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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
92/96

無形文化財がある

92.無形文化財がある


 当初私の内心の期待は、「ドイツの会社が日本に支店を作り、初代所長として自分が採用して貰う」というものであった。これで、失業から抜け出せる。しかし話は、「一緒に合弁会社を設立しよう、お前が社長になれ」となった。


 何せこっちは「陛下!」だから、相手が過大な期待を寄せたのだ。けれども、これは丁度好かったーーー、こっちは何でも過大が大好きで、遠慮するタチではない。胸をドンと叩いた:

「ワレに、任しとき!」 

 日本製の「張ったり」は、国際線でも有効。


 こうして翌日から、「ドイツの会社」対「私イチ個人」という形で、合弁会社設立の話がトントンと進んだ。王様とルンペンの提携みたいなものだから、当初大部分を王様側が出資し、私が「雇われ社長になる」話であった。が、出資と権利は五分五分であるべきだと、交渉の場で私は主張した。日本のカミサマは欲張るクセがある。


 確かに個人の私に、合弁するだけの資金は無かった。が、なに、「販売ノウハウとカミサマの実績」という無形文化財がこっちにはある。だから本当を言えば、こっち側が五分以上だと、一世一代の「たぶらかし」を展開し、譲らなかったのである。


 資金は親戚からかき集めれば何とかなる。万が一何ともならなければーーー、相手の社長から個人的に借金するアイデアも密かに視野に入れた。これは泥棒から金を借りるみたいに無茶な発想だが、勢いに乗った人間の自信ほど恐ろしいものは無い。自分という商品を売りつけるのに、私は値引きに応じるどころか、むしろ値上げをしたのだ。

何せ、神様であり陛下でもあるのだから。一旦安易な値引きをすれば、「ああ、その程度の器か」と見透かされる。


 とは言っても、欲をかき過ぎると話がこじれてご破算になるーーー:「そこの処は、後日改めてーーー」ともなれば、後日冷静になった相手が「やっぱり、や~めた」と土台をひっくり返すこともある。鉄を鍛えるみたいに物事はホットな時に打ち据えて、形が後戻り出来ないようにしておかないといけない。


 赤面症でシャイな人間とは到底思えないど厚かましさで、運命が開けるか滅亡するか乾坤一擲けんこんいってき、五人対一人の息詰まる大バクチであった。

 

 が、ついに相手方が折れ、結局無理とも見えたルンペンの主張が通った。今でも当時の会議室内の情景を、昨日の事のように鮮明に思い浮かべる事が出来る: 大きなテーブルを間に挟み「5:1」の交渉を進めながら、一種の奇跡が「目の前で起きつつある」と、そんな自覚が私にあった。「運命の星が輝く」瞬間をじっと眺めているような、不思議な感覚である。

 自ら運を引き寄せ、奇跡を手に取って目の前で眺める体験をした人は、そう多くはあるまい。


 トップ同士(=ワンマン社長とカミサマ)の話し合いだから、誰か他に相談する必要はない。問題や障害は次々と即決で解決され、小さな物事も順次決まって行った。未決の問題と言えば、合弁会社をどの場所に開設するか位なものであったが、それも取り敢えず仮に「私の住んでいる借家=本社」とした。こうしてほぼ五分五分の提携が、実現する運びになった。


 大阪空港から飛び立った男が、一週間後に疲れ切った風ではあったが、元気に帰って来た。帰着の第一声は:

「君は、今日から社長夫人だよ!」 

 女は男へ抱きついた。伊川谷神社は焼失を免れた。

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