33 幸福な日々
私達は、友達になった。立樹くんは、私のペースに合わせてしゃべってくれた(そもそも、彼自身もあまりしゃべるのが早くはなかった)。
ある時私は、彼に『私がものを隠されたりすると次の日ご親切にわかりやすいところにおいてあったりするんだけど、これは誰がしてくれてるんだろうって気になってるんだ』とカマをかけてみたことがる。
彼は困った表情をしてから、『持ち物に「だれ」って書いとけばその人も答えてくれるんじゃないかな』と冗談ぽく言った。
そこまで言ってもはぐらかそうとするのか、君は。私は少し呆れたけれど、彼が私に冗談を言ってくれたことが嬉しかった。なんだか、心を開いてくれているみたいで。
ある時私は、いつも書いている物語は、今見ている不思議な夢がもとになってるんだ、という話をした。すると彼は思いのほか興味を示したようで、「くわしく知りたい」と言ってきた。でも、学校では十分に話せる時間はとれない。
そこで私たちは、『だれかのノート』を持って放課後に公園で待ち合わせることにした。お互いが近所だということはもうわかっている。
友達と待ち合わせをするのは、初めての経験だった。ノートは、立樹くんが図書室から持ってきてくれた。
彼の方が、早く公園についたようだった。私はドキドキしながらも、手をふってみた。彼も、ふりかえしてくれた。
ベンチに二人で座ると、彼は新しく描いた絵を見せてくれた。本当にきれいで、毎回感動している私がいる。
『ありがとう。すっごく素敵』
私はそう言って、足をパタつかせた。彼も、嬉しそうだった。
それから私は、彼にあの奇妙な夢のことを相変わらずスローな口調で話した。彼はそれでも興味深そうに、ウンウンとうなずきながら話を聞いてくれた。それが、何よりうれしかった。
彼は、女の子の私が男子高校生になる夢を見たと言っても全然驚いていなかった。もしかして彼も、夢の中で性別の違う自分になったりしたことがあるのかもしれない。そんなことを聞く勇気はないけれど。




