天気予報じゃない
71. 天気予報じゃない
もし医者から、「ガンだと思いますから、手術しましょうよ?」と言われたら、貴方はその医者を信用するか、である。或いはこう言われたらどうだろう:「貴方のガンにはA・B・Cーーー五種類の手術法があります。どれにしましょうか?」
貴方はきっとこう言い返して怒る:
「ーーーだ思います」とは何だ! はっきりさせてくれ! それに「XXXしましょうよ?」の疑問形は何だ! こっちは、ガンかどうかで死に物狂いに心配なんだよ。アンタは医者で、プロじゃないか! 「思います」だとか、デパートみたいに「その中から択べ」なんて、天気予報や大安売りじゃあるまい。「感想」を聞きたいのじゃない、『明確な診断とキッチリした結論と、生き伸びる為に私がどうすべきか、専門家としての貴方の指示(=命令形)』を知りたい」
ビジネスの商談も、これと同じ。筆者の会社は300円のハンマーを売っているのではなく、専門技術製品だからだ。工場内で、顧客はボルトの締結問題で困っている。言い換えれば一種の、医者の前に座る患者と同じ。同時に、この患者は締結工具を購入する為に(命ではないけれども)百万円以上の大金を投じようとしている。買い間違ったり、選定ミスを犯したらクビが飛ばないまでも、社内での評価は下がるかも知れない。顧客が貴方に期待しているのは、300円のハンマーを買おうというランクの低い相談ではないのだ。
五種類の中でどの商品が自社工場の目的に沿い正しい選定か、「断定的な結論」と、出来れば反強制的な「指示・命令」を顧客は期待している。天気予報や競馬の予想を営業マンとやりたい訳ではない。もしそんな世間話をしたいのなら、そこは元々「見込み客」ではない事になってしまう。
「どれがベストか」アドバイスして欲しい、いやアドバイスどころじゃなく、客はプロである貴方に断定的に「決めて欲しい」。だから正解は④(=Dにしなさい、間違い無いから)以外には無い。イライラさせられながらも、筆者が「キツネ目の女」を評価するのはココ。
応募者の面接で④を答える人が殆どいないのは、殆どの人が断定を与えられるだけの、プロじゃないのだ。ならば、そんなプロの自信は何処から来るかーーー? 充分な商品知識? それは当然として必要だが、それだけでは強制する「命令形」までは使えない。女の言葉と社員の悪口を思い出して頂きたい:
・「この商品は、私と相性がいいのよ!」
・「暗がりでこっそり、女がこの商品へキスしているのを見た」
彼女は、商品を隅々まで「研究」していたのである。勉強家であった。次のもう一点は:「顧客がいま何をやっているのか、状況を根掘り葉掘り訊く」。そして問題解決の為に「一緒に考える」のが大事で、そこから最も合理的な結論に導くのだ。大切なのは「相手を知る事」だ。
孫子の兵法に示唆に富んだ有名な一節がある:「敵を知り己を知らば、百戦危うからず」 ここで敵とは顧客の事であり、己を知るとはセールスマンに充分な経験と知識があるという意味である。危うからずとは、受注確実という意味だ。
一般に言えば、曖昧で自信の無いセールスマンから、客は何百万円もの高額な商品を買いたいとは考えないし、相談も寄せて来ないもの。曖昧で自信の無い医者から治療を受けたいと思う患者が、居ないのと同じ。




