ツイテクル
コツ、コツ。
ザッ、ザッ。
歩く。
夕闇の中、独りで帰途に就いた。
自分以外の歩行者は、確認していない。
コツ・・・。
ザッ・・・。
振り返る。
誰もいない。
朱に藍が交わる夕暮れ、辺りはひっそりと静まり返っていた。
コツ、コツ。
ザッ、ザッ。
歩く。
おかしい。
自分の足音の他にもう一つ。
ココココ。
ザザザザ。
自然、急ぎ足となる。
そして、当然の如く。
ツイテクル。
ツイテクル。
ツイテクル。
藍が朱を負かし、宵闇の中。
跫は、ツイテクル。
自分の住まうアパートまでは、閑静な住宅街を逸れた、もの寂しい塀の続く道。
隠れる場所もない。
逃げ込む場所もない。
ただ一直線の道。
街灯は、ポツリポツリと、申し訳程度。
アパートまでは、徒歩15分。
しかし、このままアパートまで行きたくない。
アパート手前に、十字路。
左に住宅街、右はちょっと先にコンビニがある。
行き先を定め、一気に走る。
跫は、ツイテクル。
走る。
ツイテクル。
走る。
・・・?
跫が、止まった。
肩越しに、振り返る。
・・・何もない。
跫もない。
よかった。いなくなった・・。
前に視線を戻そうとして、真横を見てしまった。
目が合う。
ニヤリと嗤った・・・
「いやぁぁぁぁああああ」
谺する聲は、闇に呑み込まれた。
後には、脱げた片方のハイヒールと、赤黒い血溜まりだけが残った。