表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
45/48

45 助けてくれた


 お父さんとお母さんは、病室に入るなり私にかけより、二人で抱きしめた。



 泣いていた。



 よかった、よかったと言って。

 私もまた、泣いた。



 もう、会えないと思っていた。二人を悲しませることになると。


 でも、そうならなかった。



 私は、二人に抱かれながら、泣きながら、笑った。



 なぜ、私は助かったのか。

立樹くんが言ってたように、私はお父さんとお母さんに聞いた。

お父さんが、説明してくれた。



「手術前、華乃の麻酔が効いて、これから手術室へ移動するという時だった。

彼がここに駆けこんできたんだ。息を切らしていたよ。そして、先生に『お話があります』と言ったんだ」



 えっ、と思った。試合が終わった直後にでも来ないと、手術には間に合わないはずだ。

私は、試合後の映像に彼の姿がなかったことを思い出した。



「手に分厚い医学書を持ってね。『その方法だと、手術は失敗することになります』と言いきった

。私たちも先生も、何を言ってるんだこの少年は、と思ったけどね。

でも彼の目を見て、本気だということを感じ取り、話を聞くことにしたんだ」



 その方法だと、失敗する?



「彼はさらに説明をした。驚いたよ。高校生にそんな知識が?と思うほど医学的な専門用語をぽんぽん使っているんだもの。


それでな、『手術前に、この検査をしてみてください』って言ったんだ」




 私は、その状況を思い浮かべながら聞いていたけど、立樹くんのイメージとは完全にかけ離れていた。



「その時には先生も立樹くんの説明に納得し始めていたから、その検査をしてみたんだ。

そしたらね、ある問題が見つかった」



 彼の言う通りだったのよ、とお母さんが言った。


「そのままの方法で手術をしていたら、本当に危ないところだったの。

その問題を見つけて、先生は手術のやり方を変更したのよ」



「手術の後、先生が言ってたよ。『彼のおかげで、成功することができました。それにしても、なぜ彼にはあんなことがわかったんでしょう。かなりの疑問ですよ。タイムマシンンで未来を見てきたんですと言われれば、ああそういうことねと納得できるんですけどね』って」




――タイムマシンで、未来を見てきた。



 その一言で私は、理解した。


 変えることができないと思っていた、未来。




 でも、未来を見ていたのは、わたしだけじゃなかった。



 彼は、知っていたんだ。私の目で、見ていたんだ。私の手術が、どの方法で行われて、失敗につながるのか。でもそれを知っただけじゃ、お医者さんを説得することなんてできない。



 彼は、この時のためにずっと、勉強してくれていたんだ。なんで、その方法だと失敗するのかを理解するまで。でも、その記憶すらも、失ってしまっていた。

小学生が医学書を読んで理解することが、どれだけ大変なことか。想像も、つかない。






「やっぱり、立樹くんが、私を・・・助けてくれたんだ・・・。」



 私は、顔を覆った。涙が、あふれる。



『僕が君のことを必ず助けるよ』



 あの、私の記憶にない彼の一言は、そういうことだったのか。


記憶を取り戻した彼は、再び、未来を変えるために動きだしていた。



 お母さんが、私の肩に手を置いて、言った。



―――本当ね。彼は私たちの大事な華乃を、助けてくれた。本当に、感謝しなくちゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