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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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寝ないか?

65. 寝ないか?


 そんな事がありながらやがて10ケ月程経つと、女の売り上げは徐々に伸び始めた。伸びたら伸びたで、周りの好意的でない目は妬みも混じえて、「女のくせに」とか「色気で商売する」とか、「バレンタインチョコを使って売る」などの陰口が付いて回った。ウチのような(男向きの)職場では、女というだけでハンデがある。露骨に現わさないが、本当は女より男の方が根はいやらしく嫉妬深いのだ。


 ハンデを克服する為に、「作り笑い」や「色気」や「チョコ」の小道具が役立つなら、女がそれを利用して何のバチが当たろうや? 私は内心で女を励ました: 「女の武器だろうが何だろうが、利用出来るものは精々利用すればよいじゃないか、何なら、口からウンコをしてみせてやるぜ。『建前と常識』でメシが食えるかい!」 少なくとも私は、そう考えるタイプである。自分も過去に似た気持ちを経験していた。


 逞しい一面もあった。 ある時「キツネ目の女」が社内で、同性の誼で若い女事務員と談笑しながら無遠慮な声を出していた:

「M重工の工場の現場に、ガラの悪い中年の班長がおってねえ。アンタのその二百五十万円の商品とやらを注文してやるから一晩寝ないか、と言うのよ」

「へえ、失礼よねえ!」と、若い女事務員が顔をしかめた。


 この会話を離れた処で耳に挟んだ私は、ヒヤリとした。案の定、直ぐに「キツネ目」の容赦の無い声が響いた:

「(寝るのは)『構わないけどさ、アンタじゃ、役不足だよ。 出世してから出直しておいで』と言い返してやったら、あのオッサン、赤い顔をしよったわ!」 

「ーーーー?」

「だって、出世するような出来の好い男なら、言われなくったって、こっちから寝たいよねえ!」

 女事務員は、開いた口が塞がらなかった。


 手裏剣の失敗で懲りていた私は、オッサンに同情した。やり込められたショックで、急性インポ(ED)になったかどうかまでは知らないが、勇ましい女の前で、木っ端微塵である。セクハラ・パワハラと騒ぎ立てる昨今の女とは、器の大きさが違った。


 そんな女の熱情が実らぬ筈はない:二年後に十数人の営業マンの中で、月間売り上げで時々社内No.1を飾るようになった。トップセールスマングループ入りである。


 男子営業マンと互角に並ぶのさえ難しいと思っていたのに、今や男達を睥睨し、社内の営業マンもスタッフらも、女へ一目も二目も置くようになった。誰も文句の付けようがない。文句を付けようものなら負け犬の遠吠え、反って「負け惜しみ」と見られて自分のマイナスになる。


 女の「角のある」振る舞いは以前と少しも変わらない。が、周りの苦情はなりを潜め、空気は侮蔑と嫉妬から、賛美と敬意へ急カーブを描いて変化した。棘だらけの性格さえ、余人に無い貴重な才能に思えた。キツネ特有の鋭い眼つきが透明な知性を感じさせ、それまで気づかなかった女の美が輝くようにさえ見えるようになったから、一部のマゾ好みの男子社員をゾクリとさせた。


 社員達は不思議がった:

「なぜ社長は、事前にこれが判っていたのかーーー!?」

 これを聴いて、私は内心で呟いた:「このタイプの人間を好意的に評価するのは、同じタイプの人間に限られるーーー」


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