37 再会
やっぱり、病は気からなんだと思う。
それから私の病気は、少しずつ良くなっていった。生きる希望を、病気を快復させるモチベーションを得たからだろう。
そしてついに、高校三年生になる春、待ちに待った日がやってきた。
先生に促されて教室に入った時、すぐにその顔を見つけた。
その瞬間、心が躍った。黒板の前で、あいさつをする時も、チラチラと彼の方を見ていた。
私たちは、となりの席になった。そのことは、わかっている。
彼が右手にギブスを巻いていることも。
席に着くとき、私たちが交わしたのは軽い会釈だけだった。
――立樹くん、久しぶり。やっと、会えたね。
私は、そういいたかったけど、心の中で語りかけた。
夢の通りなのであれば、彼は、私のことを忘れている。事故で、両親も亡くしているはずだ。
その事故はきっと、私が入院し始めたころに起こってしまったんだろう。
あの日、ラグビーの中継で彼を見つけて夢の謎が解けた時、私はすべてを理解した。
――彼は、約束を破ったわけじゃなかった。
私は、一人病室で、泣いた。そしてひとしきり泣いたあと、前を向いた。
――大丈夫。あなたの大切な記憶は、きっと戻るからね。私が、協力するから。
右隣に座る彼に、私はもう一度心の中で語りかけた。
「あの・・・それ、やろうか?」
新学期が始まってから2週間ほどたったある日、転校生の私が彼に向けて初めて発した言葉だった。正確に言えば初めてではないけれど。
「え・・・!あ、いや、だいじょうぶ!・・・です」
彼は、私の申し出をことわってしまった。
何がだいじょうぶだ。右手にギブスをはめている状態で、模試の申込み用紙を切り離そうと苦心している様子は、なんだかすごく笑える。
けれど私は、面白がって見ていることを悟られないようにした。
彼は、右手で紙をおさえ、左手で切り取った。
彼は、私の顔を見ることはなかった。
そういえば彼は、シャイなんだということを忘れていた。これは大変だと思った。
忘れてしまったなら、また、知ってもらえばいい。
約束も、もう一度すればいい。
もちろん、彼が同意すればの話だけど。
私はタイミングをうかがっていた。なんにせよ、右手の骨折が治らなければ絵も描けない(美術の時間に彼が左手で描いていた絵を見たけど、それでも人並み以上に上手かった)。
私にとってのヒントは、あの夢だけだ。彼の視点で見ていた夢。ギブスが取れた帰りに公園によって、かおるくんと絵を描く。そこで私に、話しかけられる。
でも、夢の中でその日が何月何日かなんてわからない。私は、夢で見たようないい天気の日には必ず公園をのぞいた。
そして、その日はやってきた。誘い方がちょっと強引だったかなと私自身思ってたけれど、
彼は、私の物語に絵を描いてくれるという。同意してくれた。僕なんかの絵でよければ、なんて控えめに言って。私は、
――君じゃなきゃダメなんだよ!
って言ってやりたかった。




