表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
6/48

6 初めの一枚と、図書室での夢

 森下さんの物語は、まずとても『きれい』だと思った。読んでいくうちに、どんどんその情景が頭の中に形作られていく感覚は、すごく不思議だった。



 舞台は、海。昨日、かおるくんと一緒に公園で描いたばかりだったので、偶然だなあと思った。


 主人公は、ある人間の男の子だった。海の中だから主人公は海の生き物なのだろうと思ったら、違ったので僕は驚く。


 男の子は、目覚めたら海の中にいた。不思議と、呼吸は苦しくない。きっとこれは夢の中なんだと男の子は認識する。


 海の中は透きとおっていて、男の子の想像以上に美しかった。

頭上から降りそそぐ真っ直ぐな日の光。

下には鮮やかなピンク色をしたサンゴ礁。

銀色、黄色、ブルーと、色とりどりな魚たち。宝石のように輝く泡。



 一ページ目は、そんな海の様子の描写で終わっていた。まずはここまで読んだ部分を一枚の絵にすればいい。


――日比野くんが読んで、頭に浮かんだものをそのまま描いて。


 僕は、森下さんに言われた通り、物語を読んで頭に浮かんだものをそのまま絵にしていった。誰かのために描く絵は初めてだった。かおる君と絵を描いて遊んでいる時も真剣にやっているけど、この時はそれに『緊張』が加わっていた。





 その日の夜、僕はまた、あの妙にリアルな夢を見た。


 小学校の中だということは同じだったが、場所は教室ではなく、図書室だった。


 この夢がリアルなのは、景色だけじゃない。窓の外からは子どもが遊ぶ声が聞こえている。手からは、木でできた机の冷たさを感じた。給食前なのか、美味しそうなにおいもただよってきている。


どうやら今日の給食はシチューみたいだ。聴覚、触覚、嗅覚。様々な感覚が、リアルだった。


自分の手を握ろうとしてみたけど、できない。どうやら思い通りに身体を動かすことはできないようだ。


 僕は、まっすぐ図書室の奥へ進む。図書室だから、本をさがしているんだと思う。




 そう思ったら、手に取ったものは、本ではなかった。


 それは、一冊のノートだった。一番奥の棚の端にあった。背表紙が棚の奥側になるように。表紙には何も書かれていない。



 僕はノートの中身を開くと、クーピーでそこに何か絵を描きはじめた。残念ながら、その絵だけはぼやけていて見えない。




 なぜ、僕は一人なのか。なぜ、ノートは目立たない場所に隠してあるのか。

疑問に思っていたが、僕が絵を描きはじめた時、その答えがわかった気がした。



 まず、この時すでに僕は絵を描くことが好きだったのだろう。


 次に、そのことを周りには隠していた。だから、教室ではなく図書館で絵を描いていた。

そして、お絵かき用のノートは図書室に隠していた。


 そう考えているうちに、時間が経っていたようだ。キーンコーンとチャイムが鳴る。僕は急いで片づけをしてノートをもとの場所に背表紙が奥になるようにしまい、そして速足で図書室をあとにした。



 夢は、そこで終わった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