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俺とみんなとの初めての旅と

まずは一言お詫び申し上げます。

ごめんなさい。全然投稿しなくてごめんなさい。


では改めて。

お久しぶりです。

久々の投稿です

ずっと温めてたルフトの師をようやく登場させることができました。

これから先、割と登場する予定のある師匠も含め、どうぞお愉しみください。

「さて、と…」


今、俺の目の前に広がるのは梱包に使用されていたおが屑や木箱の蓋などなど。


「なぁルフト。コレってホントに報酬か?」


開封し終えた木箱の中を覗き込む小虎や。


「他人のモノを言うのもなんでっすが、コレは…」


木箱に入っていた武具を手にしているナリから驚きにも似た不満の声が上がっている。


「ふむ、下手したらこれは嫌がら…」


「そ、それ以上は言わないでください。悲しくなりますから…」


それはフタやセラそして。


「だよなぁ、こんなもの渡されても、なぁ?」


俺からも、である。

みんなで夕飯を食べに行った後、報酬の事を思い出した俺たちは手分けして木箱を開封していった。

みんなが{報酬の武具}と言う甘美な響きに期待し多少床が散らかる事など気にもせず、それはもう豪快に。

けれど、そこから出て来たのは…


「全く、王都の人達は何を考えているんだか。こんな…そこらで売っていそうな武具を丁寧に梱包して渡すなんて」


そう。フタが言う通り木箱に入っていたのは駆け出しの冒険者が背伸びすれば買えそうな武具ものばかりだった。


「ま、待って下さい。もしかしたらどこにでもある普通の形なのはわざとで、使っている鉱石等の素材が

大変高級なものなのかもしれませんよ!」


セラが少し慌て気味に言う。


「なるほど、一理ある」


と、言うのもこの世界に存在する魔物は右も左も分からない程頭の悪い個体から、人類と同等かそれ以上の知能を有する個体まで様々。

中でも狡猾な魔物は冒険者の持つ武具類を奪い取り装備するらしい。


「オレもそうかなと思ってよく見てみたけど…」


歯切れ悪く言葉を発する小虎は最後まで言うことができず俯向うつむき黙ってしまう。


「だとしても、何故ここまで普通な武具類を贈ってきたのだ?」


フタが贈られてきた内の一つを取り上げた。

その手にあるのは天井から垂れる灯りが反射し眩く輝く銀色の刀身で、刃渡はおおよそ90〜100㎝程度の両刃刀。俗に言う長剣だ。


「…うむ、やはり特に変哲のない、良くも悪くも普通の剣だ」


フタは長剣の握りを両手や片手で持ち感触を確かめる風に構えたりしている。


「ちょっ、あっぶ、あっぶないよー!」


近くで防具を手にしていたナリがポニテを揺らして長剣を避けた。

いちいち動作が可愛い。

「っと、ナリの持ってるそれは?」


「コレ?見た所盾みたいでっすけど」


ナリは手にしている青銅の盾らしき物の表裏を確認する様にして見る。


「やっぱり、コレもこの辺でも買える青銅の盾でっすね」


「やっぱりかぁ」


意図したのかと思うほど同じタイミングでため息をし2人同時に肩を落とす。

その時だった。


【バタン!】


「「「「「うわぁ!」」」」」


突然大きな音を立て開いたドアに部屋にいた全員の視線が集中する。


「やっぱり!遅かった!」


そこに居たのは宅配人然とした服装の冴えない青年だった。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


「えぇと、つまり渡すのを間違えたって事か?」


尋問官の小虎は腕組みをしていぶかしげに問い質す。


「はい。正にその通りです。ごめんなさい」


目の錯覚か、見る時間と比例して縮んでいく宅配人ーーラルーーは正座し額をこれでもかと床につけ平謝りしている。


「その…ラルさん。面をあげて下さい」


セラが優しく言うもそれを跳ね除けるかの様にラルが態勢を変えぬまま口を開く。


「いいえ良いんです!お客様に御迷惑をお掛けしたのですからこのくらい当然です!」


「とは言ってもな。このままでは会話もままならぬだろうに」


ナリの言う通り土下座をしている人に対して会話をするというのはなんとも気分の悪い。


「よっし!じゃあさ、後でラル君の事は宅配会社に報告しとくから。とりあえず頭を上げてくれないかな?」


ナリの身もフタも無い物言いを良しとしたのか、ラルは額を床から離し事の経緯を話し始めた。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


