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誰かのための物語  作者: 涼木玄樹
15/48

15 ふみだした一歩

 その日の部活で僕は、自分の可能性を探していた。


 チームのため、仲間のため、監督のため。そのみんなと喜びを共有したい自分のために、自分にできることはなんだろう。



――試合に出るしかない。


 もう、スタメンになることにはこだわらない。ただ、試合に出ること以外に僕の可能性を見出したとしたら、それは『逃げ』になる。



 だから僕は、あくまで選手として、チームに貢献したいと思う。


 もうすぐ夏休みに入る。そこでたくさん練習試合をする機会がある。まずは、そこで少しでも多く試合の経験を積みたい。


 そんな思いで、練習に臨んだ。



 また、AチームとBチームのゲーム形式の練習だ。僕はまだ、Bチーム。


 ガムシャラに頑張るのではなく、自分のできることを探してそれに集中する。


 僕は、今日の朝もやったタックル練習の時の感覚を思い出していた。

肩がしっかりと相手の芯をとらえる感覚。

ただ、倒すのではなく、相手を押し返すつもりでやる。



 目の前の相手が、ボールを持った。相良だ。



 ステップで僕をかわそうとする彼の、腰を僕は見ていた。どれだけステップをきっても、腰だけは、ぶれない。



――バシン。



 タックルバックを相手に練習していた時も試合をイメージしていたのがよかったんだと思う。僕の肩が、相良の腰をとらえ、大きな音が響いた。



 僕の頭は、下がっていなかった。まっすぐ前を向いている。


 足をかき、彼をあお向けに倒す。相手のフォローはまだ来ない。


 僕は、ボールにからんだ。すると、相良は奪われまいと強く抱きかかえた。


『ピーッ』


 審判の笛が鳴る。

「ノットリリース!」



 ラグビーでは、タックルで倒されたら一度ボールを放さなければならない。

 相良は、ここで渡してしまってはトライをされかねないと判断して、反則をおかしながらもプレーを一旦止めた。ラグビーではよくある場面だ。Bチームのキックで試合が再開されることになる。



「ナイスタックル!」

「立樹さんさすが!」



近くにいたBチームの後輩がハイタッチを求めてきた。僕はそれに応えてから、キッカーにボールを渡した。


相手のペナルティを誘えるほどのタックルができたのは久しぶりだった。


やっぱりこれだ!と僕は思った。


僕がチームのためにできることは、タックルで相手からボールを奪うことだ。





「さっきはやられたよ」


 休憩中、相良は笑いながらそう言うと、水を一口飲んだ。


「まぐれって言いたいところだけど、正直に言うとああいうタックルをずっとしたいと思って練習してた」



「知ってる。毎朝やってるもんな。日比野、なんか変わったよ。焦りがなくなったっていうか、周りがよく見えてるっていうか。ボール持った瞬間目の前に日比野いてすごいこわかった」



 相良は、両手を上げて驚いた時のリアクションをしてみせた。



「ようやく体力もついていけるようになった感じするよ」


「うん。そりゃよかった。その調子でどんどん行けよ。早く一緒に試合出たいし」

「がんばるよ」

 僕は、自分が疲れにくくなっていることも感じていた。




「おい日比野」

 給水ボトルをかごに戻しているところで、監督が声をかけてきた。


「休憩明けから一回Aに入ってみい」

「えっ!ほんとですか」

 思いがけない言葉だ。



「嘘なんか言わへんわ。右フランカーな」

「は、はい!」



「やったじゃん、日比野!」

 相良が、自分のことのように驚いている。



まずは、一歩を踏み出すことができた気がした。


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