続く白い道
6. 続く白い道
技術屋で語学が出来たから、技術関係・品質管理・生産技術・輸出関係の仕事を希望していた。が、就活を開始して思い知らされるのは、具体的な特技が何も無い事。元の会社で頼りにされていると、如何にも有能だと本人も周りも錯覚する。けれども、「有能に見えた」のは、属する狭い村社会でしか通用しない「限定販売」なのだ。井の中の蛙とは、これ。
同じ会社へ定年まで棲んで居られれば、「有能=錯覚」のまま幸せな人生を全う出来る。が、途中で一旦外へ放り出されて世間の冷たい風に当れば、直ぐに風邪を引いて重症化する。
「会社のカンバン」という庇護があってこそ有能に「見える」ものなのだが、ちゃんと判っている会社員は少ない。取引先や外部の人は、「個人の能力」を評価しているのではなく、会社の「看板」しか見ていない。「ホンダ」のAさんであり、「パナソニック」のBさんだ。社名入りの名刺が無けりゃ、ただの中年のオッサンで、寄ってくればクサイだけ。
鋼材の疲労強度に詳しいとか、造船工学の専門家で大型貨物船の作り方が格別上手いだなんて誇示した処で、そんなワザが通用する所なんて、日本中に殆ど有りはしない。ワザの嵌所が無いからと言って、元野球選手がうどん屋を開業するみたいに畑違いな事をやっても大概みじめな失敗となる。ただ、一歩譲って、その失敗を真似ようにも、こっちには開業資金も無かった。
それでも、時々間違えたかのようにもの好きの数社から、面接許可の通知を受け取った。証券会社・医療機器会社・鉄鋼問屋・機械会社等へ中年のオッサンはノコノコ出掛けたが、結果は当りくじの無い外れで、ことごとく不採用。
鏡と睨めっこしたニタニタ笑いの練習の甲斐も無く、行けども行けども手応えが無い。砂漠の中で何も無い白々とした道が地平線まで続くように思え、世の中から見捨てられた気がした。
☆教訓④: 人生行路は何色かと訊かれて、白色だと答える人は幸せではない。