16 彼の可能性
僕が見出した、僕の可能性。
それは、ディフェンスに集中すること。あのプレーのあと、監督にAに入るように言われたことで、僕のタックルが試合で活かされる場面はあるんだと確信した。
では、男の子が見出した自分の可能性は何だったか。
男の子は、夢の中で白鳥の話を女の子から聞いてから、自分ができることを考えた。
僕と同じように、選手として。教頭が言っていた『応援役』に回ってしまっては、それは『逃げ』になると考えた。
男の子は、クラスの全員に、勇気を出してあることを頼んだ。
頼みとは、一度抜けて、みんなが跳んでいる様子を見せてほしい、というものだ。
ガムシャラに頑張るのではなくて、冷静に考えようとした。
クラスのために、先生のために自分ができることは何か。
男の子は、そんな視点でよく観察した。跳んでいる景色と、それは全く違っていた。
ニージュイチ、ニジュ二、ニージュサン、・・・
次々と跳んでいくクラスメイト。しかし、何回かに一回は引っかかる。
自分がいたせいで、練習が遅れていたからだと男の子は胸を痛めたけれど、今はそんな場合じゃないと、引っかかる原因を探した。
タァン、タァン、タァン。
男の子の意識は、クラスメイト一人一人から、まわっている縄にシフトしていた。
しなりながら回るそれをじっとみた。音を聞いた。
そして、気が付いた。
――縄が床にバウンドしている!
クラスメイトが縄に引っかかっている時、必ず縄が床に当たって小さくだけど跳ね上がっていた。それともう一つ、縄が回るスピードが一定ではないことも原因だ。
もしかしてと思い、男の子はまた、ある申し出をした。
『僕に一度、縄を回させてもらえない?』
それも、勇気のいる一言だった。でも、少しでも自分の可能性が見えたなら、それをやってみなければわからないと思った。
クラスメイトも、同じ気持ちだった。男の子の真剣な気持ちに応えようとしていた。
男の子は、反対側で回すクラスメイトに一言何かを言った。
そして縄を持ち、深呼吸をした。
『よし。せーのっ』
イーチ、ニーイ、サーン・・・
男の子は、自分の回す縄の音を聞いた。
タン、タン、タン。
よし、と思った。クラスメイトが自分の前で、自分の回す縄をリズムよく跳んでいく。
ロクジュイチ、ロクジュウニ、ロクジュウサン・・・
全員で、連続で跳んだ数を数える。
すごい! いけるぞ!
誰かが、興奮気味に言った。
男の子は、顔を輝かせた。
クラスメイトも。
流れは、途切れない。
キュジュナナ、キュジュハチ、キュウジュキュ、
『百!』
全員の声がそろったと同時に、「ピーッ」と笛がなる。終了の合図だ。
『よっしゃあ、新記録!』
『こんなに続いたの初めて!』
男の子も、クラスメイトも、みんな肩で息をしていた。かなりの体力をつかった。あれだけ跳んでいたというのに、まだ跳びはねている。
――縄をもう少し短く持って、たるまないように一歩下がろう。膝をつかって大きく回そう。
始める前、男の子が縄を持つクラスメイトに言った言葉だった。
すごいよ! なんかいつもより跳びやすかった! どうやったの?
クラスメイトが、男の子にかけよって口々に言った。
『うん、あのね・・・』
男の子が見つけた可能性は、縄の回し役。
それは、白鳥のように、
仲間の障害となる要素を取り除くことだった。