19 やるしかない
一筋縄ではいかないのは、男の子だけではなかったようだ。
つくづく、僕と彼は似ていると思う。
終業式が終わった後も、ラグビー部は練習をしていた。
今日も僕は、途中からAチームに入ることができた。
そして、見つけた自分の可能性、ディフェンスに集中した。
周りをよく見て、自分がマークするべき相手を見極め、確実にタックルで止める。そこまではいい。
でも問題があった。ラグビーは、ボールと、陣地の奪い合いのゲームだ。いくらタックルがうまくたって、それでボールが奪えたって、そのボールを相手陣地まで運べなければ勝てはしない。
僕は、ディフェンスだけをしているわけにはいかない。ふいにボールがわたってくることが必ずあるし、そもそもアタックに対して消極的なプレイヤーが一人でもいると、十四人で攻めることになってしまう。
今日の練習で僕は、ボールを三回もこぼしてしまった。せっかくのチャンスをなくしてしまった。
男の子が、縄の回し役だけでなく跳ぶ方もやる必要があるのと同じように、僕も、苦手から逃げていてはいけない。そう思わされた。
自信は、ない。でも、やるしかない。
「日比野、これからどうする?」
練習終わりに相良が声をかけてきた。
「もうちょっと練習していこうかな」
「がんばるね」
相良はそう言いながらも、つきあうよ、と言ってボールを用意した。
「ハンドリングの練習だろ?」
「・・・よくわかるね」
相良は、僕がこれからやろうとしている練習が何かをわかっていた。
そりゃ、そうか。
「まあね」
僕らは距離をおき、お互いにパスをし合う。回転のかかった相良のするどいパスは、よく伸びる。それに、精度がたかく、取りやすい位置にとんでくる。
「今日は見苦しいところを見せたね」
「ミスのこと?いや、しょうがないって。まだ手、痛むんだろ?」
相良はパスを放ってから自分の右手を指さした。
「うん。でも、それを言い訳になんてしてられないよ」
ボールを手に収める瞬間、まだ痛みが走る。
「流石だねっ・・・と」
そして、やっぱりコントロールが狂う。相良のいる位置よりも後ろにボールがとんでしまった。
「ごめんっ。ナイスキャッチ」
僕は両手を合わせる。相良はさらに距離をとった。
「だいじょう・・・ぶっ!」
するどい回転のかかった長いパスがくる。まっすぐ、僕の胸のあたりにジャストで。
「あの、お願いがあるんだけどっ」
「なに―っ?」
「これからも練習、つきあってもらいたいんだっ」
「いいよーっ」
相良はパスを受け取りながら即答した。
「日比野には試合でてもらわないと困るからなっ!」
相良の優しさに、感謝しなければならない。後悔しないためにも、苦手なことからは絶対に逃げない。
僕は、これが試合中なんだと思って相良にまっすぐパスを放った。
今度は、しっかりととんでいった。