手裏剣と忍者
63. 手裏剣と忍者
こうして女は入社した:
私は、女と名が付けば大抵の種類が好みだが、この「キツネ目の女」だけは数少ない例外の一つである。目の仕組みが気に入らないだけでなく、外にも何処と無く虫が好かない。
こんな予感は的中して、入社した途端から女は直ぐに全社員の鼻つまみとなった。性格がきつくズケズケ物を言い、万事に露骨で角があった。 半年も経たない内に、他の社員達から敵意を持って眺められた。 「何故あんなのを雇ったのか」と私は暗に責められ、「傍に居られるだけで、ムカツク」と、陰で言う男子社員もいた。
けれども「キツネ目の女」には、案外抵抗力というか免疫みたいなのがあって、四面楚歌を気にしている風には見えない。それまでの人生でそんな目に遭うのに慣れて来た風で、不感症なのも知れなかった。
他の社員から余りに嫌われるので流石に少し可哀想に思い、それとなく陰で女を庇うのは、私一人であった。庇う私に気付いて、ヘンに勘ぐる社員もいた:
「社長は狐に化かされている。何かーーーあの女ギツネと怪しいのでは?」
けれどもその疑いは直ぐに晴れた。 何故なら、庇ってくれる恩人に対しても、女は些かの手加減もしなかったからだ。恩を恩とも感じない、そんな嫌な性格なのだ。他の社員達の居る前で、私と大喧嘩をした事がある。女は上司である私を面罵した:
「アンタは、鬼か蛇か!」
これは社員が使う言葉ではない、鬼かヘビが使う言葉だ。
カチンと来たこっちも負けてはおらず、売り言葉に買い言葉で「何を小癪なっ!」と、手元のA4古紙を丸めるや、急ごしらえの手裏剣にしてバシッと投げ付けた。死ね! こんなキツネ女には、体罰と刑務所こそ必要である。が、忍者の如く鼻先でひょいとかわして、燃えるような目で逆に睨み返した:
「そんなヘロヘロ、当たるかい!」
「ヘロヘロだと!?」 インポを指摘された気がした。
ハラハラしながら一部始終を見ていた周りの社員らが、後で陰で言い合った:
「あの鬼社長の前で、他人( ひと)事ながら、ワシら凍りついたでーーー」




