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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
27/48

27 兎の勇気

『あそこには兎がいるでしょう?』

 女の子が月をゆびさして言った。



『うん、いる。餅をついてるよね』




『あなたの素晴らしいところの最後の三つ目は、あなた自身が考えてみて。これから私がする、彼の話を聞きながらね』



 月の綺麗な夜。森の中に、男の子と女の子は立っていた。



 現実での男の子はどうしたかと言うと、彼女が言っていた通り、自分の力だけで苦手に立ち向かうことをやめていた。


まず、縄の回し方のコツをクラスメイトに伝授した。それによって、彼も幾分か跳びやすくなった。


あとは、ひたすら跳んだ。クラスメイトに見てもらって、引っかかった時の自分の様子を教えてもらった。



それを聞いて、改善した。



男の子は、上達していった。

この夢から覚めたら、彼は本番の日を迎えることになる。




男の子は、とにかく緊張していた。

そんな男の子に、女の子は男の子の素晴らしいところの最後を伝えようとしていた。




『あなたは、どうして兎の姿が月にあるか知ってる?』

『ううん、知らない』


『じゃあ、簡単に話をするわ。あの兎はね、昔、狐と猿と仲良く暮らしていたの。三匹は、人に生まれ変わるために、人の役に立つことをしたいと考えていたわ。

ある時ね、帝釈天という神様がその様子を見て、一人のおじいさんに姿を変えて三匹に近づいたの。

何も知らない三匹は、そのおじいさんが「お腹がすいて動けない。何か食べ物を恵んでほしい」と話すと、これはチャンスだと思って食べ物を探し始めたわ。猿は木に登って木の実や果物を、狐は川で魚をとってきた』


『兎は、何をとって来たの?』

 男の子はもう一度月を見上げる。




『兎は、何も持ってくることができなかった。普段兎が食べている物は草だもの。それを人間に食べさせることはできない。かと言って、猿みたいに木には登れないし、魚もとれない』


『じゃあ、兎はどうしたの?』



『あなただったら、どうする?』


 男の子は悩んだ。人間が食べれるものをとることができないなら、どうすることもできない。



『・・・わからない』


『無理もないわ。誰もが思いつくことではないもの。・・・兎はね、驚くべきことに、火の中に飛び込んだの』




 男の子は予想外の兎の行動に驚き、そして察した。

『自分を、食べてもらうために?』




『そうよ。帝釈天は感動して、次に生まれ変わる時に人間にすることを約束したわ。そして、兎に可哀想なことをしたお詫びとして、月の中に兎の姿を永遠に残すことにしたの』



『そうなんだ・・・』



『兎には、食べ物をとる力はなかった。でも兎には、イルカがもっていた誰かのためにがんばろうとする力と、白鳥の自分の可能性を見出す力があった。でも、この兎のすごいところはこれだけではないわ。それは何だと思う?』



『・・・勇気』


 男の子は、確信をもって答えていた。




『そう。あなたの素晴らしいところ、最後の一つはそれよ。実は、あなたは今までにも勇気を発揮してきたのよ。自分でわかる?』



 男の子は、今までの自分の行動を思い出していた。




『明日に向けてあなたが気づかなければならないことはそれよ。あなたには勇気がある。自分よりずっと大きな相手に立ち向かっていっちゃうくらいのね』



『・・・緊張を乗り越える勇気も?』



『もちろん。あなたなら、きっと大丈夫』


 女の子は、そう言うと急にゲホゲホと咳き込んだ。



『大丈夫!?』



 男の子がかけより、彼女の背中をさする。


『ありがとう。大丈夫、と言いたいところだけど、正直、そうとも言えないわ』

『え・・・』





『ずっと言ってなかったけれど、私は病気なの』


 女の子の突然の発言に、男の子は大きな衝撃を受けた。


『どうしたら、治るの?』

 男の子は、涙声で聞いた。




『治すには、手術が必要よ。でも、その手術の成功率は、6割なの』



 男の子は算数が得意ではないけれど、それが決していい数字ではないことはわかった。

だって、10人に4人は・・・



『でも手術を受けなければ、長くは生きられない。だから決めたの。私を助けてくれたあなたと一緒に、私も勇気を出そうって』




『僕、やるよ。絶対に。そして、優勝する。見てて』

男の子は、力強く言った。だから君も、がんばって。



『ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ってた。だから、私もほとんど手術を受ける決心はできてるの。でも、うれしい。ホントに、ありがとう』




 女の子の目にも、涙が浮かんでいた。




『明日、また会えるわ。もし私の手術が成功していればの話だけど。その時、今まであなたに隠していたこと、教えるね。』



 突然、男の子の周りに、木枯らしが吹き荒れた。

 そして、男の子は夢から覚めた。涙をぬぐってから、天井に向かって言った。




『僕が、君のことを必ず助けるよ』


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