エピローグ
「・・・男の子と女の子は、見ていた夢のことは、何もかも忘れてしまっていました。
でも、二人は出会うことになります。桜が咲き誇る季節に、あの教室で」
静寂が、僕らを包み込んでいる。
「・・・ご清聴いただき、ありがとうございました」
僕が絵本を閉じると、会場から大きな拍手がわきおこった。
となりにいる華乃と、僕は顔を見合わせて笑った。そしてお互いに声に出さずに、口でいう。
――やったね。
ステージ上だけだった照明が会場全体につき、お客さんの顔が見えるようになると、僕は再びマイクをとった。
「今日は、このような朗読会にお招きいただき、また最後までお聞きいただきありがとうございました。
この絵本が多くの人に読んでいただけていることを、本当に幸せにおもっています。
それは、私たちの長年の夢でした。本当に心から感謝しています。
最後に、原作者の方からあとがきも読ませていただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか」
会場からまた、拍手がおくられる。お客さんの表情が、あたたかかった。
ありがとうございます。
そう言って僕は、華乃にマイクと絵本を渡した。華乃はうなずき、すっと立ち上がった。
その姿はなんというか、凛としていた。
彼女は、この数年の間に、びっくりするほどに身も、心も成長したと思う。
白いワンピースを着ている彼女は、もう少女ではない。
未だに細身ではあるけれど、立派な大人の女性だった。澄んだ瞳はそのままに、控えめな色気がただよっている。
会場の拍手がやむのと同時に彼女は絵本を広げ、話しはじめた。
その横顔を見て僕は、美しい、と思った。




