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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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コロンボ刑事(2)

11. コロンボ刑事(2)


 そのまま暫く雑談をした。この時に男がしみじみとした口調で語った二つの言葉を今も覚えており、言い方には妙に実があった。面接した他の会社では聞いたことの無い親切な言葉で、これが後に生涯の宝になろうとは、思いもしなかった:

 一つは、「ねえ君、世の中には『手を添えてやれば』、売れないものは何も無いんだよーーー」と、

もう一つは、「人生に吹くのは何時も追い風、君がどっちを向くかだけさ」。


 「(この貴重なチャンスを逃すのは)君の為に本当に残念だーーー」という風に聞こえたし、「どうして何時までも、大学出の学歴に拘るのかね」とも聞こえた。何か光るものを筆者の中に見てくれたのだろうか? 筆者は黙って聞いていたが、男の云わんとする処に自ずと気付いた:


 「世の中には(その気になれば)売れるものが沢山ある。だから、儲け話はどこにでも転がっているんだよ。売る為に『添えるべき手』さえあればいいんだ。ワシには「その手」が身に付いてあるから、失業する事もなければ、誰の助けに頼らなくても、生涯食うに困る事態にはならないーーー。君もそう成り給え」 

 男は優れた哲学者であり、人生の指導者だった。


 筆者は味の良いケーキを頬張りながら直感で、セールスにかけてこの人は「達人なのだ」と感じた。同時に、一流大学を出ている人に違いないと推察した。「手を添えてやれば、世に売れぬものは無い」の短い言葉を、今も忘れずにいるのは筆者の中に「呼応する何か」があったからか? 何十年と過ぎた今でも、不思議な思いがする。


 話が相前後するが:

 図らずも後年、筆者は別の商品でセールスの世界に身を投じる事になるが、そこで何年か経って、塩たれた上着のコロンボ刑事の言葉を思い出した。その時初めて気付いたのは、「手を添えてやればーーー売れぬものは無い・人生は何時も追風」は凝縮された「セールスの極意」であった。


 例えば、スーパーマーケットで、棚に並べられた包丁は一日一本も売れるかどうかである。が、実演販売でキュウリをトントンと手際よく切って見せ、「こんなに切れ味抜群、浮気した旦那のアソコだってちょん切れるから、ソーセージにしてホットドックも作れるよ!」とやれば、同じ包丁が日に百本は売れる。同じ値段だのにーーー、である。今の私なら「手と口を添えて」、きっと100本以上を売ってみせると思う。


 品質こそ大事と人は思い勝ちだが、物が「売れるかどうか」は品質でも値段でもない。品質や値段だと考える向きは、未だ素人の域。商品に「寄り添い・手を添えてやれる」かどうか、これに尽きる。知る人は少ない。


 脱線ついでに言うが、現在ウチは輸入機械を売る販売会社だが、どんな商品が儲かるかなーーーと「売れ筋」を探すような事はやらない。それは他人の真似になるから、流行はやりが無くなれば自分も一緒にすたれてしまう。

 そうではなく、有用だが売るのが難しく、(だから)誰も売ろうと考えない商品へ「寄り添い・手を添えて」やる。これがコツで、「手を添えて」過去に売れなかった商品は殆ど無い。しかも流行品ではないから、競争が少ない為に儲かる。今でもこれを会社経営の根幹に据えている。


☆教訓⑭: 

 塩垂れた服装の「刑事コロンボ」は、セールスの達人だから粗略に扱うな。ポイントは「手を添える」。なに、易しい事だ、これが「追い風」となり人生を輝かせる。



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