「えーと、要するにあれか。荷物の入れ違いって事か」


既視感的な発言はさておき。

腕組みをし納得する俺を見たラルはいい笑顔で応えた。

「はい!そーいう事です!」


「バカ」


間髪入れず小虎の突っ込みが飛ぶ。


しゅんとするラルを気遣う気もないのかフタは続けざまにラルへ質問した。


「それで、本来の報酬が欲しいのであれば直接王都まで取りに行かなくてはならない。と言う事で良いのだな?」


「その通りです」


フタの言葉に頷くラル。


「ですが、私達はこれからルフトさんの故郷に…」


セラが申し訳なさそうに言う。

確かに、俺としては早く見たいと言うのが本当のところだ。

どうするか悩んでいると、おもむろに小虎が口を開く。


「待ってセラ。なぁラル?地図みたいなの持ってるか、王都からここまでくらいの」


「何故そんな事を聞くのだ?」


「良いから良いから」


フタの質問を意に返さない小虎は、早く早く、とラルを催促する。


「えぇっと…あ、ありました!」


するとラルは、ガサゴソと腰に巻いている小さな鞄から全くと言って良いほどヨレていない真新しい地図を取り出した。

今回の配達の失敗や新しい地図を見るにラルはまだ新人の配達員だという事がわかった。


「なぁルフト。お前のいた村ってのはどこなんだ?」


「ちょっ!」


小虎はラルからひったくった地図を俺の前に出し、場所を示してくれと促す。


「えーと、確か…」


ここが今いる町でそこから村までだから…

そこまでの道を指でなぞる。


「ここ…だな!」


探していた故郷は町から北北東にある浅い森を越えてほんの少しだけ幅のある川をまたいだ所にあった。

夢で見ただけなのに妙に自信が持てたのは。

きっと、産まれた場所と言うのがそれだけ大きな意味を持つから、なのだろうか。


「ここだな?」


小虎は俺が指差していた場所に自分の指を当てそのままラルに見せる。


「ラル、王都はここからどの方向にあるんだ?」


「ここからですか?……ここからなら追加で北へ2日程、道なりに進めば王都に着きますね」


と、俺の故郷から流れる様に指を滑らせ王都までの道を示した。


「なるほど、これなら少々時間がかかるが王都にもルフトの故郷にも行けるな」


「だろ?百聞は一見に如かずってな!」


にかっ、と満面の笑みをこぼす小虎。


「少し使い方が違う気もしますけど…ですが、これなら」


「いや〜、里を出て以来の長い旅になりそうでっすね!」


ちらりとこちらを一瞥いちべつするセラ達の瞳は俺に同意を求めていた。

つまり満場一致、と言うわけだ。


「よーし、それじゃ一端の冒険者らしく長旅にでも出るか!」


明るく快活な声が部屋に響き渡る。

けれどそれは俺の声ではなく…


「なぁ、小虎。それはお前が言う台詞じゃないよな?」


そして俺たちは旅に出る事になった。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


「いやぁ、思ったより辛いな…」


背後から不満の声が上がる。


「小虎ちゃんは本当に弱いんでっすね〜。本当に冒険者なんですか〜?」


「う、うるさい!オレは資格を持ってると色々楽だからって取っただけだ!」


面倒な事にナリとの言い合いが始まってしまった。

この2人はあまり仲が良くないのかよく言い合いをする。

大体は小虎の弱音に対してなのだが。


「だとしても…」「だから…」


それにしてもこの2人は…!

