34 僕らの宝物
ある日、事件が起きた。
昼休み中、私がお手洗いから教室に戻る時、教室が何やら騒がしくなっていることに気が付いた。速足で教室に向かう。
入口で見た光景は、私の想像を、超えていた。
『かえせっ!』
・・・彼が。あの立樹くんが、身体の大きな男子に強烈な体当たりをしていた。
なぜそんなことになっているのかは、彼らが奪い合っている物を見てわかった。
あの、ノートだ。
胸が、きゅうと苦しくなった。
彼が、大柄の男子に殴られる。激しい音に、思わず目や耳をおおいたくなった。
殴られても、彼の細い腕はノートからはなれていなかった。
『かえせっ!』
また、叫ぶ。叫びながら、殴られながら、彼はノートにしがみついている。
でも、体格差がありすぎる。
このままでは、彼の体が危ない。自分がどうなってもいい。止めに入ろうと思った瞬間。
彼が思いもよらない一言を叫んだ。
――『これは、僕らの宝物なんだっ!』
私の目からは、涙があふれていた。それと同時に、私とは反対側の入り口から先生が駈け込んだ。
『やめなさいっ!』
ゆがんだ視界で、彼は先生によって男子から引きはがされていた。手には、あのノートがしっかりと握られている。それを最後に、私は前を見ることができなくなった。




