エピローグ
ここまで読んでくれて、ありがとうね。
最初に、
「読みたくなければ、ページをめくってくれなくてもいい」
なんて、生意気なこと言っちゃって、ごめんね。
本当は、読んでほしかったんだけどね。
そんなに素直にも言えなくてさ。
だから、あんな言い方、しちゃったんだよね。
ネタばらしをするとね、これは、あたしが書いた最後の本なんだよね。
七瀬リオだったあたしが書いた、最初で最後の本。
あのあと、ラストシングルを出したあとね、やっぱり簡単にはやめられなくてさ、いろいろ引き止められたり、手記を書かないか?みたいなことを言われたりもして。
本当は、そんなの書くつもりじゃなかったんだけど。
でも、こんなあたしがいたってことを、残してもいいかなって思って。
それで、1冊だけ書いたの。
タイトルは、
「REAL」
-アイドルの光と影の告白-
正直言うとね、あたしが付けたタイトルは、「REAL」だけなんだよね。
出版社で、サブタイトル付けられちゃった。
売るためには必要だったんだろうし、別にいいんだけどね。
でも、自分の生きてきた話を書くのって、けっこう重くてさ、何回もやめようと思って。
何度も何度も投げ出しながら書いたから、出すのがすごい遅くなっちゃった。
販売する側にとっては、誤算だったかもね。
だって、もっと早く出したかったろうし。まだ、七瀬リオ引退の話題が、冷めないうちにって感じでさ。
だけど、結局出せたのは、引退から1年半が過ぎてからだった。
1年半を過ぎても、あたしのこと覚えててくれたひとなんて、もう少ないのかもしれないね。
七瀬リオの引退劇は、マスコミを騒がせて、一時期は盛り上がりを見せたけれど。
でも、たくさんのニュースが取り沙汰されていく中で、いつまでもアイドルひとりになんて、かまってられなかったろうし。
引退から人気が高まって、ラストシングルだけじゃなくて、前に出したアルバムとかも、急激に売れたりもしたけど。
その頃の熱は、もう完全に冷めちゃったと思うんだよね。
あたしのことなんか、みんな覚えてないと思うけど、それでもいいんだ。
ただ、こんな風に生きたあたしがいたってことだけ、知っていてくれたら。
それでいいの。
忘れないでいてほしいなんて、別に思わないから。
ただ、知っててくれたらいいなって。
それだけ。
それだけでも、あたしの生きてきた価値があったようにも感じるから。
これって、あとがきになるのかな。
この本を読んでくれたひとが、いったいどれくらいいたのかわからないけれど、でも、ありがとうね。
あたしを知ってくれて、ありがとう。
知りたいと思ってくれて、ありがとう。
冒頭で書いたのは、この気もちの裏返しかな。
「知りたくないんなら、読まなくてもいい」じゃなくて、
「読んでもらって、知ってほしかった」だったんだよね。
最後に、ちゃんと言えて、よかったよ。
15歳から21歳までの、あたしの10代の6年間を知ってくれて、本当にありがとうね。
それじゃあ、ホント
バイバイ
じゃあね。
読んでくれたあなたに、感謝を込めて……
"あたし"より
追伸 落ち着いたら、また家にも帰ってみようかな…。
最後のページを閉じると、あたしは本をそっと元に戻して、ふっと微笑んだ。
本は今も、本屋の棚に入れられていた。
今も置いてあってよかったなんて、ちょっと思ったあたしは、もしかしたらまだ売上げとかってことに、こだわってたりするのかもね。
今は、売れるなんていうこととはまるで関係ないあたしには、
もう誰も、本屋にいたって、気づかないけれど。
本屋を出ていこうとする後ろ姿に、
誰かが、声をかける。
「もしかして、七瀬リオさんですか?」
気づかずに、出ていくあたし。
街の雑踏の中、たくさんの人の波にまぎれたあたしは、もう見つけることはできない。
街を行き交う、たくさんの"あたし"たち
そう、あたしは、あなたでもある。
ひとりのアイドル「七瀬リオ」が過ごした10代は、
自分を「あたし」と呼ぶ、
あなたにも、被るところがあるはず。
あなたは、あたし。あたしは、あなた。
全ての、あたしたちの今を映す
それが、「REAL」――
-END-