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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
87/96

草深い田舎っぺ

87.草深い田舎っぺ


 飛行機が予定の朝一番の到着時刻より遅れて、既に昼近くになっていた。空港内で一緒に軽いランチを取ったが、その時の説明で、会社が70名位の工場なのを知った。眠気覚ましのコーヒーも済ませた。


 髭の営業マネジャーは車の助手席へ筆者を押し込むや、筆者のスーツケースの軽量さも助けになって、空飛ぶような速さでアウトバーンを突っ走った。高速道路は自己責任でスピード制限が無いから、日本とは違う。道路は片側五車線で障害物が少なかったせいで、一層加速したからF―1レースみたいな猛スピードだ。ボロ車だったから、タイヤの一つでも外れないかと肝を冷やしたが、お陰で寝不足の眠気が一度に消し飛んだ。


 一時間掛けて二時頃に到着した会社は、周りが草だらけの田園の中。「田舎っぺ」だなーーー、これは扱いやすい。


 会社のサイズの割には清潔で立派な応接室に通された。窓からは草が隠れてまるで見えなくなったから、大都会のオフィスに連れて来られたような錯角を覚えた。しばらく待たされて五名が現れた: 社長・取締役二名・先の営業マネジャー・通訳の女秘書。

痩せカンピンな一人を迎えるには充分過ぎる態勢である。筆者は英語しか出来ないし、五十年配の社長はドイツ語のみで、如何にも難しい顔つきをしていた。


 それでも、相手の五名の勢揃いを見た時、地球の裏側から十七時間掛けて飛来したのを評価してくれたようで、ともかくもゲルマン民族はヤマト民族へ礼儀を示した格好になった。何でも楽観的に考えるたちなので、筆者はこれを見て何とは無しに直感した:オレが勝つ!


 けれども、直感の当たらないのはよく経験する事だ。握手が済んでも、相手側はこっちをジロジロ眺め回して警戒を解かず、営業マネジャー1人を除いて、誰も三米以内に近づこうとしない。くちばしで突つかれるかも知れないと用心していたのだ。


 東洋のトップセールスマンと自称するくせに、「現実には(金が無さそうな)貧相な失業者」。神をかたるいかがわしいヤツ。頭のてっぺんから爪先まで、至る所が怪しい:「コイツは、詐欺師じゃあるまいか!?」 この推測の半分は当たっている。

 こっちの体の埃を払うみたいに、五対イチで質問攻めにした:


 先ず家族の事から、日本の販売の様子、販売マーケットの大きさ、月間の販売予想を次々と訊いた。失業した理由も尋ねられたから、「社長の座を狙って失敗し、首になった」と正直に応えたら笑われたが、信じたようだ。積極性を見たらしく、これが案外プラスになった。


 けれども彼らは、「この男は詐欺師か、本当に本物かどうか、死刑か無罪か」を、どうやって見極めようかと難儀していた。こっちも、何か「カミサマ振り」を証明するものがある訳では無い。何を語っても証拠がなく、実力・能力を示すものがないのだ。双方が戸惑った。


 相手は露骨に何でも訊ねた。筆者は沢山しゃべり、洗いざらい教えてやった。こういう時に大事なのは、外を飾ったり、無い物を有るかのようにウソを付くのは絶対に良くない。これはセールスマン時代の知恵でもあるが、無いなら無い、知らないなら知らないと、正直な方が相手の信頼を得やすいものだ。


 特に言葉が不自由な外国語で説明する訳だし、「5:1」で相手の懐へ飛び込んだも同然だから、下手な小細工を弄するのは厳禁。相手も会社の重役達なら人を見る目にかけてはプロなのだ。小手先の安っぽい誤魔化しは見透かされてしまう。相手の目を見て自信に満ちて話すべきで、一瞬であってもためらいを見せてはならない。


 そう書いたが、意識してうわべを飾らなくても筆者には自然な自信があった。トップセールスの実績がそれで、日本の業界で自分の右に出る人間は居ないと考えていたし、それが事実だと信じていたからだ。日本広しと言えども、ビジネスで提携出来るベストは一人しか居ない、それが自分だという自信だった。


 大事なのは、質問を受けたら相手が期待している以上の答えを出さいといけない。向こうが五を期待しているなら、その先を読んで八を応える。例えば神戸市の大きさを訊かれたら、単に「130万人です」でお仕舞にせず、プラスして「三菱重工業・川崎重工業・神戸製鋼所などの大手重工業がある中心地でもありますから、(お宅の製造する)XXX製品の見込み客が集中しています」位は言うべきだ。


 速やかに応えるのもコツで、十秒間でも考え込むなら遅い。(格好の良い答えを計算して)「創作したな」と相手に探られる。所謂、「打てば響く」必要があるから、なされる質問と会話は筆者にとって油断のならない緊迫感のあるもので、目の前の五名を「魅了出来るか」どうか、に掛かっていた。


 筆者へ様々な角度から質問した末、日本のスパイにしては正直で隠し事がなく、案外博学な男と考えたらしい。博学振りは「落ちこぼれ時代」の図書館での勉強の成果だから、案外何の知識でも無駄にはならない。最初の日の午後の半日は、こうして暮れた。

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