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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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ニュートンとリンゴ

61. ニュートンとリンゴ


 となるとーーー、そもそも(「あげまん」になれる)「販売力」とは一体何か、となる。これが頭を悩ませた。筆者と社員たちの違いは何処か? 先のシゴキの研修の結果から、商品知識の差異でないのは確かであった。


 「熱意」の違いだと人は手軽にそんな理由を挙げ勝ちだが、これは怪しい。この言葉は、不明なものに取り合えず付けておく便利な名前みたいなもので、その曖昧さを筆者は嫌いだ。貴方の病気は、「怨霊のせいです」と言うヤブ医者と同じになる。近代医学では怨霊の事を「体質のせいです」と言うが、昔も今も原因が判からない時、取り敢えずそう呼ぶ。セールスの世界では体質の代わりに熱意と呼ぶ。


 実際に、首にした歴代の成績が悪かったダメ・セールスマンの実態を思い返してみると、「熱意」が不足していたようには見えなかった。それどころか、むしろ不成績を苦にして一層熱意を奮って励んでいるようにさえ見えた。この事実からも、「熱意」には関係が無さそうである。


 筆者とダメセールスマンの違いは、研修・商品知識・熱意や根性でもない、「別の何か」に原因がある。長いこと思案したが、鶏と卵が頭の中でぐるぐる回って収拾が付かず、とうとうーーー降参してしまった。販売力とは本当に「(あなたの)体質のせい」なのだろうかーーー? 無念だったが、筆者は販売方程式の「解法と定理」の実行を、社員に強制しなくなったのである。


 ワンマン社長によるシゴキから解放されて、もはやスルメになる心配は無くなったから、社員達は肩を叩き合って喜んだ:「世にスルメばかりが増えないから、お陰で生態系が破壊されないで済む。この会社は天国だ!」


 こうして、業界を二年で制圧する目論見は崩れ、「天国に住む社員達」を眺めて、経営者の悩みは深まった。念の為に失敗のプロセスを以下にまとめると:

起業して、「販売の定理」を全営業マンへ強制したが、上手く機能しなかった。

販売店へアプローチ(=プロポーズ)するのと、同行訪問(=デート)するプロセスまでは成功していた。けれども、その後販売店が次第に「離反して行った」(=破談)のである。

離反ならまだしも、以後はデートさえ向こうから断られてしまう。

そうなる原因は営業マン達の「商品知識不足」や「販売テク不足」ではなく、ましてや「熱意や根性の不足」でもなかった。

真の原因は社員達が「あげまん」になれなかったからで、つまりは社員らの「販売力の不足」にあった。それなら、「販売力」の正体とは一体何か? 


 セールスマン時代に筆者が人より商品を「多く売った」のは確かだが、何処が人と違っていたのか? 幾ら考えても判らない。おかしいと思うかもしれないが、世の中で一番判らないのは、自分自身だ。人の欠点は直ぐわかって揚げ足取りが出来るのに、自分の欠陥や優れた利点は分からない。分からなければ、困った事に人へ教えようがないのだ。


 自分という人間とは、子供の時分から何十年と付き合って来ただけに、自分のやる何もかもが「当たり前過ぎて、自分こそ常識そのもの」と、人は錯覚し勝ち。この「当たり前」へ疑いの目を向けるのが人間如何に難しいか、大分後になって判る。

 リンゴが木から落下するのは「当たり前」だが、ニュートンはこれを「当たり前」と見ずに、代りに万有引力を発見したのだから、やっぱり偉いものだ。


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