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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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従わねばクビ

58. 従わねばクビ


 起業をしてから、先の①~⑭の「定理の数々」を社員に教え込んだ。従わねばクビだ。定理の実行によって、全員がトップセールスマンになれば、たちまち競合他社(=当時五社、執筆中の現在は十二社が乱立)に追い付き・追い抜いて、二年以内に、いや、早ければ一年で日本統一が果せる。桶狭間に勝利した信長みたいに、勇気凛々筆者には確たる自信があった。己の真贋を試される時で、まっしぐらに進んだ。さて、結果と会社の運命や如何にーーー? 


 松下幸之助を初め、創業者というのは大概自分の成功を自画自賛するのが通例だが、慣例に反して正直に告白しよう: 自分でも信じられなかったのだが、先の「販売の定理」は、見事に失敗した。殆どの営業マンの成績は「並みかそれ以下」で、「特に成功する・しない」とはならなかったからだ。


 結果として潰れはしなかったが、会社は一年で他社に追いつけず、結局七年も掛かるはめになった。番狂わせも良い所で、経理を担当した配偶者は、金足らずで長い間会社の資金繰りに苦しめられたから、苦情を言った:「会社にお金が無くなったから、銀行強盗をして来て頂戴ーーー」

 こうして社長になったにも関わらず、筆者はかっての神の座から銀行強盗予備軍へ引き摺り下された。


 「販売方程式の解法」の失敗だなんてーーー、延々ここまで読ませやがって! 初めっから話はナンセンスだったじゃないかと読者に叱られそうである。筆者も頭を抱えてしまった。定理は、「落ちこぼれ」がたった一年でトップセールスへ駆け上がった実証的ノウハウで、実行は「極めて」易しい筈だった。それが機能しないなんてーーー、どこで間違えたろうか? 


 他社と同じならドングリの背比べになるから、日本経済伸長のお蔭を蒙って仮にウチが10%伸びて喜んだとしても、先輩他社も同時に10%伸びている勘定になる訳で、これでは永久に追いつけない。鳴かず飛ばずの「業界最下位」なら、遅かれ早かれ市場から消え去る運命にある、と有名なドラッカーの経営指南書が教えている。経営者に対して死刑の宣告みたいなもので、危機感を強めた。


 よくよく調べて分かったのは、社員達は表面上、クビにならない程度に私の命令に従う風を見せていた。が、それは形ばかりで実際には「定理」を、誰一人実行していなかったのが判明した。実に怪しからんヤツラで!、死刑にしなくてはならない。そう思って、更に調べて判ったのは:(やろうとしても)「実行出来なかった」というのが正しいのが分かった。


 思えば、前職の会社で他の同僚セールスマンが誰一人私のやり方を「真似なかった」のは、実はこっそり何人かは真似ようとしたのだろうが、結局実行してみて失敗していたようなのだ。失敗を黙っていたから、誰も真似をしなかったように見えただけだったらしい。


 社員達は④の「S工業の安井親分」に相当する販売店の営業マン達にモテなくて、「男同士の愛」を育めなかったのが、失敗の最大の原因と判明した。販売店から愛されなければ、デートの電話は掛からないし、それどころか、こっちからデートを持ち掛けてもやんわり袖にされる始末。

 販売店に同行しないから、⑫の「門前の小僧」は経を覚えられず、覚えないから「第二・第三の私」を作ろうにも作れない。結果、⑬の「熊手」のように見込み情報をかき集める事が出来ず、「定理」は無残な失敗になっていた。


 筆者の場合、販売店の人達からモテモテで、もて振りは近所のメス犬でさえ結婚したがった位だと、先に書いた。だのに、何故社員達は販売店の人にも、せめて犬にもモテないのか? 「筆者」と「社員達」の違いは一体何か? 


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