絶え間無く続く言い合いに嫌気がさした俺は。


「やかましい!大体、小虎がクエストを1つもこなして無いのが悪いんだぞ!お陰で…お陰で…!」


注意をしながら涙で瞳を霞ませ左手に目をやる。

その手首からは細い麻縄の様なものが後方へ延び、小虎の右手と繋がっていた。


「そうですよ。全く、こんなおかしな話がありますか」


小虎のすぐ裏を…と言うより左隣を歩くセラが不満の声を上げる。


「本当に狂ってるとしか言えません!」


口早に告げるセラ。


「そんなのわたっ…同じ女性として如何いかがなものかと!」


「同意見だ。しかし、一度隊長と決めたら変更不可だなんて…もう少し良く考えてから決めるべきであったな」


と、セラの背後を歩くフタの声が聞こえた。

確かに、同じ女性のセラやフタにしてみれば不安だろう。

同い年の男女が縄で繋がり、行動の全てを共にしなければならないのだから。

実際、ギルドで俺と小虎の手を繋いでいた受付の人もなんとも言えない顔をしていた。

なお、この縄は特殊な素材で編まれそれこそドラゴンの力を持ってしても千切れるかどうかの頑強さを誇る。それに付け加えギルドの受付の人が持つ術の【結合の術】を使用している。これにより術をかけた本人が解かない限りどうにもならない。

全くもってなんて事をしてくれたのだろうか、あの受付は。


「それにしても、まさか『1度もクエストをこなしていない冒険者が他の冒険者と旅に出る場合、万一の事故を防ぐため縄で繋ぎ行動を共にする』などという条約があっただなんて」


