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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
43/48

43 二人の戦い

手術と、そして立樹くんの試合の本番の日がやってきた。



見事な秋晴れだ。私は、窓を開けた。冷たい空気がゆっくりと入り込んでくる。



 秋の、ひんやりとしていて澄んでいる空気は、好きだ。なんだか、神聖な気もちになる。




私は、引出しの中をあけて、中身を確認した。あの日に書いた立樹くんへの手紙。


そして、両親に宛てた手紙も入っている。



 時間ピッタリに、私はテレビをつけた。選手が、入場する。私は、なんだかすごくドキドキしていた。


立樹くんは去年、22番だった。




 見つけた。今年は、7番だ。久しぶりに見るその顔には、気迫があった。


心なしか、いつもより体が大きく見える。彼の姿を見た瞬間、いきなり泣きそうになった。

ここまでたどりつくまでに彼がしてきた努力を思うと、こみあげてくるものがあった。



 彼は、初めから試合に出た。相手のチームも毎年優勝しているだけあってすごく強そうだ。



キックオフの笛がなる。 

私は、両手を握りしめながら、テレビを見つめた。




 テレビ越しでも、バシン!という身体がぶつかる音がすごくはっきりと聞こえた。


 彼は、その音を出す張本人だったみたいだ。


ミサイルのように発射されて、ボールをもってる相手に突き刺さった。時には相手をあお向けに倒してしまう。


 そんな時、会場から大きな歓声があがる。彼がとったボールを、味方がつないだ。




 彼は、他の誰よりもたくさん、フィールドを走り回っていた。

画面の奥でタックルをしていたかと思えば、その数秒後には手前でボールをもって走っていたりする。



 私は、彼のそんな無尽蔵にも思えるエネルギーがどこから湧いてきているのかを知っているだけに、見ていて本当に胸を熱くした。


ーーがまんできなくなり、目からは涙があふれた。



 試合は、かなりの接戦だった。もう少しで試合が終わるというとき、僅差で負けていた。


ここまで追い込まれた経験がなかったからだろか、相手チームには焦りが見られた。





 そんな中、相手がボールをこぼした。ラグビーでの基本的な反則。

これをおかすと、相手ボールのスクラムで再開される。




 でも、こぼれたボールを誰かが拾った。


 背番号、7番。立樹くんだ。



 こういう場合は、すぐにプレーは止められない。

彼は、目の前の相手選手の間を一瞬でかいくぐって、広いスペースに走り出た。



 その瞬間、わっ、と歓声が急激に大きくなる。


 フィールドにいる全員が、彼に引っ張られるように動き出した。


 彼は、走った。



 しかし彼自身が言っていたように、彼は足が速くはなかった。


彼は追いつかれ、タックルを受けた。




 でも彼は簡単には倒されなかった。


相手につかまれてからも、牛車を引っ張る牛のように力強く相手を2、3歩引きずった。



そして倒れ際。


トップスピードで走りこんできた味方に直接、それも片手でパスをつないだ。



 その味方の彼を、私は知っている。夢の中でしか会っていないけれど、すごくいい人。

 名前を確か、「相良くん」と言った。





 そのパスが、決定打だった。

 また、歓声があがる。



彼は、瞬足だった。相手選手も追いかけるけれど、差はどんどん開いていく。


立樹くんがつないだボールは、彼の手によって相手ゴールに届けられた。逆転トライだ。



 

解説の人が、


『今のは、7番がナイスでしたね。ルーズボールに反応して誰よりも早く動き出した。いつでもトライを狙う嗅覚を働かせていないとこういうプレーはできません。タックルを受けてからつないだパスも見事でしたね』


 と言っていた。



 私は、ガッツポーズを作って心の中で、言った。

――そうでしょう?立樹くんは、ものすごい力を持っているんだよ。

 



 結局試合はそのまま立樹くんのチームがリードを守り、悲願の優勝を果たすことになった。


みんな、抱き合ったり、涙を流したりして喜びをわかちあっていた。




カメラが遠すぎたからか、それ以降私は立樹くんの姿を見つけることができなくなった。最後に一目、見たかったな、と思った。









試合の終わり。それは、私にとっては、戦いの始まりだ。


 私は麻酔が打たれる前に、お父さんとお母さんの顔をよく見た。そして、行ってくるね、と言った。


両親は、泣いてはいなかった。娘が、無事にかえってきてくれることを信じていた。



私は、流れそうになる涙をこらえた。そして、笑った。


娘の不安そうな顔が最期なんて、私が親だったら絶対にいやだから。






麻酔が打たれた。朦朧とする意識の中、私は心で叫んでいた。

――お父さん、お母さん、立樹くん、みんな・・・・今まで本当にありがとう。さようなら――

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