに興味なんてない。


お互いにやりたいことをした挙句にケンカをして、家族愛なんていうあるはずもないものを確かめ合ってるだけ。


確かめ合える愛情なんて、ここにはもうないのにね。


幸せな家族のふりで、白々しいおままごとを続けるの、ママとパパとあたしとで。



幸せなママは、本当にあたしの好きなものだって、なんにも知らない。


「ねぇーこの色、いいでしょう? あなたも好きな色よね?」


なんて、聞いてくるママは、


「うん、好きだよ」


っていう返事しか、初めからあたしには求めてない。


「違う、そんな明るい色じゃなくて、もっと暗い色が好きなの」


なんて言っても、ママには否定されるだけ。


「暗い色なんてやめて、こっちの明るい色にした方がいいわよ」


そう、ママが続けたいのは、明るい色に囲まれた、ウソくさいアニメの中みたいなほのぼの家族ーー




ウチはうまくいってるだなんて思ってるのは、パパとママだけ。


なんとかさんとこじゃ、ここ何年も夫婦で口もきいてないんだってとか。


ママは、そんな話を楽しそうにもして、


「だから、ウチはたまにケンカもするけど、全然マシな方よー」


って、笑ってるけれど。



このウチが、どこかとくらべてマシかどうかなんて、どうでもいいの。


あたしにとって、ここは、


ただの、息苦しいだけの場所。



時々このウチの全部を、めちゃくちゃに壊してやりたい衝動に駆られる。


部屋の家具全てを、ひっくり返して叩き壊したら、どんなに気もちがいいだろう。


バットを振り回して、家中の物をぶち壊しまくって……ねぇ、そうまでしたら、パパもママも、あたしの思いに気づいてくれるのかな…?


こんな、上っ面ばっかりの家、気もち悪くて。


吐き気がしそうで、もう住みたくなんかないよ。


住みたくもないのに、無理して住むことなんてないでしょ?


もともと、あたしのいる場所なんてなかったんだし。


あたしは、あたしの場所を見つけるから。


だからね、もうこのウチを出ていくの。


バイトして、お金もたまったしね。



どこに行くかなんて、教えてあげない。


せいぜい子どものいなくなった不幸でも、感じてみれば?




バイバイ



パパとママ



もう、この家には、二度と帰ってこないかも。帰りたくもないし。



バイバイ



あたしの生まれたウチ



じゃあね。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