表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
37/48

37 再会


やっぱり、病は気からなんだと思う。



 それから私の病気は、少しずつ良くなっていった。生きる希望を、病気を快復させるモチベーションを得たからだろう。



 そしてついに、高校三年生になる春、待ちに待った日がやってきた。



 先生に促されて教室に入った時、すぐにその顔を見つけた。


その瞬間、心が躍った。黒板の前で、あいさつをする時も、チラチラと彼の方を見ていた。



 私たちは、となりの席になった。そのことは、わかっている。

彼が右手にギブスを巻いていることも。




 席に着くとき、私たちが交わしたのは軽い会釈だけだった。

――立樹くん、久しぶり。やっと、会えたね。 



私は、そういいたかったけど、心の中で語りかけた。



夢の通りなのであれば、彼は、私のことを忘れている。事故で、両親も亡くしているはずだ。

その事故はきっと、私が入院し始めたころに起こってしまったんだろう。




あの日、ラグビーの中継で彼を見つけて夢の謎が解けた時、私はすべてを理解した。





――彼は、約束を破ったわけじゃなかった。

 私は、一人病室で、泣いた。そしてひとしきり泣いたあと、前を向いた。




――大丈夫。あなたの大切な記憶は、きっと戻るからね。私が、協力するから。

 右隣に座る彼に、私はもう一度心の中で語りかけた。




「あの・・・それ、やろうか?」



 新学期が始まってから2週間ほどたったある日、転校生の私が彼に向けて初めて発した言葉だった。正確に言えば初めてではないけれど。



「え・・・!あ、いや、だいじょうぶ!・・・です」



 彼は、私の申し出をことわってしまった。


 何がだいじょうぶだ。右手にギブスをはめている状態で、模試の申込み用紙を切り離そうと苦心している様子は、なんだかすごく笑える。



 けれど私は、面白がって見ていることを悟られないようにした。


 彼は、右手で紙をおさえ、左手で切り取った。


 彼は、私の顔を見ることはなかった。



 そういえば彼は、シャイなんだということを忘れていた。これは大変だと思った。


 忘れてしまったなら、また、知ってもらえばいい。

約束も、もう一度すればいい。


 もちろん、彼が同意すればの話だけど。

 


 私はタイミングをうかがっていた。なんにせよ、右手の骨折が治らなければ絵も描けない(美術の時間に彼が左手で描いていた絵を見たけど、それでも人並み以上に上手かった)。



 私にとってのヒントは、あの夢だけだ。彼の視点で見ていた夢。ギブスが取れた帰りに公園によって、かおるくんと絵を描く。そこで私に、話しかけられる。



 でも、夢の中でその日が何月何日かなんてわからない。私は、夢で見たようないい天気の日には必ず公園をのぞいた。



そして、その日はやってきた。誘い方がちょっと強引だったかなと私自身思ってたけれど、


彼は、私の物語に絵を描いてくれるという。同意してくれた。僕なんかの絵でよければ、なんて控えめに言って。私は、


――君じゃなきゃダメなんだよ!


 って言ってやりたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