俺とセラと小虎と新しい面子と
ごめんなさい!
前回に続き今回もまた決別の話じゃありません!
申し訳ないです!
約束は破ってしまいましたが、その分今回のお話は笑えるものとなっていると思うのでそれで勘弁してつかぁさい。
それではどうぞ!
「寝させると思っているのか‼︎‼︎」
微睡み始め、眠りへと誘われていた最中、扉の外から聞こえてきた声。
ドスの効いた恐ろしいその声の主は。
「て、テピュラスさん⁉︎」
俺の代わりに驚き声を上げてくれたセラ。
そう、声の主は俺やセラなどこの町に住んでいる冒険者らが厄介になっているギルドのマスター・テピュラスだ。
今日も相変わらずの怒髪天で、見てるだけで身体中がチクチクしてくる。
「うん?なんだ、セラも居たのか」
テピュラスは部屋に入り、声がした方を一瞥した。
その後、俺に顔を向け腕組みをして話し出す。
「まずは回復おめでとう、ルフト君」
「あざす。それで、どうしてここに?」
「ああ。実はだな、先程私が町の見回りと言う名の職務怠慢を行っていたところ」
「話を遮って悪いんスけど、自分で言うんスかそれ?見回りって言った意味なくないスか?」
職務怠慢と自ら口にしたテピュラス。
見回りと言う必要はあったのだろうか。
疑問に思いつい、突っ込んでしまった。
ちなみにテピュラスは見た目通りの性格で細かい事を気にしない事で有名だ。
なので、余程の悪さをしない限り笑って許してくれる。
よって、セラは兎も角、この町の殆どの人はテピュラスに対してタメ語か俺の様な言葉遣いをしている。
「うん?ああまぁ、君らになら構わんだろう。それで職務怠慢をしていたらだな、遠くの方で『起きた起きた!ルフトォォォオ!』と女性の声が聞こえたものだからこちらに来てみたんだ」
と、御丁寧に声色を変えてまで説明してくれた。
しかし、職務怠慢って言い切ったぞこの極道もどき。
が、それはいい。
今はそれよりも気になることがある。
俺は恐らくその原因であろう女性のいる方へ顔を向け…
「…………」(ダッ!)
速いな。
俺と目が合わない様、顔を背けたその女性は座っていた椅子から飛び出し部屋から出ようとした。
のだが…
「おっと、どこに行くんだね?」
その女性では屈強な肉体を持つテピュラスをどかすこと叶わず、誘導されるがまま元の位置に戻される。
「(ふるふるふる…)」
「一体どうしたんだ活発そうな少女よ?怯えた子犬が如く身体を震わせて」
「そうだぞ小虎。貴女も知ってるだろう、テピュラスさんの事は。この町を護っておられるテピュラスさ
んに失礼のない様にしなさい」
俺は涙目で震える小虎に対し注意をする。
「な、なぁルフト。なんで敬語になってるんだ?その、凄く怖いんだけど…」
言葉も震えてた。
「テピュラスさんの手前だぞ?敬語を使うのは当然と思うが?」
目上の、しかも毎日お世話になっている人の前で礼を失するわけにはいかない。
したがって、今の言葉遣いは正しいんだ。
それなのに小虎は何を言っているんだか。
「少し前にテピュラスさんと話していた時とは全然違うと思いますが…」
セラまでもがそんな事を言っている。
うん、それはきっと気のせいだ。
とりあえず、この話が終わったら小虎は説教だな。
「そんでテピュラスさん。どうしてここに来たんで?」
「(戻ってますね…)」
呟く声が聞こえたが気にしない。
「おお、そうだった」
そう言いテピュラスはオホン、と大仰な咳払いをする。
「此度のドラゴン討伐、実に大儀であった!よって此処に…は無理なので後ほどギルドにある私の部屋に来ると良い。そこで貴殿への報酬を進呈しよう!」
ただでさえ大きい声のテピュラスは一層、腹からの声を出し俺たちに告げた。
ん?ちょっとまて…!
