チカメが悪化する
90. チカメが悪化する
それ以後新たな部署へ移動して案内する都度、私の指摘を一言半句も聞き漏らすまいと、心待ちする風に彼はペンを構えた。期待に応えて、こっちは何時も何か気の利いたセリフかアイデアを、その場で即興で述べなければならなくなった。躍起になり、視察する目は血まなこの程度が二倍となった。
根は神様ではなくただの人間なのだから、便利な魔法が使える筈もなく、「そりゃあ、あの時は内心で大いに焦ったさーーー」
因みに、筆者が工場で指摘したアイデア通りに、半年後「ポンプのタンクが赤色へと変更」となり、「直径100mmの代わりに、老眼でも目盛が見易いように160mmの巨大なサイズの油圧計」への改良が、実際に実現した。(こっちは自分の指摘をとっくに忘れていたのに)ゲルマン人は、自身が取ったメモ帳を決して忘れず実行に移したのだ。たまたま会社でも多方面での革新が急務とされていたのかも知れない。
「あんた、なかなかやるじゃないか!」と、経営者としての相手の優れた資質を筆者は見る思いがした。それ以後二人は互いの資質を認め合うようになる。
世の中にパーフェクトなものは存在しないから、その気になって目を張り神経を配れば、問題の無い処なんて無い。工場を視察しながら、筆者は大抵一部署に一つ位は問題点を見付け出し、感想を述べて改善を指摘した。それらは、死に物狂いで見付け出した成果だったのだが、口に出して言う時には、「未だ外にも沢山ある中の一つなんだけれどねーーー」と言うみたいに、何でもなさそうにさり気なく指摘した。そうやると、老練に見えたのだ。
後年、私の近眼が一段と劣化し、血圧が高めになったのは、この時の(問題を見つける)「血まなこ振り」と(必死に構えた)「さり気なさ演技」のせいである。