フタの呆れた声を聞き、またしても視界が霞む。

俺は何をしているんだろうか…


「でも、小虎ちゃんにしてみたら嬉しいんじゃないんでっすかね〜」


最後尾を歩くナリが茶化してくる。


「ばっ、そんなわけないだろ!」


「2人ともやめろって!」


「「はぁ〜い」」


小虎はイマイチ納得がいかずに返事をしたのに対し、ナリは半笑いで返す。

今の時点ではナリの方が一枚上手か。

ちなみに、配達人のラルは一足先に王都へと帰って行った。


『申し訳ないんですが、まだまだ仕事があるので失礼しますねー』


との事だ。


「はぁ…それより小虎。今更だけどなんだその格好」


「へ?」


「その、防御力の欠片もない姿はなんだって聞いてるんだ」


背後を歩く小虎に目をやる。

出発時に気になったがあえて聞かなかった小虎の装備。

その豊満な部位をサラシで何周かさせただけで良しとした上半身、ダボダボで灰色のぶ厚い長ズボン、重いものを落としても安全な安全靴。

ねじ鉢巻はちまきをしていない点を除けば鍛冶をしている時となんら変わらない服装をしている小虎。

それに引き替え他の面子はと言えば。

俺は着流しに小虎の創作武器を背負い、セラは深黒しんこく色のローブに身を包み右手で自分の背丈程もある杖を所持している。

フタとナリは細い鉄を組み込んだ網目の下着に紺色の上衣と下衣と言う、なんでも2人の住んでいた里でのみ生産されているという特殊な服を着ている。

見た目は上下の別れた着流しと大差無い布製の服なのだが、里秘伝の布を使っていて耐久性、運動性、吸水性、果ては通気性や脱臭性にも優れている万能服だとか。

2人とも背に短刀を携え右の腰に投擲用の手裏剣、左の腰に煙幕等が入っているとのこと。

ちなみに、2人の服装は俺たちが助けた時も同じ種類のものを着ていたとの事。

流石にその時の服はボロボロになってしまったので今来ているのは幾つか持ってきている替えの内の一着だそうだ。

つまり、みんなは万全の準備をしているのに、小虎こいつはこんなにも軽装備なのだ。


「いやだって、お前が守ってくれるんだろ?」


小虎は俺が何を言ってるのか分からない。といった風にキョトンとした表情をしてみせる。

なるほど。

こいつには想像力というものが欠けてるらしい。


「…あのなぁ、もしとんでもない量の魔物に囲まれたらどうするつもりなんだ。とてもじゃないが俺だけじゃ守り切れないぞ?」


と、少し大袈裟な言い方で今の格好だと危ないのだと小虎に教えてみたのだが。


「…それでも、お前がどうにかしてくれるんだろ?」


屈託の無い微笑みで返されてしまった。

その表情や台詞を少し嬉しと感じてしまう自分がいるのはきっと気のせいだ。


「ケ、ケホン」


「仲睦まじいところ申し訳ないが、背後に私たちがいる事を忘れないでくれ」


「お尻が痒くなってきますからね〜」


「え、ああ。忘れてないよ?もちろん」


危ない、完全に忘れてた。

などとくだらない事を語りながら馬車等が行き来したお陰で平坦になった道を進む事、約8時間。

空で燦々(さんさん)と輝いていた太陽もいつの間にか西へと姿を隠し始めていた。


「ふむ、今日はここまでか。この辺りで野宿する準備をしよう」


「でっすね〜。2度とあんな辛い目には遭いたくないですから」


俺たちの中で唯一長旅を経験しているフタとナリは今回の実質的な隊長だ。

名目上は俺だが、それはあくまで目的地が自分の故郷へ赴くから。

そんな実質的な隊長が言うのだから文句が上がるわけも無く。


「「「りょうかーい」」」


そうして、フタとナリを除いた3人の初めての長旅1日目は終わりを告げた。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


「………」


パチパチパチと火花を散らし煌々(こうこう)と燃え上がる焚火たきびの優しい暖かさが横になっている俺の背に問いかける。

おまえは村に戻って何がしたいんだ。

万一にもあいつが、キャロが生きていて奇跡的な再会を果たせると思っているのか?、と。


「なぁ、ルフト。まだ寝てないよな?」


自問自答をしていた俺に隣で見張り番をしている小虎が問いかけてくる。


「…寝てるか。なら、勝手に話させて貰うぞ」


そう言い、懐かしい昔話を始めた。


「オレらが初めて逢ったのは…もう、8年位前になるのか。日が過ぎるのは早いな」


顔が見えたわけではない。でも、小虎は思い起こす様にまぶたを閉じ笑っていた。


「あの時、ルフトは飢えまくって死にそうだったっけかな。ロクな武器もない、身に付けてるのはボロボロになった麻の服。そこから見える肌は擦り傷、切り傷だらけ、休息と栄養が足りなかったのか口も利けない。それだけ酷い状況だった」


そこまで話すとため息を吐き。


「それでも、お前の眼からは『絶対に生きてやる』って、強い意志が感じられた」


小虎は側にあった枯れ木をべ。


「オレは…そんなお前に魅せられたんだ」


へへへっ。


そう照れ臭そうに笑い、焚べたばかりなのにまたも枯れ木を放り込む。

無造作に放り込まれたせいで炎がバチバチとゆらぎ、攻撃的な音を上げた。


「なんでかな、あの時オレは家業の鍛冶屋を継ごうとあの手この手でじぃちゃんを納得させようとしてた。でも、あんのジジイは何をしても頑として首を縦に振らなかった」


小虎は沈んだ声で言葉をつづる。


「それで、いい加減嫌になってた頃にお前と出会った。意志を感じた。だからかな、お陰で今でも諦めず家を継がせて貰える様努力出来たんだ」


ゴクリ、と小虎が喉を鳴らす音が聞こえた。


「ルフト、オレはな…」


言葉を詰まらせてもなお喉の奥に在る一言を吐き出そうとする小虎。

これはいけない。

ただ胸の内にある不満やこの旅に対する不安を表に出すだけなら静かに話を聞いて、何もなかったと流そうかとも思ったが…


「オレはな、ルフト。お前の事が…」


これ以上はいけないと俺の中の先見が警笛を鳴らしまくっている。


「ふ…あぁ…。おはよう小虎。今日もいい天気だな」


「なっ!おおおおお起きてたのか⁉︎」


言いながら体を仰け反らせ大袈裟に驚いてみせる小虎の顔は真っ赤に火照っている。


「いや、ぐっすりだったぞ?何かあったのか?」


「いいいいや何も⁉︎そ、それならいいんだ…」


慌てふためき大粒の汗をかく小虎に対し心の中で懺悔した

嘘ですごめんなさい。全部聞いてました。

俺の言葉を聞きホッと胸を撫で下ろした小虎は。


「そ、それじゃ見張り交代だな。オレは寝るぞ」


そう言い膝にかけていた大きめの布を頭まで被りそのまま寝入ってしまった。

それから少しした後。


「ルフト、今は夜だから『いい天気だな』より『いい星空だな』の方が幻想的だぞ」


もぞもぞ動く布の物体からちょっと遅めの突っ込みが飛んできた。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


