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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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ココ・シャネル

8. ココ・シャネル


☆女から貰った教訓⑦、を先に紹介しておく:

「女が期待するほど、男って強くないわよ。女たちは何でも辛抱できる。男はそうは行かないのよ。注射だって怖いんだから。女たちは素知らぬ顔で意地悪な事もやってのける。でも男たちは不器用なの。」(ココ・シャネル:世界的香水会社の創業者)


失業の話は滅入り勝ちだから、ココ・シャネルに倣って気分を少し変えよう。注射だって怖くないぞ! 当時の職探しの状況を、メドレー風にコミカルに以下へ紹介しよう。不幸にして現在失職している失意の読者がおれば、気分的に役立つかも知れない。

   *

(A社)コストダウンしてやるぞ!

 二部上場の外資系の中堅医療機器メーカーが、総務部のスタッフを募集していた。 名の知られたしっかりした会社だったが、事前に送った経歴書の審査にパスした。訪れると、広々した敷地内にあるのに、通されたのは窮屈な事務所。二人の面接官が出てきた。面接とは相手から鑑定されるのと同時に、こっちも相手を観る事になる。その意味では、こっちが中年ともなれば相手もやり難い。


 ニ言三言交わしただけで、「ここには、人物が居ないな」と筆者は感じた。急激に伸びていた会社だけに、人材と質が追いついていないのが察せられた。

 これはチャンスだ、こういう会社こそ筆者みたいな有能な人材が必要で、喉から手が出るほど欲しい筈。筆者は予め心準備していた「自分の考え」をとうとうと述べ、社の発展に欠かせない逸材だと訴えた。熱意に燃えた鼻息を熱風にして、面接官二人へ向かって吹き掛けた。120℃位はあった筈だ。


 面接官の一人は筆者より二つ三つ上の四十五・六で、採用されれば直属の上司になる筈だったのだろう。こっちの熱風にやられた彼の顔を眺めた時、私は内心で舌打ちした:「シマッターー、やり過ぎた!」


 案の定、数日後に郵便で不採用の通知を受け取った。理由は直ぐ判った: 筆者の顔には、「ワシがここへ入社したら、コストダウンの為に、先ずお前達二人から先にクビにしてやるぞ!」と書いてあったのだ。採用される道理が無い。 そもそも上司との関係はーーー、「親分・子分の関係になる」という基本をこっちが見落としていたからで、実に間の抜けた話だ。熱風を吹かす子分を好きな上司はいない。


☆教訓⑧: 相手が求めているのは、会社の発展に「必要な逸材」では決してない。ましてや、コストダウンの好きな社長候補を求めている訳でもない。ただ、羊のように従順なカバみたいなバカを一名欲しいだけ。自分が社長候補に相応しい有能な逸材だと考える「ど厚かましい」人間は、決して外資系会社の総務部に応募するな。


(B社)百点です!

 次に、大阪にある小さな鉄鋼問屋に応募して、見栄えのせぬ事務所で筆記テストを受けた。中学生向け程度の易しい算数の問題と英単語で、10分で終了した。面接官はつるりとした顔で、ひっかりがないような人だったが、こういうのに面接されるとスベリ易い。


 筆者が提出した答案を、目の前でさらさらと赤鉛筆で採点してから、「100点です!」と言った。すぐ続けて、「不採用にします!」と付け加えたから、要を得て何もかもが簡潔過ぎた。

 怪訝な顔の筆者へ、相手はボソリと応えた: 「100点を取るような人が、(仮に採用しても)ウチに居付くわけ無いじゃないですかーーー」

 まあそうかも知れないと考え、筆者は甚だ健康的なショックを受けた。


 ここでも先の外資系の総務部と同じで、上司をしのぐ(?)と思われる人には来て欲しくないのである。当たり前じゃないか!誰だって、自分の隣席にライバルが出現するのを望む人はいない。面接官がサラリーマンの場合、「会社の為」を考えて人を選ぶとは限らない。自分の為を考えて選ぶのである。


 この体験から:後年会社の経営者となった筆者が、採用人事の面接を今も余人に任せないのは、自分の受けた苦い体験を忘れないからである。会社にとって「本当に必要」で「最も有能な人材」は、「最も採用され難い」のを防ぐ為に外ならない。これは応募者を救いたい人情では決してない、会社が損をしないための損得勘定である。


☆教訓⑨: 筆記試験では決して満点を取るな、八十五点に押さえておけ。得点の高いのが勝ちなのは、学校だけ。


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