45 助けてくれた
お父さんとお母さんは、病室に入るなり私にかけより、二人で抱きしめた。
泣いていた。
よかった、よかったと言って。
私もまた、泣いた。
もう、会えないと思っていた。二人を悲しませることになると。
でも、そうならなかった。
私は、二人に抱かれながら、泣きながら、笑った。
なぜ、私は助かったのか。
立樹くんが言ってたように、私はお父さんとお母さんに聞いた。
お父さんが、説明してくれた。
「手術前、華乃の麻酔が効いて、これから手術室へ移動するという時だった。
彼がここに駆けこんできたんだ。息を切らしていたよ。そして、先生に『お話があります』と言ったんだ」
えっ、と思った。試合が終わった直後にでも来ないと、手術には間に合わないはずだ。
私は、試合後の映像に彼の姿がなかったことを思い出した。
「手に分厚い医学書を持ってね。『その方法だと、手術は失敗することになります』と言いきった
。私たちも先生も、何を言ってるんだこの少年は、と思ったけどね。
でも彼の目を見て、本気だということを感じ取り、話を聞くことにしたんだ」
その方法だと、失敗する?
「彼はさらに説明をした。驚いたよ。高校生にそんな知識が?と思うほど医学的な専門用語をぽんぽん使っているんだもの。
それでな、『手術前に、この検査をしてみてください』って言ったんだ」
私は、その状況を思い浮かべながら聞いていたけど、立樹くんのイメージとは完全にかけ離れていた。
「その時には先生も立樹くんの説明に納得し始めていたから、その検査をしてみたんだ。
そしたらね、ある問題が見つかった」
彼の言う通りだったのよ、とお母さんが言った。
「そのままの方法で手術をしていたら、本当に危ないところだったの。
その問題を見つけて、先生は手術のやり方を変更したのよ」
「手術の後、先生が言ってたよ。『彼のおかげで、成功することができました。それにしても、なぜ彼にはあんなことがわかったんでしょう。かなりの疑問ですよ。タイムマシンンで未来を見てきたんですと言われれば、ああそういうことねと納得できるんですけどね』って」
――タイムマシンで、未来を見てきた。
その一言で私は、理解した。
変えることができないと思っていた、未来。
でも、未来を見ていたのは、わたしだけじゃなかった。
彼は、知っていたんだ。私の目で、見ていたんだ。私の手術が、どの方法で行われて、失敗につながるのか。でもそれを知っただけじゃ、お医者さんを説得することなんてできない。
彼は、この時のためにずっと、勉強してくれていたんだ。なんで、その方法だと失敗するのかを理解するまで。でも、その記憶すらも、失ってしまっていた。
小学生が医学書を読んで理解することが、どれだけ大変なことか。想像も、つかない。
「やっぱり、立樹くんが、私を・・・助けてくれたんだ・・・。」
私は、顔を覆った。涙が、あふれる。
『僕が君のことを必ず助けるよ』
あの、私の記憶にない彼の一言は、そういうことだったのか。
記憶を取り戻した彼は、再び、未来を変えるために動きだしていた。
お母さんが、私の肩に手を置いて、言った。
―――本当ね。彼は私たちの大事な華乃を、助けてくれた。本当に、感謝しなくちゃ。