「え、何?今回のそんな話になってたんスか⁉︎」
「えっ!そんな話になってたんですか⁉︎」
俺とセラの声が重なる。
いやいや、なんでセラは知らないんだよ。
「む?ああそうか、セラは結局討伐祝いの集まりに顔を出さなかったんだったな」
「は、はい。私にはやることがありましたから。…その節は申し訳ありませんでした」
真面目なセラは言い終わるとテピュラスに深く頭を下げる。
ああ、俺が昔の事を観てる間にそんな面白そうな出来事が…
と言うか、なんで主役がいないのに開いたんだそんなの。
俺が少し落ち込んでるとテピュラスはセラに掌を向け。
「がっはっは!そんな事は気にしなくていい」
と、なんの事もなく言ってのけた。
主役不在のお祝いとは一体なんなのか。
まぁ、俺たちを祝うものじゃ無いし問題は無いのか?
「それでだルフト、急かすようで悪いが今から私の部屋にある報酬を取りに来れんか?」
朗らかな表情から一転、テピュラスは困った顔でため息まじりに言った。
「それは別に構わないスけど…」
「どうしてでしょうか?」
俺の身体は痛くないとはいえまだまだダルさが残る。
出来れば明日以降がいいんだが…
二人で聞くとテピュラスはもう一度深くため息を吐き、沈んだ声で。
「他人の報酬をつかまえて言うのもなんなのだがな、良い加減部屋が狭くて敵わんのだ」
「と、言うと?」
「うむ。種明かしをすると今回の報酬は武具で、本部はこちらの事情も考えず丸々一式寄越してきたのだ」
テピュラスは窓の外を見ながら更に続けた。
「それに加え私の部屋は元々狭くてな。本棚と机とベッドを置いたら残りは私一人が横になる分のスペースしかないんだ」
言い終えたテピュラスは又も深いため息をつく。
遠くを見るテピュラスの瞳からは哀愁が感じられた。
一連のテピュラスの言動から、部屋がどういう状況なのかを何となく理解した俺は。
「分かりました。そういう事ならこのまま取りに行きますよ」
まぁ、どんな武具類なのか気になるし、だるいからと言っていつまでも寝てるわけにはいかないよな。
リハビリついでと思えばどうって事ないし。
「本当か、それは有り難い!」
俺の言葉を聞くや否や、子供の様に喜ぶテピュラスに俺は手を握られ(身体ごと)ブンブンされた。
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「ーーでだ、つまりあのクエスト依頼書は本来ならもっと手練れのいるギルドに回される筈だったんだ。が、何かの手違いであそこに貼ってあった。という訳だ」
ギルドへの道すがら、テピュラスから説明されたのをまとめると。
町外れにある洞窟の奥深くに住んでいるドラゴンが最近活発に動き出している。
という情報がテピュラスの下に来た。
それを危惧したテピュラスはこの町のギルド内幹部らと話し合い王都にクエスト依頼を送るため依頼書を制作する事にした。
その後、出来た依頼書を本来A級からS級の依頼書(このレベルのは基本的に王都へ送っているらしい)が入っている箱に入れておくはずだったのに、うっかりD級以下の依頼書が入っている箱に入れてしまった。
だそうな。
「いやぁ、大変面目無い!」
怒髪天をバリバリとかいてがっはっはと大笑いする極道もどきを見て俺は思った。
この町はもしかしたらもうダメかもしれない、と。
けれど、合点はいった。
A〜S級の依頼を達成すれば討伐祝いや本部からの報酬は元より、モノによっては王都にある城に召喚される事さえあるのだから。
「なールフト〜まだかー?」
「うん、まだまだかかるからお前は帰っていいぞ」
「ル、ルフトさん。嘘をつかないでください!小虎さん、後5分もあれば着きますから、それまでもう少
し我慢してくださいね?」
「は〜い」
気怠げに話しかけてきた小虎をテキトーにあしらうとセラに怒られてしまった。
つか、なんで小虎はついて来てるんだ?
