気がついた
通貨を手にしたリディアは、街の活気に満ちた露店へと足を運んだ。
普段の神殿での生活では考えられない自由に、心が躍る。
最初に向かったのは風船を売っている小さな露店。色とりどりの風船が風に揺れて、まるで生き物のようにふわふわと浮かんでいる。
リディアは手を伸ばし、赤い風船を手に取った。
「これ、ひとつください!」と、嬉しそうに笑顔を向けると、店主は快く風船を渡してくれた。
次に目に入ったのは、カラフルなロリポップキャンディ。
甘い香りに誘われるように、リディアはそのままキャンディを口にくわえた。
チュッと一口、さっぱりとした甘さが広がり、彼女は思わず笑みがこぼれる。
さらに歩みを進め、次に目に止まったのはビーズで作られたティアラ。
まるでおもちゃのように華やかな装飾が施されており、リディアはその場で頭に載せて鏡を見た。
「わあ、かわいい!」と鏡の中の自分を見て、しばらくうっとりと眺めていた。
まるでおとぎ話の中に迷い込んだような気分になり、リディアは次々と買い物を楽しんでいた。
しかし、ふと周囲の人々に目を向けると、思いもよらない光景が広がっていることに気がついた。
屋台の近くでは、数人の男性が軽く手を振ると、まるで空気のように野菜が空中に浮かび、包丁がまるで手足のように宙を舞って野菜を刻んでいる。
さらに、通りの向こうでは、女性が指先から淡い光を放ち、物を持ち上げたり、路地の奥で燻っていた煙をそっと集めて、手のひらに纏わせている様子が見えた。
「魔法……?」
リディアは目を見開いた。
神殿で学んだ魔法と違って、こちらの魔法はもっと自由で自然に使われている。
治癒やポーション作りは聖女だけの特権だと思っていたが、目の前で人々が魔法を気軽に使う姿に、思わず唖然としてしまった。
「これって……もしかして、私が知っていた世界じゃないの?」
リディアは頭に浮かんだ疑問を胸に秘めながら、街の風景を見渡した。
彼女の知っていた灰色の世界では、聖女が唯一の「魔法使い」だったはずだ。
神殿で過ごしてきた日々の中で、それは当然のことだと信じて疑わなかった。
しかし、今ここで目にしたのは、一般の人々が自由に魔法を使いこなしている光景だった。
自分が知っていた世界ではない、そう確信するのに時間はかからなかった。
この街の人々は、きっとリディアが育った灰色の世界とは異なる場所で生きているのだ。
魔法は特別なものではなく、ただの技術、または普通の力として存在している。
リディアは風船を軽く揺らしながら、しばらくその光景に見入っていた。
自分が今まで想像していた「世界」とは全く違う場所が広がっていることに、興奮とともに少しの戸惑いを感じた。
だがその一方で、彼女の心は新たな冒険への期待で満たされていた。




