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ケモノは夢を食べていた

作者: 枝葉末節

 夢を食らうケモノが居た。


 ケモノは毎日、夢を食べ続けた。


 悪夢はスパイスが効いている。


 瑞夢は甘く瑞々しい。


 食べる夢によって味が違うから、飽きることはない。


 来る日も来る日も、夢を食べ続けていた。


 ある時、ケモノはふと、夢を食べられるとはどういう気持ちなのだろうと気になった。


 ヒト、或いは、ニンゲン、と呼ばれる生き物。ソレらは夢を見る。そしてケモノがその夢を食べる。


 ヒトは夢を食べられても、ケモノを見ることは出来ない。


 ケモノはヒトの夢も食べられるし、一方的にヒトを見ることも出来る。


 だから、ヒトの姿を確認することなんて造作もなかった。


 ケモノは、試しに悪夢を食べてみた。ヒトは、どうなるのだろう。


 ヒトは少し前まで苦しそうだった。けど、悪夢を食べた途端すっと安らかな顔になった。


 ――何だ。むしろヒトにとって、夢を食べられるのは良いことじゃないか。


 ケモノは、次に瑞夢を食べてみた。ヒトは、きっとまた安らかな顔になるに違いないと。


 ヒトは安らかに眠っていた。けど、瑞夢を食べた途端、ひどく狼狽した顔で飛び起きた。


 どうしたのだろう。ケモノはその姿が気になって、しばらく見続ける。


 ヒトは幾ばくかきょろきょろと辺りを見渡していた。でも、突然泣き出してしまった。


 ――どうして?


 ケモノには、どうしてヒトが泣いたか分からなかった。


 悪夢を食べた時はあれほど安らかだったのに。


 どうして今は、泣いているのだろう。


 ケモノはしばらく考えた。


 ケモノはうんうん唸った。


 ケモノはとうぶん悩んだ。


 そのうち、ケモノはとうとう諦めた。


 ケモノには、そんなものを考える頭はなかった。


 ケモノには、感情を共有出来る誰かは居なかった。


 だから、ケモノはどうしてヒトが泣いてるか分からない。


 そうして、ケモノはいつものようにまた夢を食べ始めた。


 失う重みも。


 失くした喪失感も。


 ケモノはまったく知らなかった。


 ケモノはもう、食べられる側の気持ちなんて考えることはなかった。

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