日常
はるかとの電話をやや強引に切った後リビングに向かった真一は父に客間に来いと言われ不自然な空気感を感じながらも父と二人であまり使うことのない客間に腰かけた。
親父こんなところに呼び出して今日はどうしたんだ?いつもと同じリビングでよかっただろうに、と真一が先ほどの不自然な空気感を確かめるかのように父にそう訊ねた。
・・・父は無表情のまま何も言わない。
真一は父のこんな時の表情を知っている。父親が悪ふざけをするときか、深刻な話をするときかのどちらかだった。
さすがにこのタイミングで悪ふざけはしないだろうと真一は判断しいつもの軽口ではなく、なにかあったのか?と不安げな表情を浮かべながら父に問う。
すると父が口を開く。「すまん、お前の奨学金使っちまった。」
何かの聞き間違いだろうと、いつもの悪ふざけだろうと真一は思い込み、なんだそんなことか、大したことはない。
本当は何の話だ?と平静を装い再度聞きなおした。真一、すまない許してくれ。金は返す。だが学校に行くまでには間に合わないかもしれない。
そう聞かされ頭が真っ白になったようだった。いや、事実真っ白になっていたのかもしれない。
・・・俺の預けていた通帳を見せろ。親父。そこにはいつもの親しみを見せる真一の顔はなかった。
まるで他人を見下すような冷たい目を向けていた。
真一は滅多なことでは怒らない。ましてや自分のことでは感情を荒げることはなかった。
だが今ここで真一は実の父親に冷たい目をむけている。
父はそのことに腹を立ていよいよ口論にまで発展した。
この日を境に真一は父と一言もしゃべらなくなる。
父親との口論明け、翌日の昼真一ははるかとデートの約束で駅前に来ていた。
真一はいつもと変わらぬ様子で接していたがはるかは気づいた。
真一、なんかあったでしょ。真一は驚いた顔はださないものの心の中で感心していた、まさかこんなにはやく気づかれるとは、、。
真一はなんでもないよとはるかの頭を微笑みを浮かべながら撫でて目的地のゲームセンターに足取りを進めた。
真一たちの住む八雲市は田舎であり中高生がデートをするといったら大概ゲームセンターかショッピングモールなどでたまに隣町まで足を延ばす程度であったが、
このデートも数を重ねること数え切れずいつもと同じようにゲームセンターの写真を撮る機械のなかでキスをしている写真をとるというお決まりの行動をし、ゲームセンターを二人で後にした。
その後近くのカフェで時間を過ごしていると、見たことのある顔の二人組が店にはいってきた。同級生の石田と福島あきらだ。