表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「REAL」ーアイドルの光と影の告白ー  作者: 蒼乃 月
第1章
2/11

イジメ

イジメは、イジメられる方が、悪いって?


ふぅーん、だったらイジメられる理由って、何?



理由なんて、ないのに。


わけもなく、ただ気に入らないからって、昨日まで友達だったはずのコたちから、いきなり無視されるのに。



それでも、イジメられる方が悪いって?


あんた、バカじゃないの?


なんにも知らないくせに、えらそうなこと言わないで。


そんなにえらそうに言うんだったら、あんたがイジメられてみれば?


そしたら、どんなにキツイか、ツライか、わかるから。


イジメられる方が……なんて、


つまんないこと、絶対に言えなくなるから……。




今日も、上履きがぐっしょりと濡れてる。


でも、こんなのまだ序の口。


教室に入っただけで、今までしゃべってたクラスのみんなが、一斉に黙り込む。


黙って、あたしをにらんで、そうして、くすくすと笑い出す。



「上履き、また濡れてるしー」


「きっと靴下もびしょびしょだよねー。臭そうー」


「ホント、臭そうー」



わざとらしく、聞こえるように言う声――。



あんたたちが、どうせ濡らしたんでしょ。別にもう、そんなこと言う気もないけど。


イスの上には、ぞうきんが敷いてある。


どかせば、きっと「私たちがせっかく敷いといてあげたのに、どかすんだ?」とか、言われるに決まってる。


これ以上、何も言われたくなくて、あたしは冷たい濡れぞうきんの上に座る。



「うわー座ったー。汚な~い!」


「きったなーい。最悪ー!」


「ウケるんですけど、濡れ女ー」


「濡れ女」の一言に、クラス中がドッと笑い出す。



イジメられるようになった理由は、たったひとつーー。


雨の日に、カサを忘れたから。それだけ。


家を出てから、突然降り出した雨に、遅刻しそうだったあたしは、カサを取りに帰らずに学校に行った。


教室に入るなり、誰かが、



「なんか、湿ったにおいがする……」



と、言った。



「ほんとだー何この湿って臭いの。誰?」



と、いうひと声で、クラスの視線があたしに集まった。



「えっ、だってあの…ちょっと、カサ取りにいけなかったから。少し濡れちゃって……」


笑って取りつくろおうとするあたしを無視して、



「濡れ女」



そう、昨日まで友達だと思ってたコが、ふいに冷たく言い放った。



「え……濡れ女って…なに…?」



わけがわからずに聞き返すあたしに、さらに他のコが追い討ちをかける。



「濡れ女とかいう妖怪って、いなかったっけ?」


「妖怪! いたかも!」


「妖怪 濡れ女!!」



周りが、ケラケラと耳につく甲高い声を上げて笑い出す。


「や、やめてよ? 妖怪とかさ……」


あたしは友達に言って返して、軽く肩をたたこうとした。


途端、「やめてよ!」と、その手を振り払われた。


「さわんないでくれる? 妖怪がうつるじゃん、こっちまで」


あたしは、言葉を失った。


……ウソ。


友達だと思ってたのに、こんな理由で?


こんな些細なことで、友達じゃなくなるの?


ねぇ、ウソでしょ?


……みんな、初めから友達なんかじゃなかったの?



……次の日から、執拗に始まったイジメ。


あたしのさわる物全てが、濡れてカビが生えると言われ湿気って臭うと陰口を叩かれた。


イスにも机にもいつでも水が撒かれ、上履きだけじゃなく、体操着も制服さえも、教科書までもが毎日のように水浸しにされた。


クラスの担任はあからさまないじめに見て見ぬふりをし、時には頭から水をかけられてガタガタと震えるしかないあたしを、クラスのみんなといっしょになって取り囲んで、ただ仕方なさそうに笑うだけだった。


大人なんて、あてにならない。頼る人なんて、誰もいない。


誰も信じられなかったし、信じたくもなかった。


イジメたいならイジメればいいと、そんな風にただ目の前のことから目をそむけて、受け止め切れない現実をやり過ごしていくことしか、あたしにはできなかった……。



イジメは、高校の3年間ずっと続いたーー。


クラス替えの度に「濡れ女」のあだ名は付いてまわって、あたしはイジメられ続けた。


15歳から18歳までのいい思い出なんて、ひとつもない。


高校生活が、一番楽しいだなんて。そんなこと、一度だって思ったこともないよ。


逃げ出したいほどの辛い日々ーーあたしの中に高校生活として残ってるのは、それだけでしかない。



……高校の思い出って言ったら、修学旅行とか?


