むりむりむり
ハーゲンが地面に転がり込むと、ようやくぴょんぴょんの効果が切れたのか、体が動きを止めた。
ぐったりと仰向けになり、彼は荒い息をつきながら天井を見上げる。
「……お前、本当にやりたい放題だな」
かすれた声でそうつぶやくハーゲン。
だが、その口元には怒りではなく、どこか呆れたような笑みが浮かんでいた。
リディアは手を合わせて「えへへ、ごめんね。だけど悪気はないの!」と笑いながら言った。
その無邪気な笑顔を前に、ハーゲンは思わず額に手を当てた。
「お前の悪気がなくても、俺の体はもうボロボロだっての……」
「じゃあ、治癒ポーション飲む?さっき新作を作ったばかりなんだよ!」とリディアはすぐにメリーちゃんの毛から小瓶を取り出し、彼の顔の前に差し出した。
「これね、ただ治るだけじゃなくて、飲むと気分もすっきりするんだ!名前は『ピカピカ元気ポーション』!」
ハーゲンは半ば投げやりに、「もう何でもいいからくれ……」と呟き、ポーションを受け取って一気に飲み干した。
すると、途端に全身に暖かさが広がり、疲れや痛みがすっと引いていく。
「……確かに効くな、これ」
体を起こしながらハーゲンは驚いたように自分の手を見つめた。
「気分も妙に軽い。お前、こんなものを一体どうやって……」
「でしょでしょ!」
リディアは得意げに胸を張る。
「ポーション作りは私の特技なんだよ。ちょっと変わったのばっかりだけどね!」
ハーゲンはしばらく彼女を見つめた後、小さくうなずいた。
「……その特技、やっぱり俺たち騎士団に必要だ。リディア、改めて頼む。俺たちに協力してくれないか?」
リディアはその言葉に、ぱっと笑顔を消して首を振った。
「ううん、私は嫌だよ。もうそういうのはやらないって決めたんだから」
その言葉にハーゲンは眉をひそめた。
「何かあったのか?お前の力は間違いなく人を助けられる。俺たちがどれだけそれを必要としているか――」
「うるさい!」
リディアは急に声を荒げた。彼女の表情は一変し、まるで怯えた小動物のような目でハーゲンを見つめた。
「もうそういうのは……怖いんだよ!」
ハーゲンは言葉を失い、リディアをじっと見つめた。彼女の無邪気さの裏に隠れた何かを、初めて垣間見た気がした。
沈黙が流れる中、リディアはメリーちゃんの背中に手を置き、少し震えた声で続けた。
「……私はもう自由でいたいの。好きなことをして、楽しく暮らしてたいだけ。だからお願い、もう追いかけないで」
ハーゲンは重い息を吐き、手を膝についた。
「……分かった。だが、俺はお前を諦めるつもりはない。お前の力が人を救えると信じてるからな」
リディアはその言葉に返事をせず、小さく肩を震わせながら、露店の品物を片付け始めた。
ハーゲンは立ち上がると、彼女に背を向けて歩き出した。
冒険者たちの視線が遠巻きに二人を見守っていたが、誰も何も言わない。
ただ、ハーゲンの重い足音だけがダンジョン内に響いていた。




