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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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油断している通用門

24. 油断している通用門


 その日の図書館は空いていたが、持参した昼弁当をつかっていて、うっかり湯呑をひっくり返した。あつあつのお茶を膝にこぼして、飛び上がった。鞭でひっぱたかれたようなショックを受け天啓が体を走り抜けた: 馬鹿野郎、目を覚ませ! 

 販売方程式の「解法第一」は、「直ぐ動け!」であった。


 取り合えず図書館から直ちに「出陣する決心」をした。昼弁当を終えるや、気持ちを引き締めて営業車に乗り込んだ。これが劇映画かTVドラマなら、勇ましく出世行進曲が鳴る処である。大倉山という小高い地にあった図書館を出て、そのまま海岸地区まで一気に南下した。そこは神戸の重工業地区である。


 この時の筆者の目には、追い詰められた人間特有の狂気が有ったかも知れない。昼過ぎの弛緩した時間帯だったせいで、途中でパトカーの巡回に出会わなかったのは幸いである。気が立っていたから、運転が荒っぽい。見咎められて職務質問でもされていたら、瞬間湯沸器みたいにカッとキレて、どんな振る舞いに及んだかと思うと、今でも冷や汗が出る。


 三十分も掛かって着いた処は、A重工業(神戸造船所)の通用門。船を造るから巨大工場である。初めからそこを目的にしていたのではない、図書館から南下したら、たまたまぶち当たっただけ。

 自分の仕事は、大径のボルトを油圧で締結する機械の販売。この巨大な造船工場内の「何処か」に締め付けるべき大径のボルトが、必ずや一本や二本、いや数百本以上は在る筈で、ただ、正確な在りかが判らないだけだ。これはバカでも推測はついた。


 やるべきは、広大な工場内のそんなボルトの「在りか」へ、行き着くのが先決。この方針は誰が考えても同じで、それから先は行き着いてから考えれば良い事だ。さて、行き着くにはどうしたら良いか?


 造船所の通用門は、個人の家の門とはケタが違う大きさ。人や車や大型トラックの出入りがひっきり無し。門番も一人や二人ではなく、屈強なのが数人動き回っている。この関所を通過するには、一々誰何すいかされ、検問を受けなければならない。うろんな返答でもすれば、拿捕されて江戸時代なら直ぐに縛り首ーーー。


 けれども、通行手形の無い人間が、目を血走らせて山上の図書館から下って来たのを誰も知らないから、門番達は油断して談笑しながらスキだらけではある。とは言え、こっちの不利は明らか。彼らは仕込み杖らしい警棒を腰に携え、走れば速そうな脚も気になった。


 関所の強行突破は勇ましいが、いや待てよーーー、万が一生け捕りにでもされて、大衆の面前で赤っ恥をかくとなると、流石にそれだけは高貴な血が許さない。通用門の前で少し冷静になると、血走った目もカラ元気も何処へやらーーー、日照りにあぶられた青菜みたいにしなびてしまった。


 やはりダメかーーー。仕方なく車を通用門から離れた場所へ移動させ、車から出て目立たないように通用門の近くに立ち、様子を伺った。門番にバレないように入構する手立てが無いものか、思案したのである。怪しまれないように時々車に戻り、時々は車を通用門の前から移動させた。こうしてその日の午後は暮れ、作戦は翌日に持ち越した。


(比呂よし)

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