「がっはっは!何だ何だルフト!君らを見てると中々面白いぞ!」
人目も気にせず大笑いするのは、俺の少し前を腕組みして歩いているテピュラス。
「は、はぁ。それは何よりで」
自分的には何も楽しくないので生返事で返した。
「なーセラ〜。おぶってくれよ〜」
「ちょ、抱きつかないで下さい小虎さん…!歩き辛いですよ」
背後で戯れる二人の声が聞こえる。
ホント、いつの間にあんな仲良くなったんだろうか。
「さて、ついたぞ」
テピュラスの一言で、気付けばそこにはここ数日ご無沙汰していたギルドがあった。
相も変わらずこの辺は人の行き来が激しい。
『ありゃりゃ?あそこにいんのテピュラスさんじゃね?』
『おおお、今日のテピュラス殿はいつにも増して滾った筋肉ですな』
ギルドに入ろうとしていた数名の冒険者や依頼主がテピュラスの存在に気付いたらしい。
「ふむ…表から入るのは些か目立つな」
そう言うとテピュラスは(こっちだ)と俺たちに手招きし、ギルドの裏手へと案内してくれた。
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「ようこそ。我が城へ」
「「「お邪魔しまーす」」」
ギルドの裏からテピュラスの部屋へと案内された俺たち。
テピュラスに『我が城へ』と案内されたはいいが…
「こ、これは結構な広さで…」
「あ、ああ。そうだろう…」
眼前に広がるのは大小の木箱で梱包された荷物が所狭しと置かれている物置の様な部屋。ここにある木箱、これの中身が今回の報酬、という事だろう。
「足の踏み場がありませんね…」
「だな…」
俺の両脇からセラと小虎の何とも言えない声が聞こえる。
「こっ、これが私の自慢の城…だ。遠慮なく座って…すまん!なんでもいいからこれを早く持って行ってくれ!」
どうにか体裁を保とうとしたテピュラスだったが、ここに来て本音が出たみたいだ。
いつものドスが効いた声は聞く影(見る影?)もなく、今にも泣きそうになっていた。
「そ、そうするか」
「ですね…」
「これはあんまりだもんな…」
俺、セラ、小虎は元いた宿まで手分けして報酬を運ぶことにした。
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「ふぅ、3人で行って正解だったな」
報酬を手分けして運んだ俺たちは元いた宿へ
「でっすね〜!いや〜ホント」
「5人で行って」
「「良かったな(でっすね)〜!」」
報酬とよく分からない連中を引き連れ帰っていた。
「これが今回の報酬でっすか〜!」
「一体何が入ってるんだろうなぁ」
「それ俺とセラの台詞な?」
「「そうか(でっすか)それはすまない(すいませ〜ん!)」」
この二人は会ってからこんな感じだ。
荷物を運んでいた俺たちの前に突然現れたかと思えば1人が「手伝いまっすよー」とか言って手分けして木箱を運び始めた。
最初は有り難たかったが…
「これ開けても良いでっすか〜?」
二人のうちの一人ーー空色のポニテを揺らしている少女は運び込んだ木箱を突いて、もう一人の襟足を短く切り揃えたボサボサで茶髪の少年に問いかける。
「良いんじゃ無いかな?」
そしてボサボサ髪は開封を了承した。
「良くないですからね⁉︎開けないで下さいよ⁉︎」
そう言い、今にも木箱を開けそうな少女に羽交締めの要領で抱きつきそこから引き剥がす。
「え〜」
「えー」
「え〜、じゃないですよ!」
セラは少女の背後に抱きついたまま二人と言い合いをしている。
結構面白いからこのままにしておこう。
とも思ったが。
「なぁおい、そっちの男の方。そろそろ名前くらい教えてくれても良いんじゃないか?」
いい加減気味が悪いのでボサボサ髪に誰なのかを聞く事にした。
「何?私の事を呼んだのか?」
少し不機嫌に応えるボサボサ髪は身体ごと俺の方に向け。
「そうだな、確かに。だが1つだけ訂正しろ」
人差し指を立て。
「私は女だ」
と、訂正して欲しい事を口にし…た…?
