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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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口からウンコ

35. 口からウンコ


 こうして新人のドングリ目君と一緒に、プラスチック加工工場へ同行訪問するようになった。筆者が車でK社の店まで迎えに行き、彼は助手席に座って顧客の工場まで道案内する。夕方仕事が終わればK社まで彼を送り届けてやった。

 上げ膳据え膳とはこの事で、筆者は彼の「召使い」+「運転手・アッシー君」となった。口うるさい筆者の上役が、関西に常駐してなくて良かったと思う。知れば逆上して、こんな風に苦情を言ったろう:


「君は何をやってるんだ! もし車で送り迎えするとしたら、それをやるのは「肉盛り屋」のK社の側じゃないのかい? 60万円の販売マージンをやって未だ足らず、プラス「運転手がお迎え」とはねえーーー。あの課長は中華料理のフカヒレスープどころじゃない、食わせものだよ。君は騙されている!」

「ーーーー?」

「若いくせに、そのドングリ目とやらはまるで「泥棒+重役」じゃないか! 君も人がいいにも程がある。やる事為す事何もかも逆さまで、口からウンコをするようなものだ!」


 上役の言う通り、やり方は非常識だったかも知れない。今だから「非常識」と書いたけれども、当時の筆者にそんな認識は無かった。ただ情報を「かき集める」為に、その時々の最も効率が良いと思う方策を、採っていただけ。目的達成の為なら口からウンコであろうと、常識やメンツや世間体には拘らなかったのだ。


 筆者は、販売業界の商習慣や常識を知らなさ過ぎて、ある意味世間知らず。四十過ぎの男に営業手法を教える人など居なかったから、最も合理的と思うやり方を何でも独りで考え出さざるを得なかった。結果的に、業界の「悪い風習」や、「不合理な常識」に汚染されなかったと言える。


 例えば、見積書や商業文章の作り方一つにしても、独りで考え出した。当時は冒頭が「貴社益々ご清栄の段云々ーーー」で始まるのが常識だったビジネス文を、いきなり結論から先に書き始めるようにした:

トップの出だしは「A製品の価格はXXXです」。そして書信の最後の締めくくりは「どうぞよろしくお願いします」。これでお仕舞である。


 これはネットメールの時代に今でこそ当たり前になっているが、昔は「乱暴に見られ・非常識」とされたものである。筆者に言わせれば、三十数年以上も前に既にネット時代を先取りしていた。


 特に商業文は、順次番号を振りながら箇条書きにすれば、どんな込み入った内容でも要領よく説明が出来るし、間違いが起きない。受け取った側もNo. 6の点に付いては云々、残りの点は全て了承などと、的を絞った返事を返し易くなる。人はこういう事に案外気が付かない。ビジネス文章は漱石みたいな文学作品である必要はないのだ。今の時代では分かり切った事だが、当時は多くの人が伝統的な形式にこだわっていた。


 新聞を見給え、時候の挨拶から始まる記事は「一件たりとも」存在しない。新聞記事を真似て完結に書き、主語も出来るだけ省いた。同じ情報量を如何に短い文章で書くかを心掛けた。スピーデイに仕事を片付けるために、便利な筆者の発明の一つであった。


 余談だが企業経営では、一種の「非常識さ」が必要で、これが常識の「固定観念」を打ち破り、次の新しい発展へと繋がるケースが多いように思う。「肉盛り屋」での成功体験のお蔭で、「口からウンコ」(の非常識)と言われようとも気にしなかった。それどころか反って自分が「如何に常識外れか」を誇りにさえ思うヘンな体質が出来上がったのは、この辺りが原点である。



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