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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
25/48

25 だれかの

チャイムを押してしばらく待つと、ゆいこさんがドアを開けた。汗をびっしょりかきながら息をきらして玄関にたつ僕を見て、ゆいこさんは驚いて言う。


まず、中にはいって。



 僕は通されたリビングで、麦茶を用意してくれているゆいこさんに彼女のことを尋ねた。



 ゆいこさんは麦茶を差し出しながら、ううん、知らないわとかぶりをふった。彼女は今、自分の家にもいないらしい。



 僕はうなだれた。希望が、打ち砕かれた。



 ゆいこさんは、僕に麦茶を飲むことを促すと、立ち上がった。


「もしかしたら、かおるが何か聞いてるかもしれないわ。一昨日、華乃にかおるのこと見てもらっていたから。呼んでくるわね」



 一昨日は、まだ僕が菅平にいるころだ。僕は「お願いします」と頭を下げて、それから飲んだ麦茶が、からからの喉を潤してくれた。



 しばらくすると、ゆいこさんがかおるくんを抱っこしてもどってきた。かおるくんはどうやら、寝起きのようだ。



「あれ、たつきにいちゃん」

「おはよう、かおるくん。起こしちゃったみたいでごめんね」

「おはよう~」 



かおるくんは僕のとなりにすわると、小さな口をあけてあくびをした。

「かおるくん、聞きたいことがあるんだ。おととい、華乃ちゃんにあったんだよね。その時、華乃ちゃん何か言ってなかった?」

「かのちゃん?うーん・・・」



 かおるくんは目をこすりながら考えている。



「いってたよ。たつき兄ちゃんがきたらこういってねって」

「なんて?」

「んーと、やくそくまもれなくてごめんって」



 約束。それは、公園で会う約束のことか。ゆびきりげんまんをしたこととだとすれば、彼女の方は風邪を治すことだった。


いずれにせよ、一昨日そのことをかおるくんに伝えたってことは、一昨日の時点で約束が守れなくなることを知ってたということだ。



「華乃ちゃんが今どこにいるかは、かおるくんわかる?」

「ううん、わからない。」



「あと、何か言ってたことはあった?」


 もう一度かおるくんはうーんと考えてから、あ、と小さく漏らした。

「のーとをわたしてあげてっていってた」


「ノート?」

「もってくるからまってて!」



 ノート。それはきっとあの物語のものだろう。自分は渡すことができないから、かおるくんに預けたのだろか。そう想像して、かおるくんを待った。



 麦茶を全部飲み干した時、かおるくんが戻ってきた。

「これ!」




・・・かおるくんが両手で差し出したノートには、見覚えがあった。



 でも、思っていたものとは違った。





「え、なんで・・・。なんでこのノートを、彼女が?」

「ずっとまえにぼくにくれたんだよ。かのちゃんのたからもの。だからずっと、だいじにしてるの」

 






そのノートの表紙には、こう書かれていた。


――『だれかの』と。


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