今なんて?
「「えっ⁉︎」」
俺の代わりにセラと小虎が声を上げる。
「ちなみに僕は男でっす!」
セラに抱きつかれたままのポニテ少女は前屈みで敬礼をしながら聞いてもいない事を教えてくれ…
は?
「ちょっちょっ、ちょっと待って!どーゆー事だ⁉︎」
小虎が大声を出した。
無理も無い、俺も今すぐ抗議したいくらいだ。
「えっと、あの、その…」
次第に思考がついて来たセラは、今、どんな状況なのかに気付き。
「あ、おねーさんが抱きついててくれると背中が柔らかくて気持ち〜から、ずっとこのままでもいーよ!」
少女…ではなく少年の一言で完全に我に返った。
【バッ】
「あっ…な〜んだ。つまーんなーい、もう離れちゃうの?」
その言葉を聞いたセラは一瞬で羽交締めを解き、側にいた小虎の背後に隠れる様にしてポニテを睨みつけた。
「ふっ、随分と嫌われたな、ナリ」
ボサボサ髪はポニテの方を見て吹き出している。
なるほど、ポニテの名前はナリと言うのか。
「お、驚いたな…でもまぁ、それはいい」
「良く無いですよ⁉︎」
「ちょっ、セラあんまり耳元で大きい声出さないで欲しいんだけど」
「あ…すいません…」
余程気に障ったらしい、セラは今日一番の大声で否定してきた。
その声量に少し恐怖を感じたのは内緒だ。
「そ、それじゃ話を戻すか。それで、お前らは誰だ?」
「…本当に覚えていないのか。思ってたより悲しいな」
どういう事だ?
彼…じゃなくて彼女の口振りだと、俺たちは面識があるらしい。
「そうだな、それでは自己紹介をしよう」
ナリが彼女の台詞を聞くと側に寄り。
「僕の名前はナリ!」
「私の名はフタ」
「「二人合わせてフタナ…」」
「やめろぉお‼︎」
俺はここぞとばかりに声を荒げ二人の口上を止めた。
「なんで止めるんでっすか〜⁉︎」
「ここからがいいところなんだが?」
二人が喰いかかる様に言ってくる。
「どうして止めたんですか?彼らの素性がわかるというのに」
「そうだぞルフト。オレも見たかった」
セラと小虎までもがそんな事を。
いやいや、何でも何も…
「それ以上はダメだからな‼︎」
「「「「え〜」」」」
「えー、じゃない!」
俺の叫びは窓から射す夕陽すらも切り裂いた事だろう。
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「さて、君らの名前は分かった」
俺はベッドに腰を掛ける。
「ですが、私の…少なくとも私がルフトさんの伴侶になってからは、あなた達と同じ名前の人にはあった事もその様な名前を聞いた事もありません」
先程よりも小虎の背後から少し顔を出して話すセラ。
驚きが引いてきたみたいだ。
「ちなみに、オレも知らないぜ」
「「あ、私(僕)も君は知らない(でっす)」
「いやいや、何でそこで涙目になるんだよ」
はっきりと言われたからだろうか。
小虎は泣きそうな顔になっている。
「ね〜フタ〜、思い出してくれそうもないから、もう僕らから言っちゃわない?」
「ふむ、そうだな。少し面倒にもなってきたし…答え合わせにするか」
フタから許可を得たナリは大喜びでジャンプし。
「やった〜!それじゃ僕から言っていい⁉︎」
俺の隣へちょこんと座った。
「あぁ、構わない。私よりも礼が言いたいだろうしな」
礼?