「おーい、みんな朝だぞー」


昨晩小虎と代わってからずっと見張りをしていた俺は焚火とはまた違った懇篤こんとくとした暖かさを持つ陽が山陰から頭を出した事を確認しみんなを起こした。


「ん…んん!」


掛け声と共に両手を挙げ、伸びをして起きたのはセラだ。


「おふぁようこざいまふ」


ぽけ〜っとした眼差しをこちらに向け挨拶を口にする。

初の野宿、かどうかはわからないがあまり深く眠れていなさそうだ。


「おう、おはよ」


「おはよう。実に良い朝だ」


「おっはようでっす!近場に川がないか探してきますね〜!」


次に起きたフタとナリは、簡単な挨拶をするとそのままこの場を後にした。


「んかー」


未だいびきを上げ寝ているのは小虎ただ1人。


「起こすべきだと思うかセラ?」


「まだ良いのではないでしょうか。川を探しに出たお二人が戻って来たら起こしてあげましょう」


「ん、それもそうだな」


それはまだ辺りにもやのかかっている時間の会話だ。

【冒険者】と言う肩書きは持っていても実質普通の人と変わらない小虎をこんなに早く起こすのは少しばかり酷というもの。

そもそも、冒険者になる事自体はさして難しいものではない。

ただ、ギルドに申請して幾つかの試験を受け、合格すればいいだけ。

なんでも冒険者になる人は全世界で年に数千から数万人に登るのだとか。

何故そんなにも簡単に冒険者へとなる事が可能なのか。端的に言えばそれは人手不足だからだ。

中級の冒険者になる方法は【半年以上の貢献をした冒険者】だけで、その中級者になるためには俺や(恐らくは)セラの様に文字通り血の滲む努力をしなければならない。

無論、それは簡単な事ではなく当然夢半ばにして一般人に戻る者や時には土に還る者だっている。

更に言えば、中級者には年に幾つか難易度の高いクエストをこなさなければならない義務が発生する。

結果、旅に出たまま二度と帰ってこない冒険者が多くいる。

よって、冒険者という職業は常に人手が足らない。という訳だ。

要約すると、入るは易く在るは難し、と言ったところか。


「たっだいま〜!すぐそこに川があったのでセラっちと小虎ちゃんは先に行ってくださーい。あっちでフタが待ってますから〜」


こんなにも早い時間だと言うのに、昼や夕方と遜色無いハイテンションでこちらに手を振りながら小走りで向かってくるのは先程川を探しに行っていたナリだ。


「随分と早かったですね、わかりました」


そう言うとセラは「小虎さん、起きて下さい」と小虎の肩を優しくぽんぽんと叩いた。


「んか…ふぁ?」


小虎は大きく口を開け、およそ色気を感じられない欠伸あくびをし目を擦り身体を起こす。


「眠い〜〜」


「その気持ちもわかりますが、立ってください。フタさんが待っています」


「ふぁ〜〜…い」


小虎は欠伸とも取れる長い返事をすると、セラの手を借り立ち上がってそのままナリに川までの道を聞き、森へと歩いて行こうとした。


「待つんだセラ」


「どうしまし…あっ!」


やはり寝ぼけていた様で、セラはしきたりの事、俺と小虎を繋ぐアレの事を忘れていたらしい。

俺は縄に視線を落とした。

どうしようこれ…


「そう言えば川から割と近くに大きい木がありまっしたよ」


詰まっていた会話にナリの言葉が割って入る。


「ふぁ…ならそこでルフトが待ってればいいな…」


「え⁉︎それはちょっとどうなのかと⁉︎」


「だって仕方ないだろ。ほら行くぞルフト」


と、小虎が思いがけ無い答えを導き出した。

…ちょっと待つんだ。

一連の会話を見守っていたらおかしな方向へ進んでいる。

勿論、何かあるかもしれないと思わないでも無い。

けれど、それは人としてどうなのかと、理性が抑制を働かせている。

なので、出来ればここで待っていたいのだが…


「それじゃ、僕もついて行きまっすね」


