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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
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2 夢と、あの人への関心

 四月の初め、妙にリアルな夢を見た。教室の中。ロッカーの中にランドセルがあったから、小学生の頃の夢だ。


 僕には、この頃の記憶がない。両親と旅行に出かけた時に事故に遭い、両親と、記憶を失った(らしい。僕は今、祖父と二人で暮らしていた)。だから、夢の中の出来事は本当にあったものなのかは確かめようがない。


でも僕はこの夢が本当にあった出来事を再生したものなのだと信じていた。別に、一部の記憶がないからといって生きづらさを感じているわけじゃない。


ただ、ぽっかりと記憶が抜け落ちている感覚は、気持ちが悪い(たとえば最近、自分の部屋の中から難解そうな分厚い医学書が出てきた時には、すごく驚いた。なんでこんなもの持ってるんだ?と思った)。


そして、時々どうしようもなく不安になることがある。そんな中で記憶がない時の夢を見れば、誰だってそれが自分の本当の記憶なんだって信じると思う。


 それは、自分のクラスに転校生がやってきたという夢だった。綺麗な瞳をした女の子だった。僕は彼女と初対面のはずだけど、なんだか懐かしさも感じていた。

あとわかったことは、その時の自分たちが六年生だったということ。卒業まであと何日っていうカウントダウンをする掲示物があったからわかった。(ちなみに、医学書の謎は解けるはずもない。)


 その夢を見たのは実際に森下さんが僕のクラスに来た日でもあったから、それがちょっとした引き金になって昔の同じような場面の夢を見たのかもしれない。彼女に声をかけられ、断わってしまったその日にそう思った。

 

 あの出来事があってから、僕は森下さんの存在を少し意識するようになった。と言っても、今まで0だったものが、1になった程度のものだけど、0と1では大違いだと思う。


 1になったことで、あることに気が付いた。それは、彼女のとなりは居心地がよい、ということ。

 彼女は僕に対して全く関心がないようだった。


 関心がないからといって、困っている時に無視をしたりはしない。これは最近分かったことだ。彼女は、困っている僕にきちんと親切をした。人として尊重してもらえた気がして、うれしかった。つまり、彼女は僕のことをプラスにも、マイナスにもとらえていない。そんな雰囲気が、僕の居心地をよくしていた。


 改めて意識して彼女を見て、初めて気が付いたことがいくつかある。

 まず、髪の毛。やわらかくフワフワとしたくせっ毛は、茶色っぽい。セミロングのそれは肩に当たって外側にはねていた。


 次に、その背。平均よりも低いんだと気づいた。座っている僕の横を彼女が横切ったとき、反射的に顔を上げた。すると、目の高さにあったのは、彼女の後ろ頭だった。

 最後に、笑った顔。彼女は、いつでもほんのりと赤くそまった頬をもちあげ、目を細めながら「ふふっ」と小さく笑う。


 幼い子供が、サンタさんからのプレゼントだとかディズニーランドにいくこととかを楽しみにしながら笑っているような、幼さがありながらも温かみのある笑い方だと思った。


 気が付いたことといっても大したものじゃない。でも、僕にとって女の子の特徴に関する気づきは初めての感覚だった。


 そんないくつかのことに気づいたあとでも、特に会話もなく、ただあの時彼女の厚意を断ってしまったことを謝り、そしてありがとうと言いたい気持ちを抱えながら僕は過ごしていた。


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