29 物語の、終わりと始まり
『また、会えたね』
『うん、会えて本当によかった。』
男の子は、また夢の中で女の子と再会することができた。それはつまり、彼女の手術が成功したということだ。そして男の子は、縄とび大会で優勝したということ。
そこは、海でも、空でも、森でもなく、教室だった。
『勇気を出したね、たつきくん』
女の子は言った。
『お互いにね。』
男の子も。
『ところで、今日はなぜここなの?』
『ここには、見覚えがあるでしょ?』
『うん、ここは僕の学校だ。でも僕の教室じゃない。一つ上の六年生のだ』
男の子は、教室の一番後ろの席に座り、女の子は教壇に立っていた。
『今日はね、お別れを言いにきたの』
男の子は、あまり驚かなかった。
『そうだろうと思っていたよ』
『それなら話は早いわね。でも、これからする話はちょっと複雑よ?』
『僕は君と夢の中で海を泳いだり空を飛んだりしたんだ。もう、なんだって受け入れられるよ』
女の子は、笑顔になり、じゃあ、と言って話し始めた。
『私は、あなたに助けられたことがあるって言ったでしょう?』
『うん。だから、君は僕のいいところを知ってて、教えてくれた。でも、僕は結局君のことを思い出すことはできなかったよ』
『思い出すのは不可能だったの。なぜならあなたが私を助けてくれたのは私にとっては過去のことでも、あなたにとっては未来のことだもの』
男の子は、なんでも受け入れると口にした手前、大きなリアクションをとることはできなかったけど、内心かなり驚いていた。聞き間違いでなければ、彼女が未来から来たのだという。でも、今まで思い出すことができずに抱えていたもやもやはなくなった。そして、男の子には彼女が嘘を言うとは思えなかった。
『・・・信じるよ。君の言葉に嘘はないと思う』
『ありがとう。素直なところも、あなたのいいところだよ』
『じゃあ、一つ聞かせて。君は、いつ僕に会うことになるの?』
『一年後よ。あなたが六年生の時。場所は・・・』
と言って女の子は、下を指さした。つまり、ここ。この六年教室で、二人は会う。
『私は転校生としてこの学校にやってくるわ。でも、その時の私は、あなたと会ったことのない私よ。』
男の子の頭は、少し混乱した。
『難しいことを言ってごめんなさい。でも、気負う必要はないわ。あなたは、あなたのままでいてくれたらそれでいいの。それだけで私はきっと、救われるわ。』
『僕は、僕のまま・・・』
『あなたは、
私という誰かのために、
自分の可能性を見出して、
最後には勇気を出して私を助けてくれたわ。
あなたが縄とび大会を乗り越えた、その三つの力で。』
『それは、君が教えてくれたおかげだ。本当にありがとう。君にどんな困難が訪れるのかはまだわからないけど、必ず助けるって、約束するよ』
男の子は立ち上がり、女の子のいる教壇に上った。そして、小指を立てて手を差し出す。
すると女の子はちょっと困った顔をして、
『約束しても、あなたも、私のことを忘れちゃうのよ?』と言い、
それから、満面の笑みで、自らの小指をそれにからませた。
ゆびきりげんまん。
その時だった。窓の隙間から桜の花びらが風に乗って入りこみ、二人を包んだ。
二人は指をつないだまま、笑顔で見つめあっていた。
『またね』
二人の声は、重なった。お互いの姿が大量の花びらで一瞬見えなくなったと思うと、そこにはもう二人は存在していなかった。男の子は、目を覚ました。
そして、女の子も。二人は、見ていた夢のことは何もかも忘れていた。
二人はお互いのことをまだ知らなかったけれど、確かに、同じ時間にその世界に存在していた。
二人は、出会うことになる。桜が咲き誇る季節に、あの教室で――。




