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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
19/48

19 やるしかない

一筋縄ではいかないのは、男の子だけではなかったようだ。


 つくづく、僕と彼は似ていると思う。

終業式が終わった後も、ラグビー部は練習をしていた。

今日も僕は、途中からAチームに入ることができた。

そして、見つけた自分の可能性、ディフェンスに集中した。


周りをよく見て、自分がマークするべき相手を見極め、確実にタックルで止める。そこまではいい。

でも問題があった。ラグビーは、ボールと、陣地の奪い合いのゲームだ。いくらタックルがうまくたって、それでボールが奪えたって、そのボールを相手陣地まで運べなければ勝てはしない。


 僕は、ディフェンスだけをしているわけにはいかない。ふいにボールがわたってくることが必ずあるし、そもそもアタックに対して消極的なプレイヤーが一人でもいると、十四人で攻めることになってしまう。


 今日の練習で僕は、ボールを三回もこぼしてしまった。せっかくのチャンスをなくしてしまった。

 男の子が、縄の回し役だけでなく跳ぶ方もやる必要があるのと同じように、僕も、苦手から逃げていてはいけない。そう思わされた。


 自信は、ない。でも、やるしかない。



「日比野、これからどうする?」

 練習終わりに相良が声をかけてきた。


「もうちょっと練習していこうかな」

「がんばるね」

 相良はそう言いながらも、つきあうよ、と言ってボールを用意した。

「ハンドリングの練習だろ?」

「・・・よくわかるね」

 相良は、僕がこれからやろうとしている練習が何かをわかっていた。

そりゃ、そうか。


「まあね」

 僕らは距離をおき、お互いにパスをし合う。回転のかかった相良のするどいパスは、よく伸びる。それに、精度がたかく、取りやすい位置にとんでくる。


「今日は見苦しいところを見せたね」

「ミスのこと?いや、しょうがないって。まだ手、痛むんだろ?」

 相良はパスを放ってから自分の右手を指さした。


「うん。でも、それを言い訳になんてしてられないよ」

 ボールを手に収める瞬間、まだ痛みが走る。


「流石だねっ・・・と」

 そして、やっぱりコントロールが狂う。相良のいる位置よりも後ろにボールがとんでしまった。

「ごめんっ。ナイスキャッチ」

 僕は両手を合わせる。相良はさらに距離をとった。


「だいじょう・・・ぶっ!」

 するどい回転のかかった長いパスがくる。まっすぐ、僕の胸のあたりにジャストで。


「あの、お願いがあるんだけどっ」

「なに―っ?」

「これからも練習、つきあってもらいたいんだっ」

「いいよーっ」


 相良はパスを受け取りながら即答した。

「日比野には試合でてもらわないと困るからなっ!」  

相良の優しさに、感謝しなければならない。後悔しないためにも、苦手なことからは絶対に逃げない。



 僕は、これが試合中なんだと思って相良にまっすぐパスを放った。

 今度は、しっかりととんでいった。



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