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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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共通のクセ

73. 共通のクセ


 筆者はどの顧客のどの商談でも、(意識せずに)断定的で指示的で、時に命令的であった。世のどんなセールスマンも必ず「そんな風な」語り掛けをするものと信じていた。 何故なら、ボルト締結工具に関する限り、こっちは紛れも無く「プロ」なのだし、顧客は「素人さん」なのだから、「そんな話し方」以外に一体どんな話し方があると言うのだろう?と思っていた。


 例えば学校の先生はプロだから、掛け算は「こうせよ」と生徒に教える。「君は、AとBとどちらの答えが好きかい? 正解を選んでご覧よ」なんて、訊ねやしない。真に奇妙だと思うが、実際にはそんな(筆者が当たり前とする)セールトークをやる人は殆ど居ない。これが自分で気付かなかった「筆者のクセ」であった。

 図らずもキツネ目の女も、同じクセである:「雪を使いなさい! 直ぐ東電社長に電話しなさい!」


 先の商談で筆者にラッキーだったのは、ライバルR社の営業マンが①のタイプ(=人類愛派:ウチには5種類の製品があります。お客さん、どの機種を希望されますか? 決めて下さい)だったからである。戦う前から相手会社は負けていた。


 もし「キツネ目の女」が先の同じ商談の場に臨んでおれば、KF社の担当者を「叱り飛ばす」事さえ平気でやったろう。医師が患者を諭すみたいに、である。セールス成功のコツが、ここにある。


 無論、客へ教授するのだと言っても、デリケートな口調とバランスは必要。小学校の先生が生徒に対するみたいには行かない。「キツネ目の女」みたいに顧客を「叱り飛ばす」か、筆者のように(相手のプライドを考えて)「柔らかい説得的な指摘に留める」かは、セールスマンのセンスと人柄に拠る。前者は効き目抜群だが、ヘタをこぐと外へ叩き出される。

 Y製品の販売記録保持者の彼女と昔のトップセールスの筆者の間には、そんな共通したクセがあった。けれども、男・女・人柄に違いがあるように、応用には微妙な違いがある。


 「叱り飛ばす」のは中年の女にしか出来ない芸当のようだ。不思議な事だが、何故か男の顧客はそうされても「不愉快にならない」ケースが多い。「叱る女」に(子供時代の)母親のような親しみを感じるからだ、としか思えない:逆らったら、母ちゃんに怒られるーーー。

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