ホテルに行ける
38. ホテルに行ける
以後、他の販売店や代理店のどの営業マンと同行する時でも、ゼスチャーも含めて、筆者は説明のやり方を「寸分違わず、同じ」に統一するように心掛けた。同席する小僧がお経を覚えやすくする為だ。更にお経の中で使う言葉を意識して厳選した。一語一語に相手の説得に効果的な言葉を選び、「個性のある表現」を工夫した。小僧が真似をし易い為だった。
例えば、特徴を説明するのに、機器の目盛りのサイズが「大きくて見易いよ!」という平凡な説明の代わりに、「将来老眼になっても、大丈夫!」というキャチコピーをこしらえた。「なるほどーー」と客はうなった。小僧さんも覚えやすかった。
黄色と黒がまだらに混じったリモコンスイッチの色を示して、「虎のしっぽを踏まないように警戒色なんです!」のコピーを作り、「踏ん付けて勝手にスイッチが入ったら危ないですからねえ!」とやった。
他社と競合となった時でも、「相手製品はA部の機能が不充分です」とありきたりな言い方の代わりに、他社はA部に「手抜き工事している」のキャッチコピーを作り、悪い印象が一層悪く響くように顧客の心へ「語り掛ける」計算をした。言葉の効果と値打ちを研究して日頃からそんな言葉を収集し、「悪魔の言葉集」としてノートに書きとめ効果的に生かしたから、ライバル他社にとって筆者は扱いにくい存在となった。
もっと大切なのは、必ず何処かに「小さな笑い」を混ぜる工夫、つまりユーモアである。例えば、「(この工具を買えば)作業スピードが3倍速くなるから、大幅なコストダウンになる」という杓子定規な説明の代わりに、こうやった;「3時間の仕事がたった1時間で済む。浮いた2時間で彼女とホテルでやれるじゃないの!」。
これはウケて顧客は可笑しがった。同席した「門前の小僧」も一緒に笑った。
こんな場合、顧客より笑う小僧の方が一層大事。小僧が筆者の決まりきった「同じ説明」をせせら笑う度に、確実に「もう一人の筆者」が増えた勘定になるからだ。こんな工夫で、筆者の販売戦力が自動的に2倍・3倍となって行った。この作戦の意図を、門前の小僧達に「気取られない」ように展開し、筆者はピタゴラスの第五定理としてノートに密かにメモした:
「門前の小僧に経を教える法: 同じ話を繰り返し、説明の手順を決して変えるな。そして必ず笑いを一つ入れろ」 一種の催眠術であった。