礼とはお礼の事だろうけど、何の事だか見当がつかない。
「何の事かわかんないって顔だね〜」
「仕方ないだろ。本当に覚えが無いんだから」
「それより顔がちけぇんだよ、ナリ」
小虎の言葉通り、ナリは俺の頬に口でも付けるのかと言うくらい接近している。
お陰で俺は隣を向けない。
「そっか〜〜…それじゃあ、思い出せる様にも〜一回、お姫様抱っこしてみる?」
言い終え俺の太ももの上にナリが座る。
「「なっ⁉︎」」
左から声が聞こえる。
突然俺の脚にナリが座って困惑したからだ…
まてよ、お姫様抱っこ…お姫様抱っこ……‼︎
「おま、ナリ!もしかして⁉︎」
「やっと思い出してくれた?」
太ももに座ったまま向かい合う形でこちらに向くナリ。
「って事は、フタは…‼︎」
「うむ。手柄は譲ったのでは無い。貴方への借し、だぞ?」
腕を組み微笑を浮かべるフタ。
「そうか…そうか‼︎良かった!」
「ちょ、ルフト⁉︎」
「何してるんですか⁉︎」
「ふはっ!良かったじゃ無いかナリ!もう一度して貰…あっはっは!」
「えっえっ⁉︎いや、も〜一回とは言ったけど!」
俺は気付くと同時にナリをお姫様抱っこした。
俺は体勢を変えないまま、未だ分かっていないセラに告げる。
「この二人はドラゴン討伐の原因を作った阿呆だよ‼︎」
「「そんな言い方ある(か)⁉︎」」
俺の言葉を聞いたセラは小虎の背後から飛び出し。
「ああ!思い出しました‼︎」
「「何でそれで思い出すの(んだ)‼︎」」
『さっきからうるせぇ‼︎他にも客はいるんだからもう少し静かにしろ‼︎』
喜びもひとしお、隣の部屋の人に怒られた。
ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー
「ーーと言う訳だ。挨拶に来るのが遅くなって申し訳ない」
「も〜し訳ありません」
二人は俺の目の前で軽く頭を下げる。
「良いさ良いさ!元気になってくれればそれで!」
「そうですよ。それに遅れた理由が理由ですから!」
二人は顔を上げ笑顔を綻ばせる。
そんな中、水を差すようで悪いけど、と小虎の声が聞こえた。
「な、なぁ。イマイチ状況が飲み込めないんだけど?」
小虎は未だに小首を傾げている。
「そうでしたね。まだ小虎さんにはお土産話しをしていませんでしたから。知らないのも無理はありません」
「要約すると、この二人がドラゴンにボッコボコにされてたから俺とセラが助けたんだ」
「あぁ!そーいう事か!だから討伐の理由を作った阿呆って訳だな!」
合点がいきポンッ、と手を叩いた小虎。
「だから、その言い方はやめて欲しいのだが…」
「と言っても、事実ですしね〜。否定出来無いのが辛いでっす」
悲しげに肩を落とす二人。
二人の落ち込む姿を見ているとついつい。
そんな事を言われてもな、事実なんだから仕方ない。
なんて、追い討ちをかけたくなってしまう。
けれど、俺はそんな事はしない。
「事実なんだからしょうがないよな〜」
何故なら、俺の代わりに言ってくれる馬鹿がいるからな。
「「うっ…」」
「ぷっ…くすす…!」
更に深く落ち込んだ二人を他所に笑いを堪える小虎。
何気にこいつクズだな。
「ま、まぁ。今日までに傷は癒えたんですから。終わり良ければ全て良し、です!」
セラが小虎の言葉を必死に補おうとするが。
「「うううっ…」」
「ええ⁉︎何故そこで落ち込むんですか⁉︎」
逆効果だったようだ。
「す、すまない…!本来なら傷が癒えるよりも先にあなた方に礼を、詫びを言いに来るのが道理!」
「それを僕達は疎かにしてしまいました!」
「い、いえ!そういう意味で言った訳では!」
話の流れがおかしい…
明るい雰囲気に影が見える。
「かくなる上は」
「僕達は」
「「自決するしか!」」
言い終えると、二人は同時に床へ正座し頭を垂れる。
って、何故そうなるんだ⁉︎
「よし、わかった!」
「小虎さんには何がわかったんですか⁉︎」
「まぁ、聞けって。ケホン!」
