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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
16/48

16 彼の可能性

 僕が見出した、僕の可能性。


それは、ディフェンスに集中すること。あのプレーのあと、監督にAに入るように言われたことで、僕のタックルが試合で活かされる場面はあるんだと確信した。

 


では、男の子が見出した自分の可能性は何だったか。



 男の子は、夢の中で白鳥の話を女の子から聞いてから、自分ができることを考えた。


 僕と同じように、選手として。教頭が言っていた『応援役』に回ってしまっては、それは『逃げ』になると考えた。



 男の子は、クラスの全員に、勇気を出してあることを頼んだ。


 頼みとは、一度抜けて、みんなが跳んでいる様子を見せてほしい、というものだ。

 ガムシャラに頑張るのではなくて、冷静に考えようとした。

クラスのために、先生のために自分ができることは何か。



 男の子は、そんな視点でよく観察した。跳んでいる景色と、それは全く違っていた。


 ニージュイチ、ニジュ二、ニージュサン、・・・


 次々と跳んでいくクラスメイト。しかし、何回かに一回は引っかかる。


 自分がいたせいで、練習が遅れていたからだと男の子は胸を痛めたけれど、今はそんな場合じゃないと、引っかかる原因を探した。



 タァン、タァン、タァン。


 男の子の意識は、クラスメイト一人一人から、まわっている縄にシフトしていた。

しなりながら回るそれをじっとみた。音を聞いた。

そして、気が付いた。



――縄が床にバウンドしている!



 クラスメイトが縄に引っかかっている時、必ず縄が床に当たって小さくだけど跳ね上がっていた。それともう一つ、縄が回るスピードが一定ではないことも原因だ。



 もしかしてと思い、男の子はまた、ある申し出をした。


『僕に一度、縄を回させてもらえない?』



 それも、勇気のいる一言だった。でも、少しでも自分の可能性が見えたなら、それをやってみなければわからないと思った。



 クラスメイトも、同じ気持ちだった。男の子の真剣な気持ちに応えようとしていた。

 男の子は、反対側で回すクラスメイトに一言何かを言った。



 そして縄を持ち、深呼吸をした。


『よし。せーのっ』


 イーチ、ニーイ、サーン・・・



 男の子は、自分の回す縄の音を聞いた。

 タン、タン、タン。



 よし、と思った。クラスメイトが自分の前で、自分の回す縄をリズムよく跳んでいく。


 ロクジュイチ、ロクジュウニ、ロクジュウサン・・・


 全員で、連続で跳んだ数を数える。


すごい! いけるぞ!

 

誰かが、興奮気味に言った。


 男の子は、顔を輝かせた。

クラスメイトも。

流れは、途切れない。


 キュジュナナ、キュジュハチ、キュウジュキュ、


『百!』



 全員の声がそろったと同時に、「ピーッ」と笛がなる。終了の合図だ。

『よっしゃあ、新記録!』

『こんなに続いたの初めて!』



 男の子も、クラスメイトも、みんな肩で息をしていた。かなりの体力をつかった。あれだけ跳んでいたというのに、まだ跳びはねている。



――縄をもう少し短く持って、たるまないように一歩下がろう。膝をつかって大きく回そう。



始める前、男の子が縄を持つクラスメイトに言った言葉だった。



すごいよ! なんかいつもより跳びやすかった! どうやったの?

クラスメイトが、男の子にかけよって口々に言った。



『うん、あのね・・・』



 男の子が見つけた可能性は、縄の回し役。



それは、白鳥のように、

仲間の障害となる要素を取り除くことだった。


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