そう言ったナリは手早く地面に敷かれていた簡易寝具を片付けまとめる。

どうやら、決定は覆らない所まで行ってしまったらしい。


「それじゃ案内しまっす」


「「えっ、ちょ、えええ⁉︎」」


いまいち納得していない俺やセラの事などなんのその。

俺は小虎に、セラはナリに、手を引かれるまま森へと入っていった。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


「では、僕たちはここの大きな木の裏で待ってますから〜」


「わかりました。…ルフトさん、絶対に覗かないで下さいよ!」


「覗かんわ」


「そんじゃなー。…ルフト、絶対にこっちを見るなよ」


「見ないから早く行ってこい」


「あはは!」


セラと小虎は少しの間俺の事をジト目で見ると心配気に川の方へと向かっていった。

俺はこんなにも信用が無かったのか。

ちょっとだけ泣きそう。






ナリは今、俺の手が届くかどうかくらいの位置にいる。

そこで思うように身体を伸ばしたりと軽いストレッチを行って暇を潰しているみたいだ。

よくよく考えてみるとこうしてナリと二人きりになるというのは初めてだ。

…………

………

……


「さ、3人は川にでも浸かるのかな?」


沈黙に押し殺されそうになった俺は堪らずストレッチをしているナリに話しかける。


「ん〜、どうでっすかね〜。ルフくんならこんなに朝早くから水に浸かろうと思いますか〜?」


ル、ルフくん⁉︎


初めて言われたその言葉に若干の驚きを隠せない。


「いやぁ…俺は嫌かなぁ…風邪は引きたく無い」


「でっすよね!僕もそう思います!でも、女という人種は何よりも清廉、清潔であろうとするものなんでっすよ」


いささか呆れ気味に手を額に当て笑うナリ。

その表情からは昔何かあったのかと察することができた。


「つまり、川に浸かってるって事か?」


「まっさしく」


今の凍てつく様な川へ本当に浸かるのだろうか。

ナリの断言に少しばかり疑いを持つ。


『へくちっ!』


その時、森の中に可愛らしいくしゃみの音が響いた。


「ほら、言った通りでしょ?」


ふふん、と小さな鼻を鳴らし得意げになるナリに陽が当たる。

気付けば周りに蜃気楼が如く立ち込めていた霞はいつの間にか霧散し木々に緑の葉と陽の葉が生い茂っていた。


『ひやぁぁあ!ちべたい!』


『あああ!何してるんですか小虎さん!まずは脚から徐々に胸の方へ水をかけて身体を慣らすんですよ!』


『あっははは!これは愉快だ!』


本当に川へ入っているらしい。

3人の笑い声や、冷たさにすくむ声が聞こえてくる。

ナリを疑った事に少し恥じを感じた。


「凄いな、あいつらバカなんじゃないか?」


「むしろ、気を回せる頭の良い人達でっすよ」


悪戯いたずらっぽく笑い俺の言葉を返す小虎の横顔はどこか淋しさをにじませていた。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


「この調子なら明日の昼には着きそうだな」


焚火の跡から離れ、陽の光を真上から受ける様になった頃、立ち止まり地図を片手に周りを見回しているフタ。


「まだ結構かかるなぁ…」


「そーやって小虎ちゃんは〜」


寝てる時以外、定期的に起こる二人の言い合いにも慣れた。


「そうか、なんつーかアレだな。近づくにつれ嬉しいのと怖いのとが共存した様な気持ちになるな」


俺の発言に小首を傾げ「難しいですね」と言うセラ。


「あっはは、自分を知るというのはそういうものさ。さぁ、そろそろ歩き出そうか」


達観した眼の持ち主フタはそう言い歩を進めた。


「そういうものなのか?」


ロクな眼を持っていない俺はフタの言葉に不思議さを感じながらも後に続いた。


「だからナリはっててて!ひっぱんなよルフト!」


やかましい!いつまでも言い合うお前が悪い!