咳払いをし声を整える小虎。
「ま、まて小虎!」
嫌な予感がする。
俺の制止も聞かず、小虎はゆっくりと頭を下げた二人の前まで行き。
「恩義を用いて二人に命ずる。フタとナリ、自害せ…」
途端にバコッ‼︎という鈍い音が響いた。
驚いたな…
「小虎さん?いい加減にしてくれませんか…?お二人が困っていますよ?」
「痛った!ちょっ、何するんだセ…」
まさかセラから…
「何するんだ…?それよりも先に言うことがあるのではないですか?」
ここまでの…
「ご、ごめんなさい…」
殺気が放たれるなんて。
「謝るのは私にではなく、フタさんとナリさんにでしょう!」
ドラゴン討伐の時よりも強く放たれたセラの殺気は普段攻撃的な言葉遣いをする小虎を。
「ごめんなさい!フタごめんなさい!ナリごめんなさい!」
小虎は二人に対してもの凄い勢いでごめんなさいしている。
あの、粗暴な小虎をここまでにした。
「ダメです!もっとしっかり!何に対して謝っているのかを明確に!」
「オ…ワタシは別に何もしていないのに勝手なことばかり言ってごめんなさい!」
小虎の格好は所謂土下座の形で頭を下げている状態。
セラは頭を下げてはいないものの小虎の隣に正座している。
この状況、なんだか見たことがあるな。
「い、いやそんな!別に大したことではない!だろう、ナリ⁉︎」
「そうですよ〜!元はと言えば僕達が悪いんでっすし!だからもう、小虎ちゃんの事怒るのやめてくれませんか〜!」
あ、思い出した。
「ダメです!これは小虎さんの問題でもあるんです!これから小虎さんが同じことを繰り返さないようにしなければ行けません!」
「「ええっ⁉︎」」
何かを壊した子供を親が怒ったら、あまりにも怒りすぎて壊れた物の持ち主が『もう許してあげて!』って言うやつだ。
「わかった!一旦セラは俺の隣に座りなさい!」
「ですがルフトさん!」
「また隣の部屋の人に怒られるからな!」
「うっ…はい…」
どうにか冷静さを残していたセラは渋々といった感じで俺の横に座る。
まさかセラがキレるとここまで荒れ狂うとは思わなかった。
普段は見た目通りにお淑やかで言葉を荒げる事がないのに。
これからは怒らせない事にしよう。
ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー
「さて、フタとナリはこの後どうするんだ?」
荒ぶるセラが静まってから少しして皆んなが落ち着き始めた頃、外には夜の帳が下りていた。
「そうでっすね〜。この後は夜ご飯を食べて部屋に戻りますかね〜」
両手で足首を掴む様にしてあぐらを組んでいるナリ。
「でしたら、今からみんなで食べに行きませんか?」
俺の隣のセラがそんな提案をする。
「それは有難い!と、言いたいのだが私らは今、所持金が底をついていてマトモな物が食べられないのだ」
フタは「残念だ」と肩を落とすと「わっすれてましたぁ…」とナリが続けた。
「だったらルフトにでも奢ってもらえよ」
くぁ…とあくびをしながら小虎がそんな事を言う。
なるほど、それは良い考えだ。
「そうだな小虎の言う通り俺が…というか俺とセラの奢りで飯を食いに行こう!良いよなセラ?」
セラに視線を送ると笑顔で答えてくれた。
「いやしかしだな…」
「それは悪いでっすよ」
そう言って二人とも否定はしているが…
【ぐぎゅる】
「「・・・・・・(ぽっ)」」
「ははっ、身体は正直だな。それじゃこうしよう!フタからの借りを少しばかり返す為に飯を奢らせてくれ。これなら問題ないだろ?」
「そ〜言う事でしたら…」
「あれは冗だ…いや、お言葉に甘えさせて貰おう」
二人とも同意してくれた。
「それじゃ!メシ食いにいこーぜ!」
小虎を先頭に俺たちはいつもの酒場に向かって行った。
To be next story
いかがでしたか?
嘘つかれただけあった、そう思える様なお話でしたら幸いです。
それでは次回までサヨナラ。
(予告をしない)