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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
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46 大切なあなたへ

 明け方まで、まだ少し時間はある。両親が病室を出て行ってから私は、少しだけ眠ろうと思って、横になった。


そのまま横を向くと、引出しが目に入った。



「・・・・あっ!」



 思わず、声が出てしまった。そういえば、忘れていた。



 私は勢いよく起き上がる。


――あの、手紙。私の、遺書。もう、誰かが見つけてしまったかも―




 引出しをゆっくりと開けると、ちゃんと手紙が中に入っている。



・・・と思ったけれど、よく見ると、一つしか入っていない。




 立樹くん、お父さん、お母さん。私は三つの手紙を中に入れておいたはず。




 まずい、もう読まれてしまってる?


 しかも、その一つの手紙をよく見ると、わたしが入れたものとは封筒が違っていた。



 そこに書かれている字を見て、これが誰のものか、すぐにわかった。

この、優しい人柄が伝わってくる、人を騙そうとする気概が感じられない、字。




 私はその人を思い浮かべながら、封筒を、ゆっくりとひらいた。











華乃へ


 華乃、ごきげんよう。君に伝えたいことは、たくさんあります。本当にたくさんありますが、一番最初に伝えなければいけないのは、「安心して」ということでしょう。



 今僕がこの手紙を書いているのは、君が手術室から戻ってきて、お父さんとお母さんがいなくなってからです。君のご両親は、君の手紙を読んでいません。もし読んでしまっていたら、二人はきっと困惑した。そうだよね?きっと。



 僕は、君が僕らに向けて手紙を書いて引出しに入れることを知っていました。

夢の中、君の目で見ていたからね。




 さて、華乃は一つ、嘘をつきましたね。僕はそのことを知っていたわけだけど、君が想像した通り、さすがにちょっと怒ってるよ。



 君は、僕に輝いていてほしかったと書いていましたね。でも、どんなに僕が輝いたとしても、君が突然僕の前からいなくなってしまったとしたら、その輝きは失われてしまいます。


そして、ずっと後悔をしたことでしょう。



 僕はある時、祖父から大切なことを学びました。それは、

『大切な人との最良の別れのために、努力し続けること』です。


 君のことを公園で待っている間、僕は生きた心地がしませんでした。君に、伝えていないことがたくさんあったからです。

僕はそれまで、華乃との最良の別れのための努力を、怠っていました。



 神様に、初めて祈りました。どうか、あの指切りを僕たちの最期にしないでくださいと。



 結果的に君は生きていてくれたし、僕は記憶をとり戻すことができたわけですが、このような幸運はそうそう訪れるものではないと思いました。これは僕にあたえられた最後のチャンスだとも。



 僕はもう華乃に、気持ちを隠したりしないと誓いました。





 だから、今ここで伝えます。(手紙でごめん。でも華乃も、僕に嘘をついて遺書みたいな手紙に書いたんだから、これでおあいこってことで・・・)






 僕は、華乃、君のことが好きです。


好きだって言われたからじゃありません。ずっと前から、大好きです。



 君と同じ、あの瞬間から。あの時君は、いきなり僕に近づいてきてくれた。


驚いたけれど、うれしかった。あの瞬間から、僕たちだけの世界ができあがった気がして。



 君が作ってくれた世界は、本当にかけがえのないものでした。君が教えてくれる物語の中には五年生の時の僕がいて、それがたまらなくうれしかった。





 高校生になって再会した君は、今思えば昔のまんまでした。君は急かすことなく、僕の話をじっくりと聞いて、その中から僕の知らない、僕の価値を見出してくれた。



僕が自分で記憶を取り戻すのも、ずっと待ってくれていたね。


そして、昔と同じように、君の方から、僕のそばにきてくれた。

いつの間にか、君がとなりにいるんだ。びっくりするほど自然に。





僕が忘れてしまっていた約束をもう一度させてくれたし、僕の時間に合わせて学校にきてくれた。


電車で探してくれていたのを知った時も、すごくうれしかったんだ。

恥ずかしくてその時、言えなかったんだけど。



華乃と同じように僕も、君と一緒にいる時が一番僕らしくいられます。

だから僕は、これからも命を華乃のためにつかいたい。




華乃が手紙で書いていたお願いに、僕はこたえたいと思います。


まず、『だれかのための物語』。たくさんの人に読んでもらおうね。

もちろん、二人の力で。あの物語は、もとをたどれば、僕と華乃の二人で作り出したことになるんだから。




 

 それともう一つ。『だれかを幸せにする』 というお願い。これにも、喜んでこたえます。

 僕が胸に抱えている誰かの幸せ。僕には一人しか考えられません。

 君は僕と違って鈍感じゃないから、もう僕の気持ちはわかるよね。

 僕が選ぶ相手なら、間違いなく一緒に幸せになれるって、華乃は書いてくれました。

 僕も、そう思います。

 



 華乃と一緒にいれるなら、それだけで僕は幸せです。



 


 最後になりました。華乃は、僕の泣き顔が見てみたいんだったね。

・・・残念。君からの手紙を読んでいる間の僕は、笑顔でした。だって、うれしくて。



 一緒にいれば、もしかしたらいつか泣き顔を見られるかもしれませんね。


 だから、長生きしてね。





 さっきも言ったと思うけど、明日また、会いにいきます。

これからは、君を待つんじゃなくて、僕から会いにいくから。もうシャイは卒業するよ(笑) 



安心して、休んでください。




 明日からまた前を向いて、一緒に生きましょう。




『ぼくたち二人』の、だれかのための物語の続きを。




日比野 立樹














 私は手紙を読んでいる間、その涙をなんども手紙の上に落していた。

そのことが気にならないくらい、無心で読んでいた。





――ずるいよ、立樹くん。




私はいますぐにでもあなたに返事をしたい。あなたに、会いたい。

わたしにも、あなたに伝えたいことがたくさんある。明日がくるのなんて、待っていられないよ――





私も、心に誓った。立樹くんと、後悔のない生き方をする。



毎日、初めての日のように、そして最期の日のように、あなたに接する。




そして最期まで、笑っていたいんだ。

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