だけど、


楽しいはずの修学旅行でも、あたしは、グループ分けのときにひとりだけあぶれた。


お情けで人数の足りないグループに入れてもらって、いっしょになったひとたちからも嫌な顔をされて。


でもね、旅行っていう、日常とは違う場所でなら、もしかしたらみんなも仲良くしてくれるかもしれないなんて。そんな風にも、思ってた。


もちろん、あたしの期待は、ことごとく裏切られたけど。


せっかく同じグループになったんだからと思って話しかけてみても誰もこたえてもくれず、バスの中じゃ隣に座ることさえ嫌がられた。


あたしは、みんなでいっしょに行動するはずの修学旅行でも、いつもひとりぼっちだった。


出来上がった旅行の写真には、友達と写ってるものなんて一つもあるわけもなく、あたしが写ってるのは集合写真だけ。


みんなが自分の写真を買おうと、壁に貼られた写真の前に群がる中で、あたしは唇を噛んでひとり教室の席に座り込んでいた。


見たって仕方がない。


陰気な脅えた顔で、端っこの方に小さくなって写る自分なんか、見たくもなかった。


まだ他にもいろいあるけどね、これ以上言っても仕方ないでしょ?


不幸自慢じゃないんだしさ。


ねぇ、もう一回最初の質問するけど、


まだ本当に、イジメられる方が悪いとかって、思ってる?



そうだとしたら、相当おめでたいと思うけど。


イジメられる方が悪いんじゃなくてさ、


イジメる方が悪いんだよ。


どうでも。



イジメられる方だって、悪いって?


仮にもしハブられる原因を作ったり、なんかワケありだったとして……。


……そしたら、そのコはイジメられても仕方がないの?


よってたかって、たったひとりを痛めつけるなんてことに、なんの意味があるの?


イジメられるような奴が、悪いなんてね。


したり顔して、ほんとよく言うよね?



イジメられる方が悪いなんて言えるのはさ、


本当は、あんたがイジメてたからなんじゃないの?


イジメられてた経験があるひとには、絶対そんなことなんて言えるはずがないんだから。


イジメてたから、そんな上から目線で言えるんだよ。



イジメられるような、オマエが、悪いって。



どんなに小さなイジメだって、心に傷は残るのに。


その傷の痛みすらも、まるでわからないなんて。


ひとの痛みも、思いやりも知らない、かわいそうなひとたち。


どんなに頭がよくったって、心がない、ロボットとおんなじ。


頭でっかちの、張りぼてのロボット。


あんたたちなんて、


弱いものイジメしかできない、クズ鉄のカタマリでしかない。



こんなとこでいつまでもぐずぐずしてたってしょうがないから、高校を卒業してイジメからようやく解放されたあたしは、この街を出ることにした――。


ここにいれば、また誰かと顔を合わせる度に、高校の時と同じ嫌な思いを味わうに決まってる。


結局、誰もあたしを助けてなんてくれなかった。


幼なじみ、仲間、友達……そんなもの、いらない。


あたしは、新しい場所で、新しいあたしになって、生きていく。


あんたたちはせいぜいこの小さな街で馴れ合って、いつまでも「濡れ女」の話でもしてバカにして、変わり映えのしない毎日でも勝手に過ごしていけばいいじゃない。




だから、バイバイ



イジメられてた、あたし。



ねぇ、この3年間。ひとつだけよかったって思えることがあるのなら、あたしが自殺しなかったってことだけかもね。



じゃあね、みんな。



バイバイ






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