そう言おうと思いゆっくりと後ろを振り向こうとした時。


「あれ?こんなとこに道があったか?」


丁度右隣の木々の間。

気付かなかった、では済まない広さの道があった。


「なぁフタ。この道はなんだかわかるか?」


俺は道の方に指を指して聞いた。


「む?いや、そこに道は見えないな」


「えっ?」


そんなはずはない。


「セラ、ここに道がある…よな?」


「道…ですか?私にはただ木々の茂る森しか見えませんが」


「嘘だろ⁉︎」


後ろを歩くセラにも聞いてみたがやはり見えないと言う。


「んなバカな!」


「どうしたルフトー」


「何かあったんでっすか〜?」


丁度よく、言い合っていた小虎とナリが若干間の抜けた声をかけてくる。


「いいところに来た!二人にはここの道が見えるよな⁉︎」


「ん〜?何にもありませんよ〜」


「だなー。木しか見えないぞー」


興奮気味に聞いたがそれとは対照的な二人の返答。


「嘘だろ…結構な広さの道があるんだぞ?」


眼前には以前変わらず道が見えている。

しかし四人には見えていない、けれど俺には見えている。

これは幻か?

それとも疲れでも溜まっているのか?

いいや、魔物によるものなのか?

何度も何度も自分の中で疑問を繰り返すたび、やがて自分の目に見えているものすら信じられなくなり始めていた頃だった。


『良い頃合いじゃな。畏れずただ己を信じそのろうどを通るのじゃ』


落ち着いだ女性の声が脳裏を廻る。

慌てて辺りを見回したが、在るのは思い思いに悩み、俺の言う道を見出そうとする四人だけだ。


『ふぅむ。やはり[ろうど]ではなく[道]と表現するべきだったかの』


再び女性の声が脳裏を廻った。

そうやって声が廻る時に感じたのは、とうとうおかしくなったのか。と言う嘲笑的考えではなく、お久しぶりです。といった懐古的な想いだった。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


『お、おい。本当に行くのか?』


『そうですよ。やっぱり道なんてありませんし』


『そうでっすよ〜。何かあったらこの二人がそれはもう凄い悲しむでしょうし。尻拭いはごめんでっす』


『『悲しむか(しみません)!』』


なんて会話は数分前。

今俺は小虎と繋がってる縄を頼りに、森に扮した道を警戒しながらゆっくりと進んでいるところだ。

フタの提案により、小虎と繋いでいる縄が伸び切るまでは俺の言う道を進んでも良いがそれでも何も見つからなければそのまま折り返す。

けれど、何か見つかれば縄を引き外で待っている私達にしらせる、という事になった。

フタの頭の回転の良さに舌を巻いた俺たちは全員一致でその提案を受けた。

なお、意地でもついて行くと言い張っていたセラには俺の超理論[ずっと縄を持ってれば繋がってる事になるから大丈夫]を振りかざし、理解に苦しんでいる間に全力でその場を走り去る。と言う手法を取り、まんまと上手く行ったのだ。

俺の頭の回転も捨てたものじゃないな。


(それにしても…)


『悲しむか(しみません)!』か…


ナリの揶揄からかいを間に受けた二人の返答が、一人歩く俺の心に沁み入る。

つまり泣きそうという事だ。


「っと、そんな事はどうでもいい」


脆くなった心を激励するため瞳をこすり、歩みを速める。

俺と小虎…とセラを繋ぐ縄は思いの外長く未だ突っ張る気配は無い。


「男女を繋ぐって事で普通より長くしてるのかもな」


久し振りになる独りは寂し過ぎてついつい口を開いてしまう。

その時、はたと気付いた。


「そうか、今は独りなのか」


思い返せばセラと出逢ってから今日までトイレ以外独りになる事は無かった。

正確に言えば独りにはなれなかったのだが。

意識を失い、観てきた記憶の中で俺は独りになった。

あの喪失感、あの哀情あいじょう、あの辛酸、この無念。

出来ることなら二度とあんな想いはしたく無いし、あいつらにも絶対に合わせたく無い。

…そういえば、俺はどうやって町にまで行ったのだろうか?

