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新しい世界で  作者: 潤
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真っ白な空間

目覚めると、真っ白な空間にいた。


「………っと」


起き上がって、辺りを見渡してみる。しかし何も見当たらない。それどころか見渡す限り白一面で、自分以外の物体は何も存在しなかった。


なんだこれは。






「気がついた?」


はっと我に返ると、目の前には青年が立っていた。彼は中性的な顔立ちをしており、顔の造形は美術品と見紛う程整っていた。普段なら見惚れるところなのだろうが、こんな訳の分からない場所にいる今の私にとっては気持ち悪く感じるものでしかない。



「ここは…一体何なの?私はなんでここに?」


「そうか、そこから説明しないとね」


彼はそう言ってふっと笑うと、絶望的な事実を告げた。




「端的に言おう、華桐理亜(はなぎりりあ)。君は死んだ。母親(・・)に殺されて」




嗚呼、そうだった。青年に言われて、最期の時を思い出す。











きっかけは覚えていないが、いつものように向こうが突っかかってきたことだけは確かだ。


『気持ち悪い!さっさと私の前からいなくなって!どうしてこんなに私を苛立たせるのよ!』


『知らない。貴女が勝手に疎んでいるだけでしょう。責任転嫁しないで』


『隆があんたのこと女として見てるの!もう私になんて見向きもしてない!これで何度目!?私の彼氏に色目使うの!』


『色目なんて使ってない。興味もないし。だいたい、貴女の恋人が毎度毎度移り気を起こすのは私のせいじゃない。貴女に魅力がないだけなんじゃないの』


『……してやる』


『え?』


『お前なんか殺してやる!死ね!』



そうして彼女は近くにあった剪定鋏を手に取り、そして……………………。











「……っはぁ、はぁ、はぁ、は」


思い出した、嫌だ、思い出したくなかった、目の前が真っ赤に染まって、赤、赤、赤赤赤赤赤………!


「大丈夫、落ち着いて」


青年はそう言うと、私の額に手をかざした。彼の手が柔らかい光を放ったかと思うと、その光は大きくなり私を包み込んだ。パニックに陥った私は、ようやくその光のおかげで落ち着きを取り戻した。




私が落ち着いたのを見計らって、彼はゆっくりと、そして優しく告げた。


君はね、(あるじ)に愛されているんだ。


彼の言うことによれば、私はその主様とやらを受け入れるだけの器を持っており、だからこそ主様は私を見守り、愛しているのだという。眉唾ものだ、そして笑うしかない。



「私、幽霊が見えたりしたことなんて一度もないし、トランス状態になったこともない。特別な力なんて持ってない。宗教も何も信じてなかった、無神論者だった!だいたい、もし本当にそうなら」





「どうして私はこんなにつらい人生を送らなきゃいけなかったの!」



叫んで、思わず涙が出た。そうだ、愛されていたなら、どうしてあんな人生だったのだろう。




肩で息をし俯く私を抱きしめると、青年はふっと笑った。



「君が今まで住んでいた世界はね、いろいろと歪んでいたんだ。主が干渉できないほどにね。世界はね、可能性の数だけ存在しているんだ。もちろん、ほとんどすべてに主は干渉できるんだけど、例外がいくつかある。まあ片手で数え切れるほどのものなんだけど。そのうちの一つが君が存在した世界というわけだ」


「神様って全知全能でなんでもできるんじゃないの…」


「主は神様ではないよ。人間ではないから、できることは規模も範囲も人間とは比べ物にならないけれどね」


「じゃあ一体何なのよ」


「さあ?僕は主の一部から成っている存在なんだけど、あくまでも一部にしか過ぎないから主のことは正直よく分からない」


「あぁ、だから『主』呼びなのね」


彼に抱きしめられ話を聞いているうちに、なんだか笑いが込み上げてきた。まだすべてが分かっているわけではない。むしろ分からないことしかないが、今考えても詮無きことなのだろう。



とりあえず彼の腕の中から離れ、話の続きを促す。


「君があの世界で死んだ事で、主は君に干渉できるようになった。主が望むことはただ一つ。君に幸せな人生を生きてもらうことだ」


「主様とやらの器だから?」


「違う。損得勘定抜きに幸せになってほしいと思ってるんだ。理由は…後で主から教えてもらえるんじゃないかな」


「なんだか適当ね」


はー、と深呼吸をしてみる。うん、少し気分が前向きになった。笑みがこぼれる。





「君は新しい世界で生きることを望む?」


優しく問いかけられ、私は少し考える。答えがわかっている質問のような気もするが。


気の許せる人なんて一人もいなかった。唯一安らげるのは一人でいるだけだった。寂しいと感じることはあまりなかったけれど、それでも時たま酷い虚脱感に襲われていた。今振り返っても嫌な人生だったなあと思う。楽しかったのは血の繋がった両親が生きていた間だけだ。




「そう、ね。もう少しマシな人生が送れるなら、まだ歩いてみたいな」


「そうか。じゃあ」



そう言って青年は私の背後を指差す。振り返ると、木のドアがあった。あちらから行けってことなのね。



「ありがとう。貴方のことはよく分からなかったけど話せてよかった。主様にありがとうって伝えておいて」


「わかった。きっと主も喜ぶ」



向き直って感謝の言葉を告げると、彼は美しく微笑んだ。さっきは彫刻のようだと思ったけれど、今は光り輝く美しい青年にしか見えない。心境の変化ってすごいなと思考を明後日の方向に飛躍させ思わず笑った。



ドアを開けると、向こうには虹色の空間があった。



綺麗な虹色。



昔両親と見た虹を思い出して、また涙がこぼれた。




「じゃあね、ありがとう」


「ああ」







そうして私は虹色の空間へ飛び込んだ。頬を伝う涙の感触を感じながら。

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