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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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アメリカのインデアン

79. アメリカのインデアン


 具体例を挙げる:先に登場した「キツネ目の女」は、夏の暑い日大手造船所M社を訪れた。大型舶用エンジンの製造工場である。ここでは完成した5万馬力のエンジンの性能テストを行う為に、エンジンと性能試験機を互いに超大型ボルトで連結する作業がある。


 5万馬力と言えば、何せ10万馬力の鉄腕アトムの半分という巨大さ。連結は半端な作業でなく、直径100mm(M100)の大型ボルト12本で強固に連結する必要がある。しかし、ここで彼女が、先のように「何か問題はありませんか?」と、もし愚問を尋ねたら、現場の製造課長はきっとこう応えるに違いない:


「親愛なるキツネ目の女史、ここに問題は何もないよ。二年前まではここの作業をするのは、実に大変だったんだよ。クレーンのオペレータを含めて5名の作業員が大ハンマーを振るって丸二日掛かってM100のボルトを締め付けていたんだ。死ぬほど大変な作業だったな、実際。誰も死ななかったけれどねーーー。


「思い切って一昨年前の春に予算を取って、大型油圧締結工具2台を導入してから、いやあ、アレは便利だね。今はそれを使って作業人数を5名から3名に減らせた上、二日の作業がたった一日で済むようになった。手間とコストが半分以下だ。お陰で問題は解決済みだよ、ワシの功績さ。ウワッハッハ、ケケケ、おとといおいで! 今日は暑いから海水浴に行きたいなあ」 


 やり手の課長は幸せな表情でにこやかに笑い、先の油圧締結工具導入の功績を自画自賛する → 問題の無い処に商品は売れない。こうして「アメリカのインデアン、ウソツカナイ!」の映画のせりふ通り、課長もウソをついておらず、彼女が訪問した時には、確かに問題は「解決済み」。富山の薬売りがやって来たときと同じで、腹痛は治っていた訳だ。


 「キツネ目の女」は、それから1ケ月後に同工場を再訪した。そこで実作業をしている現場を、たまたま目撃するチャンスに恵まれた:

 導入した油圧締結工具を、ちゃんと効果的に使用していた。先の課長が言った通り「3名で一日」へと作業が大幅に改善されていたが、それでも大変な作業には違いなかった。締め付けるべき直径100mmのボルトなんて数百キロもあるから、一本でさえ持てない。彼女の目には地獄の労働と映り母性本能が刺激され、作業員を「可愛そう」に思ったのである。


 けれども、あにはからんや、やっている作業員らは、自分達が可愛そうだとはビタ一文思っていない。何せ昔は「クレーン作業+5名で丸一日大ハンマー振りの大汗」だったから、それに比べたら間違いなく極楽仕事。もし3名の作業員に訊ねたら、ユーモアを混ぜてこう答えたに違いない:「親愛なるキツネ目の女史、ここは天国協同組合の極楽町支部だから、何も問題はないよ。以前に比べたら力作業が半分になり、助かる。楽過ぎて、女にだって出来るよ!」


 セールスマンが訪問した時、作業現場でも矢張り「問題は解決済み」。しかも場所は「天国・極楽町」と来ている → 再び、問題の無い処に商品は売れない。先の製造課長の言葉を裏付けただけで、彼ら全員は「問題が無い」と強固に主張して譲らない。ここでも「アメリカのインデアン、ウソつかない!」の通り。


 けれども、再度あにはからんや、流石に「キツネ目」の事だけはあった:女は、そのままの足で先の製造課長のデスクを再訪して、こう叱った:

「さっき工場でたまたま作業を拝見したところです。本人達は極楽町だとか浮かれていますが、私の目には、アノ重労働は地獄と変わらない。上司が、部下へあんなことをさせて良いものでしょうか? そこへY製品を使いなさいよ」と。子供を叱るみたいに、半分命令口調だったそうだ。


 寝ずに二晩考えた末、課長は女の言うY製品の導入を決心した。300万円の大型出費になったが、購入決定!なに、女に惚れたからではない、頭の切れるカミソリ課長は、損か得か自分の出世に役立つかどうか算数の計算をしたのだ。


 お蔭で、ボルトの締結作業は「3名で半日(=延べ12時間)」だったのが、「3名で、たった20分(=延べ1時間)」へと短縮された。その上締付け精度は三倍に上がった。「上には上」があったのである。地獄の作業者が楽になっただけでなく、人件費コストも1/10以下となり、改善は画期的!であった。極楽協同組合は直ちに解散となった。


 エンジンの種類は5万馬力だけでなく、3万馬力も7万馬力もあって、ボルトのサイズはぞれぞれ違うが、全てのエンジンテストのボルトが順次Y製品へと置き換わって行った。結果として、合わせて数千万円のY製品をこの部署だけで女は売り上げた。


 「問題は無い」のではなく初めっから「ソコにあった」のに、誰も気付かなかっただけ。女は「無い処」に、問題を自ら「創り出した」のである。この製造課長は後日きっと社内で出世したに違いない。キツネ目は「あげまん」。


 上は実例だが、こう言えば更に判りよいか:

 B子さんは医師の前で、のんびり構えて形の美しいオッパイを誇らしげに誇示する。妖しきフェロモンを撒き散らし、(男を悩殺する以外に)「問題は無いわ!」と本人は信じ切っている。が、ややヘンに歪んだ形を一瞥するだけで、手馴れた名医が、そこに潜む初期の乳がんを見て取る、のと同じ。「問題は無いわ!」どころでなく、初めっから「ソコにある」。


 このように、多くの顧客が自身の問題や悩みを「自覚していない」ものだ。気付いていない問題に「気付かせて上げる」のが、営業マンの仕事。だから、先に言った通り、コンサルタントなのである。「はは~ん、コンサルタントかあーーー」の意味が、芯まで分ってくれたろうか?

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