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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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匂いで分る

78. 匂いで分る


 セールスマン時代、筆者は(名人であり神様もどき?だったから)訪れた顧客の事務所の扉を開けた時の匂いで、売れるかどうか瞬時に判ったとうそぶいた。無論これにはウソがあるが、半分は本当。


 種を明かせば、事務所の扉を開ける事前に、脇の顧客の工場内をチラと眺めて、作業員が何をやっているのか・何を製造しているのかを盗み見ていた:「ああ、アノ辺りに問題がありそうだな」と、事前に道路の「穴ぼこ」に見当を付けていた。

だから事務所へ入った時、既に問題を「創り出して」いた:「あの三人でやっている熱交換器の組立作業は、大変だよなーーー、何とか一人でやれないものか? ボルト径はM48程度かな? 年間何基くらい組立てるのかなーーー」という具合にである。


 問題(穴ぼこ)の見当が付いているから、顧客とのとっぱなの会話は「何か問題はありませんか?」という質問形では始まらない。代わりに、こうなる:

「熱交換器のボルトの締め付けは大変ですよねーーー、サイズはM48位かな?」

「うん、実はそうなんだ、良く知って居るんだねえ」 逆に顧客の方が問題に「初めて」気が付いた風である。

「エヘヘ、ここへ入る前に、遠目でチラと目に入りました」 

 こうなれば、300万円がもう売れたも同然だ。


 にも拘わらず、鼻をくんくん言わせて入った事務所で、案に相違して、「要らないよ」とか「問題は無いよ」とか、「買う金は無い」と、無愛想にあしらわれる時はよくある。けれども、そんな時私は相手の言葉を殆ど信じず、自分の鼻を優先して信じた。

 だんご鼻は殆ど狂わず、長くても約一年というスパンを置けば、相手は実際に必ず買った。「道路の穴ぼこ」は誰が反対や拒否をしようが、遅かれ早かれ必ず埋められなければならないのを、筆者の鼻は知っていた。


 「買う・買わない」は筆者の意識では、顧客が決めるべき事柄ではなく、筆者が決める範疇と考えていた。この考えは奇妙に思うかもしれないが、先のソクラテスの原理を知っておれば、決して奇妙ではない。筆者は今でも自社の営業マンをこう叱るクセがある:

「その客が買うか買わないか、どうして君に判らないんだね?」

「ーーーー?」

「買うかどうか決めるのは、君だろうがーーー」

「(買うのを決めるのは客じゃないですかーーー??)」


「君が問題を見つけて、その解決の為に、Aの工具が必要だと考えるなら、相手が嫌だと言っても必ずそれを買う筈だよ。何故なら、「要るもの」なんだからな。そうだろ?」

「そりゃ、そうですがーーー」

「もし、その工場とって『Aは不必要な工具だ』と君自身が考えるなら、ソコヘ売るのは詐欺行為になる」

「ーーーー」

「必要な工具か、詐欺行為になるかどうか、決められないのは君が客の懐深く入り込んで問題(=道路の穴ぼこ)をちゃんと眺めてないからだろう。勘違いしちゃいけない!穴ぼこを発見するのは、客ではなく君の仕事なんだよ、君の」


 多くの場合、そもそも顧客というのは「自身の問題や悩み」(=穴ぼこ)に自分で「気付いていない」ものなのだ。だから顧客の言う「問題は何もないよ!」を、そのまま信じてはいけない。自分のまなこで確かめるのが大事で、玄関先の立ち話では何も見えない。穴ぼこは実際に自分が道路を走ってみないと見つからないのと同じで、顧客の台所まで入り込んで眺めまわして初めて分かる。


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