考えが至った時、目の前の景色が乱反射する水面みなもの様に歪んだ。


「なんだ…?急に視界が…」


『やれやれ。眼を向けるのか遅いのは相変わらずじゃな。そこに眼がゆくまでに余計な事を考えるところも、の』


落ち着きを内包した懐かしい日を想う声で語る言葉が脳裏を廻った。

けれど、今はその事に気をかける余裕は無く。ただただ誘われるままに水面へと潜る事しか出来なかった。


ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー


『良いかルフトよ。これからはわしのことをおねぇさま、と呼ぶんじゃぞ』


ぼやけ、かすみ、途切れ途切れに映る映像。


『ねぇさんでは無いおねぇさまじゃ。…だから、何度言えばわか…ええい!分からぬ奴じゃな!』

妙にハッキリと聞こえる声は『…ろ』さっき脳裏を廻ったものに似て…。


「起きろ!いつまでふけっておるのじゃ!」


【ゴツリ】


「ふぁっ⁉︎」


突如、額から激痛が走る。

それを発端に上半身が起き上がり自動的に視界が開けた。

その一連を表現するなら膝の脚気かっけ検査だ。


「全く…会って早々の挨拶が『ふぁっ⁉︎』じゃとはな…っぷふは!」


やっと脳が活動し始めた俺の目の前では笑いをどうにかこらえる美しい女性がいた。


「ん?この声は」


女性の声にはどこかで聞き覚えがあった。


「なんじゃ、首をかしげて」


ひらひらと風も無いのにたなびく裾の長い黒の上着を羽織り、反面異常にぴったりとしたヘソ出しの上下…上が真珠色の長袖、下は白の強い紫色の丈の短いズボン、黒くて太ももの頭まである靴下。

実に意味の分からない服装をする女性が小首を傾げている。


「全く、面倒な奴じゃな。ふむ…少し耳を貸してみろ」


「は、はぁ」


俺は頷き、呆れ顔で手招きをする女性の元へ近づく。


「こうですか?」


女性の言う通りに耳を貸すとそこに手を添え、二言だけ言葉を吐露される。

瞬間、全身の血液が倍増しの速度で走り出した。

脈が鳴動する度、血液の循環が起こる度、脳に神経に心に記憶が呼び起こされる。

ある日の朝食、家族との談話、よく遊んだ広場、そしてキャロとの出逢い。

それだけじゃ無い。

村の襲われたあの日、キャロと別れたあの日、それさえもより鮮明により鮮烈に思い起こされた。

そして。


「ふふふんふん。どうじゃ?思い出せたかの?」


小悪魔的微笑をたたえた目の前の悪魔。

何も知らない人が見れば妖艶な美しさを醸す見目麗しい女性だろう。

けど騙されるな。


「えぇ、今しがたしっかりと思い出しましたよ。おねぇさま…!」


そう、このおねぇさまは…


「なんじゃ?これまた随分な言い草で。こうしてようやく師に会えたのじゃ、もっと他に無いのかの?」


この企み顏で試す様な聞き方。


「ならこれでどうですか?…おねぇさん」


「む?おぉ、そうでなくてはな!ルフトよ!うむうむ!やはりこうでなくてはな!」


子供っぽく無邪気に飛び跳ねその肢体を遺憾なく見せつける俺の師ーーネフェンーー。


「では、わしもる日と同じく言わなくてはな」


そう言うとネフェンは軽く咳払いをして、ゆっくりと口を開く。


「ねぇさんでは無い。おねぇさまと呼べ」


にこりと柔和に笑った。





To be next story

いかがでしたかでしょうか。

本当は師に会った後、村まで行く予定だったのですが、そこまで入れると非常に長くなるので次回への持ち越しとなりました。

次の話ではルフトとネフェンに四人が加わり暫しの休息の後旅立つといった感じで構想しています。


それではまた次回お逢いしましょう。

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